「お客さまに希望や救いを持って映画館を出てもらいたい」『ブルーイマジン』松林麗監督と脚本の後藤美波、元町映画館で作品に込めた想いを語る


 性暴力やさまざまなハラスメント被害者の救済や共助を掲げるシェアハウスを舞台に、心に深い傷を負った女性たちの信念と連帯と葛藤を描いた青春群像劇『ブルーイマジン』が、4月6日(土)から元町映画館で2週間公開される。公開初日の上映後、本作のプロデューサーでもある松林麗監督と、急遽登壇が決定した脚本、プロデューサーの後藤美波さんが登壇し、舞台挨拶を行なった。

※写真右から後藤美波さん、松林麗監督、元町映画館石田涼さん


 元町映画館では『飢えたライオン』(17)で主演俳優として、『蒲田前奏曲』(20)ではプロデューサー兼出演者として舞台挨拶に登壇し、今回初監督作で3度目の登壇となる松林監督は、「『蒲田前奏曲』のとき、舞台挨拶でラッパーになりたいと言いましたが、監督になって帰ってきました。フィメールラッパーとして問題提起をし、訴えていきたいという気持ちです。オムニバス映画『蒲田前奏曲』はわたしの地元が蒲田市の近くで、(映画業界に身を置いている)自分の身近に起きたこと、聞いてきたこと体験したことを作品にしたいと思ったのがきっかけ。携わっていただいた4人の監督から引き継いだ前奏曲をわたしが引き継いで生まれた『ブルーイマジン』には、わたしたちの皮肉ラップが入っています」とプロデュース作『蒲田前奏曲』からつながる流れを語った。



 初タッグとなる後藤さんとは、脚本家を探しているときに東京フィルメックスで出会い、「会った瞬間にスカウト」したという松林監督。後藤さんも「麗さんは誕生日も近く、同い年で、こんなにご活躍されている人がいるんだと感激しました。コンセプト、キャラクター、シェアハウスがあることや群像劇にしたいということまでは決まっていました」とオファー当時のことを回想。まずは後藤さんが思う通りに脚本を書き、そこから議論を重ねていったという。

松林監督は、「(自身の)被害者意識を超えたかったので、美波さんの目線で社会を俯瞰して見てもらい、キャクターがどのように自身のトラウマを乗り越えていくのかを描いてもらいました。巣鴨に実在するシェアハウスを使いましたが、巣鴨は青鞜社のあった場所で、本当は伊藤野枝伝をやりたかったんです。でも現代の女性たちの連帯の話を作ることにした結果、『ブルーイマジン』が生まれました」と本作と青鞜社との関わりにも触れた。



司会の元町映画館石田さんより、「希望のある終わり方にしたのがよかった。分かり合えないかもしれないけれど、分かりあいたいと思う気持ちが出ていた」とストーリーの終わり方に話が及ぶと、特に議論を重ねたという記者会見のクライマックスシーンについてその狙いを明かした松林監督。

「もしわたしが加害者と対峙したらと『時計じかけのオレンジ』やタランティーノ作品のような血しぶきを飛ばすなど、さまざまな復讐のアイデアを考えましたが、暴力を暴力で返したくないし、対話の形をとって、知性で勝たなければいけないと思ったんです。美波さんが、お客さまに希望や救いを持って映画館を出てもらいたいと言ってくれました」と葛藤しながらたどり着いたシーンであることを語った。

さらに石田さんが「声を上げるだけでもとても労力がいるのに、(自分が)しんどいことを映画にして人に見せるというのは、とんでもないことをやってくれたと思うし、一人でも多くの人に見ていただきたい」と映画館として上映するという形で連帯していく気持ちを表明すると、

松林監督も「声を上げるということは、怒ることであり、自分の当事者性を見つけること。人それぞれに戦い方はあり、それぞれが生き延びなければいけないという当事者性もあります。わたしは今まで自分が映画で救われてきたので、この問題で当事者性をみつけ、(映画を作ることで)それを掘る作業をしていき、海外でも認められる映画を作って上映することは、自分が生き延びるためにも必要です。誰かを救う前に、自分自身を救ってあげたいし、主人公の乃愛を救ってあげたい。SNSで声を上げやすくなりましたが、怒ってばかりで交われないので、連帯って何だろうと考えていきたい」と本作を作る過程での心境や、今も考え続けていることを明かした。

最後に、

「書店の1003さんでは、『ブルーイマジン』を観て選んでくださったフェミニズム本を紹介してくださっています。映画を良かったと思ってくださったら、周りの方に勧めてください」(松林)

「元町映画館に以前から伺いたいと思っていましたが、今日初めてお邪魔させていただき、みなさまとお会いできうれしいです。主演の山口まゆさんもSNSをチェックしてくださっているので、応援コメントをぜひお寄せください」(後藤)

と挨拶し、作品への支援を呼びかけた。



 この日は『ブルーイマジン』とのタイアップ企画「観読往来」を開催中の書店、1003さんにスタッフと訪れ、店主の奥村千織さんと作品の感想や、企画の感想を意見交換しあったゲストのお二人。映画『ブルーイマジン』から上映、関連企画と、神戸のそれぞれの場所で連帯の輪が広がっている。ぜひ、その輪をさらに観客のみなさんによって広げてほしい。

映画『ブルーイマジン』は、4月19日(金)まで元町映画館で上映中。以降、全国順次公開。1003さんの「観読往来」も4月19日(金)まで開催(12時から19時、定休日なし)。

(江口由美)