モンゴル映画のイメージを一新!アダルトグッズショップが舞台の『セールス・ガール』ジャンチブドルジ・センゲドルジ監督インタビュー


 3月21日に閉幕した第17回大阪アジアン映画祭(OAFF2022)で、コンペティション部門作品としてジャンチブドルジ・センゲドルジ監督(モンゴル)の『セールス・ガール』が海外初上映された。

 両親の希望通りに理系学部で学びながらも、実は絵を描くのが好きなサルウルは、ひょんなことからアダルドグッズショップで店員のアルバイトをすることになる。個性的なオーナー、カティヤと交流する中で、サルウルの中で抑えていた気持ちが露わになり、新たな経験を重ねていく。一方、優雅な生活をしながらも孤独だったカティヤは、サルウルに性や人生について教えながらも、自分が癒されていることを感じるのだったが…。

 ヘッドフォンをして飄々と街を歩くサルウルの姿はまさに現代っ子そのものだが、カティヤといる時間が増えるにつれ、サルウルがどんどん輝いてくる。見事、薬師真珠賞を受賞した新星、バヤルツェツェグ・バヤルジャルガルの自然体な演技と、実力派俳優、エンフトール・オィドブジャムツの貫禄たっぷりな演技から目が離せない。ドラマを彩る音楽にも注目のコミカルで奥が深いヒューマンドラマだ。

 本作のジャンチブドルジ・センゲドルジ監督にリモートインタビューを行った。その内容をご紹介したい。



―――センゲドルジ監督のお父様はモンゴルで有名な俳優で、小さいころからよく映画をご覧になる環境だったそうですが、俳優ではなく、監督業を志した理由は?

センゲドルジ監督:俳優になるための学校のオーディションを受けたのですが、残念ながらうまくいかず、父から監督の方が向いているのではないかと勧められ、大学で映画制作を学んだことがきっかけですね。



■年齢が離れた俳優を選んだ理由は?

―――東欧で色鮮やかなアダルトグッズショップを見つけたことが着想のきっかけだそうですが、その主人公に年の離れた女性二人を据え、シスターフッド的要素のある物語を構築していますね。

センゲドルジ監督:まだ世の中のことを知らない若い女性と、人生でいろいろな出来事を経験した女性が、アダルトグッズショップを舞台に同じ場所でどんなリアクションをするか、どんな役割をするかを見せたかったので、年齢が離れた俳優を選びました。


―――アダルトグッズショップのオーナー、カティヤのバックグラウンドについて教えてください。

センゲドルジ監督:モンゴルが社会主義の時代はロシアからの影響が強く、モンゴルの産婦人科でロシアの医師や看護師もよく働いていたのです。ですから生まれた時に、出産を手伝ってくれた看護師の名前をつけるケースがよくありました。ですからロシア語の名前カティヤをニックネームとして使っているのです。彼女はロシアの教育を受け、ロシアの学校でバレーを学び、バレリーナーとして大成しました。つまり、彼女は自由でいることが大事で、自由な生活を謳歌する人なのです。日記に例えれば、すごく分厚く書かれている日記のような人で、アルバイトスタッフになったサルウルはまだまだ薄くて、書かれていることも少ない日記のような人と言えます。


―――カティヤを演じたエンフトール・オィドブジャムツさんは、圧巻の演技でした。

センゲドルジ監督:エンフトール・オィドブジャムツさんはモンゴル人ですが現在はドイツに住んでいる俳優です。アダルトグッズショップのオーナー役を提案し、脚本を読んでいただいて、ぜひ演じたいとモンゴルに戻ってきてくれました。カティヤ役は彼女の実年齢より20歳ほど上の老け役でしたが、見事貫禄たっぷりに演じてくれました。本人はもっと若く、美しい方なんですよ。



■一般の大学生300人から選ばれたバヤルジャルガルさんは「緊張せず、自分のスタイルで演技してくれた」

―――サルウル役のバヤルツェツェグ・バヤルジャルガルさんは現役の大学生で、オーディションで選んだそうですが、その決め手は?

センゲドルジ監督:俳優を目指して学んでいる学生ではなく、一般の大学生300人の中からオーディションで選びました。バヤルツェツェグ・バヤルジャルガルさんは、自分らしい、ありのままの演技をしてくださいました。緊張せず、自分のスタイルで演技してくれたのが、今回わたしが探していたサルウルのイメージにぴたりと合ったのです。


―――最初はおとなしい大学生だったサルウルがどんどん好奇心が前面に出るようになり、可愛くなっていくのを観ているのがとても楽しかったです。どのような演出をしたのですか?

センゲドルジ監督:メイクチームや衣装チームを統括し、サルウルの全体的なイメージや表情を作る担当者がおり、どこから順番にサルウルの見た目を変えていくかを計画的に考えてくれました。彼女が可愛くなり、オシャレになってくるほど、映画のカラーが明るくなり、段々と色鮮やかになるように、カラーグレーディングも計画的に行っています。



■音楽を担当したダルゴン氏は「将来性のある監督、ミュージシャン」

―――この作品は音楽も非常に魅力的で、担当されているDULGUUN Bayasgalanさんは自身がドキュメンタリー監督でもあるそうですね。

センゲドルジ監督:バンド、Magnolianのリーダー、ダルゴンさんは元々ドキュメンタリー映画監督ですが、これからは劇映画も撮っていきたいそうです。音楽活動では自ら作詞作曲を手がけますし、とても多彩な才能の持ち主です。ダルゴンさんはカナダの大学で映画制作を学んだ方で、映画ではすべての音楽を手がけ、本人が出演し、歌っています。とても将来性のある監督であり、ミュージシャンです。


―――女性が性のことをオープンに語るところも共感する点ですが、このような映画はモンゴルで今まであったのでしょうか?

センゲドルジ監督:女性を描く映画はありますが、女性がセックスのことを語ることは、本来は人生でなくてはならないものだけど、秘密のこととしてオープンには話さず、自分の中に留めるとか語るなら仲間内が多いですよね。それをオープンにした映画はモンゴルでは数少ないと思います。



■人間も動物も、本来の生活、生き方を思い出してほしい

―――映画全体に独特のユーモアセンスが溢れているのも本作の魅力ですね。最後に、二人の主人公の物語が進行する合間に、サルウルの韓国で俳優を目指そうとしている男友達と、いつも覇気がない飼い犬とのシーンが挿しこまれますが、このシーンを入れた意図は?

センゲドルジ監督:今はモンゴルのみならず、世界中でお互いに顔を合わせて交流したり、ボディタッチをしたりする機会が少なくなってしまいました。SNSでのコミュニケーションだけで満足してしまっているのが原因ではないかと思いますが、やはり実際に友達とは顔を合わせて会話するのが大事だということを伝えたいと思い、男友達を登場させました。そして飼い犬を登場させたのは、動物も生き物ですから生のコミュニケーションが必要なのに、人間はSNSだけで満足してしまい、動物にもそれが当たり前のように思ってしまっている。本当は他の犬と一緒に遊んだりしたいかもしれないのに、自分と同じ孤独な環境でいいと誤解しているところがあります。現代の社会問題として、人間も人間らしくないし、動物も動物らしくない生活をしていると思うのです。男友達と飼い犬の二つを同時に描くことで、もっと本来の生活、生き方を思い出してほしい。そういう気持ちで取り入れたシーンです。

(江口由美)


<作品紹介>

『セールス・ガール』 (2021年 モンゴル 123分)

監督・脚本:ジャンチブドルジ・センゲドルジ

出演:エンフトール・オィドブジャムツ、バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル


第17回大阪アジアン映画祭公式サイト

https://www.oaff.jp/2022/ja/index.html