第九市民合唱団に密着した笑いと歓喜の人生賛歌『ルートヴィヒに恋して』、姫路完成披露試写会でキムソヨン監督、思いを語る。


今や日本の年末の風物詩となった「第九」。ベートーベンが平和への祈りを込め、耳が聞こえなくなった晩年に生み出した最高傑作を、日本ではプロのオーケストラと一緒に、市民が歌っている。他国では例を見ない日本での第九の浸透ぶりや、第九が歌い継がれていく姿に着目し、関西を代表する姫路第九合唱団、神戸フロイデ合唱団に密着。市民が第九と向き合う日常や、第九への思い、演奏会までの道のりを、姫路の四季の情景を織り交ぜながら描いたドキュメンタリー映画『ルートヴィヒに恋して』が、2月23日(土)より元町映画館で先行ロードショーされる。  



監督は、前作『空色の故郷』(00)で、アジアのピカソと呼ばれる画家シン・スンナムを取り上げると共に、ウラジオストクから強制移住させられた朝鮮人の歴史に迫ったキムソヨン。現在神戸に在住しているソヨン監督は、2014年に企画を立ち上げ、2015年から姫路第九合唱団の練習に1年間密着。姫路第九合唱団、神戸フロイデ合唱団のメンバーにも取材を重ね、膨大な映像を吟味しながら自ら編集に携わり、試行錯誤を重ねながらようやく完成にこぎつけた渾身作だ。整音は『万引き家族』の冨田和彦。もう一つの主役である歌声の数々の響きにも注目したい音楽映画でもある。 


2019年1月6日、姫路のあいめっせホールで開催された完成披露試写会では、映画完成支援プロジェクト賛同者(クラウドファンディング参加者)や、映画で登場する姫路第九合唱団、神戸フロイデ合唱団のみなさん、また練習や演奏会で合唱団を指導、共に演奏したみなさんが会場に集合。受付で「お久しぶりです!」と次々に訪れる来場者を出迎えるソヨン監督の姿から、映画を観る前ながら、撮影で密な人間関係を作り、皆さんが映画の完成を待ちわびていたことが伝わってきた。 



上映後に登壇したキムソヨン監督は、サプライズでの花束贈呈に感極まって涙しながらも、 「撮影以降、長い時間をお待たせしました。皆さんのあたたかいご協力と支えのおかげで今日、ついに映画の初公開を迎えることができましたこと、心から感謝を申し上げます。2014年に初企画をし、15年に姫路労音の事務局に伺ってから1年ぐらい撮影。その後から地獄の編集でした。2つの合唱団だけで420人いらっしゃり、みなさん、自分の人生物語を持っておられますから。そこから絞り込み、その方の人生にみなさんの人生を凝縮させました」と挨拶。観客からの質問に答えた。その内容をご紹介したい。 


―――1年間の編集は本当に厳しく、夢の中でも編集していたそうだが、楽しかったことは?

 ソヨン:編集の神様がいきなり訪れて、これをこうしてと言ってくれることもあり、それはうれしかったです。(劇映画のように)シナリオ上で編集するわけではありませんから、壁にぶつかる時はたくさんあります。色々な方の物語を第九という一つの柱を中心に組み合わせる。強い個性を持つみなさんの物語を、根気よく組み合わせるのが本当に難しかったです。 


―――多くの団員から絞り込んでインタビューされているが、「このご家族ならば、こういう話が聞けるだろう」というインスピレーションがあったのですか? 

ソヨン:練習会場で練習を観察したり、みなさんが書いてくださったフロイドニュースの投稿を見たり、色々な方の日常を撮っていました。その中で、自己表現力のある人を探したのです。みなさんは自己を表現する才能があるから第九の舞台に立っているわけですが、カメラを前にするとまた別の話になってしまう。その中で、カメラを前に緊張しない方が必要でした。実は皆、緊張されるのですが、何回もやり直しをする中で、お互いの情が生まれ、お互いの壁が崩れる。ドキュメンタリー映画はその長い時間が必要です。最初から誰を撮るか分かっているのではなく、絞って、絞って、自分が構成する映画の流れに合わせていきました。


 ―――あえて第九の本番ではなく、フラッシュモブを挿入した意図は? 

ソヨン:1時間に及ぶ第九の演奏会で、市民合唱団の皆さんが合唱し、輝く時間は10〜15分ぐらい。ほとんどプロのソリストとオーケストラが輝く舞台です。市民合唱団の皆さんが、日常の中で大切に育ててきた第九という花の種を、どんな風に蒔き、大切に育てているのか。市民合唱団の人たちにとって第九が生まれるのは日常の場であり、工夫して生み出した空き時間から育まれるのです。それを表現したかったので、コンサートホールではなく、日常の中で披露したい。その場所は色々な人の生き様が混ざり合っている日常の街であり、そこでラストシーンを撮ろうと思いました。 クラッシック演奏会は敷居が高いと思っていらっしゃる人が多いですが、それを日常に置くとクラッシックの持つ重たいイメージを柔らかく捉えられる。日常の中に音楽があること、それこそが音楽という芸術のあり方であるという意図で、フラッシュモブを起用しています。



最後にソヨン監督は感謝の言葉として 

「2014年の企画から撮影、クラウドファンディング、試写会まで姫路労音(姫路第九合唱団)のご協力がなければ、この日はなかった。神戸フロイデ合唱団の方もたくさん登場していただき、美しいハーモニーを響かせてくださった。『一人は全体のために!全体は一人のために!』というような気持ちで合唱団を長年、支えていらっしゃる姫路労音の皆様の熱情に本当に感動しました!撮影への細かいご協力とあたたかい思いやり、長い時間がかかりましたフラッシュ・モブの練習まで、本当に感謝の気持ちで一杯です。労音の皆様の支えのおかげで、この映画は完成ができ、この世の中に生まれたと思います。皆様、本当にありがとうございました!」と挨拶。 


締めくくりに、第九が現在から未来まで歌い継がれる意味について 

「ベートーベンが第九をこの世の中に投げかけることにより、みなさんが第九を歌っている。それがきっかけになって過去から現在、現在から未来まで歌い継がれるでしょう。ベートーベンがこの世の中に投げかけた第九という種は、人と人との間に生まれ、花を咲き、その花は人と人との間につながりを生み出しているのではないかと思います。そのつながりが皆さんの生を豊かにすることで、幸せを感じ、その幸せが回りに広がることで、家族が、社会が、世界が幸せになっていけば、憎しみから生まれる戦争というものも、いつかはなくなるのではないかなと、、、そんな夢を見てます。その時が来るまで、皆さん!第九を歌い続けてください! 」

と語り、第九を通して平和な世の中になることを願った。 第九の魅力はもちろんのこと、第九に魅せられた市民団員たちの生き様は、人生を豊かにするヒントを与えてもらっているようだ。世代を超えて感動を共有できる第九合唱の舞台裏にぜひ触れてほしい。

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最後に、出演者の撮影エピソード、映画の感想をいくつかご紹介したい。 


姫路第九合唱団員 吉川さん(風呂場での練習シーンが登場) 「ヌードで撮ってもらいました。本当に素晴らしい映画ですが、しいてあげれば、僕のヌードのシーンを由美かおるさんに変えていただければ(笑)」 


姫路第九合唱団指導 井上先生 「練習風景をどういう風にまとめられるかと思いましたが、見事に楽しく作っていただき、お礼を申し上げます」  


姫路第九合唱団指導 坂下先生 「いつもは指揮者として対峙していましたが、一人一人がこんなに苦労をし、一生懸命歌っていらっしゃるとわかり、感動しました。音程が違う!と思うこともありますが、本番まで頑張って素晴らしい演奏を作り上げられた。ベートーベンもそういうことを望んでいたのではないか。音楽の特別な教育を受けた人だけでなく、きちんと練習をした人に歌ってもらえるように作っている。だから、いいものができるのだと思います。ここ2〜3年世界がトランプ大統領の登場や、ヘイトスピーチで溢れ、1930年代と同じムードになっています。こういう映画を作って多くの人に見てもらえるのがいいのではないでしょうか」  


元神戸フロイデ合唱団員 井上さん 「ドキュメンタリー映画で2時間を超える映画を見たことがなかったので、どうなるのかと本当に興味を持っていたのですが、出だしで見事に庶民的なところから始まり、こういう風にするのかと、本当に感動しました。娘とのシーンは本当に恥ずかしいですが、多少(映画の)お役に立てたかなと思います」 


姫路第九合唱団員 德丸さん 「第九というものがこんな音楽だったんだなと感動して涙が出ました。音楽の使い方が素晴らしいです。インタビューを受けた時に、なぜ第九をずっと歌い続けているのかと聞かれ、四季の移り変わりの中に、生活に染み込んでいるとお伝えしましたが、収穫の場面、秋がきて冬が来るという情景も入れていらして、私が話したことを耳に止めてくださっていたのかなと。ソヨン監督は、第九に対する洞察が私たち以上に深く、そこまで分かった上で撮影されているのだなと皆で話していました」 

姫路第九合唱団員 大脇さん(故大脇先生の奥さま。映画では大脇先生が余命宣告を受けながら練習、舞台に立つ様子が登場) 「個人的な意味でもこの映画に出会え、恋しい人(夫)に会えて涙しました。第九の値打ち、素晴らしさによく目をつけられ、ドキュメンタリーを思いつかれたソヨン監督がすごいと思いました。労音や第九を愛する人にとって、宝物になる映画になりました。世界にも発信できる映画になっていると思います。 私は長いこと夫が第九に打ち込んでいて、なぜそこまでやるのかわからなかったのですが、2015年に夫が自分の病気のことをこんな風にしゃべったんだな、すごいなと思いました。その年は歌えたのですが、次の年は最後かと思い胸いっぱいでした、その次の年は車椅子を押し、初めて自分が参加して、ベートーベンが訴えている音楽の深い意味がわかる気がしましたし、歌うと皆心が一つになりました。夫がいなくなった後も2回参加しましたが、夫も一緒に歌っているようなすごい感動がありました。その思いが映画にまとめられているなと思いました。映画の完成がとてもうれしいです」 


元神戸フロイデ合唱団員 明石さん(子犬と歌う場面が登場) 「映画完成おめでとうございます。愛犬くーちゃんが昨年の9月の終わりに亡くなり、もしかしてくーちゃんに会えるかなと思って来たら、会えて涙してしまいました。くーちゃんが居眠りしているシーンも笑っていただいて。実は子供の頃の夢が舞台女優でしたが、その夢を叶えることができました」 


姫路第九合唱団員 壺阪さん(「ベートーベンが聞いたら、ちがうんや!」) 「一緒に出演していた母が2年前に亡くなり、久しぶりに動く母を見て涙しました。市民感が出ていて、世間一般が思う第九とは温度差があるのではないかとヒヤヒヤしました」 


神戸フロイデ合唱団員 湯川さん(「第九ってこんなに長いんだ」) 「(舞台用)スカートのウエスト直しは毎年やばいんです。(お店のお掃除をしているシーンが登場するが)店が立ち退きになったので、あのペットショップはもうなくなりました。3、4年前ですがすごく懐かしい。どんどん時間が過ぎていく中でも、第九はいつもそこにある。第九のために日々の仕事をする人もいれば、第九のために仕事を辞める人もいる。人生変えてしまうぐらいのこともあるのかなと。撮影を通して姫路のフラッシュモブのお稽古にも行かせていただき、この映画に関わっていなければお会いできなかった人に会えました。遅い時間まで色々な場所で撮影していたソヨン監督のことを思い、楽しく笑ったり、涙が出ました」 


姫路第九合唱団員 石田さん 「母がずっと歌っていたが、当時は歌うのが苦手で聞きにいくだけ。第九合唱団に入った年に(合唱団の人と)結婚。普段遊ぶ友達も歌仲間で、こんなに歌で人生が変わる人はいないかなと思っていたら、映画にはそれ以上の人がたくさんいてびっくりしました」


元姫路第九合唱団員 中安さん(自宅練習シーンで母と登場、フラッシュモブの場面ではバイオリンで参加) 「映画を撮った時は高校2年生。(自宅練習で)奇声を発しているところや、高校生のワチャワチャしているところを、ユーモアを交えて撮っていただいた。高校時代の仲間と今は学生団体を立ち上げ、合唱を続けています。家で撮影したときは、人生経験十何年しかない私が語れる訳ないやろと。第九を歌うのを初めてだったので、(インタビューに対し)何を言えばいいかわからず、映画を撮るのはこんなに厳しいのかと感じ、監督が帰ったあと大泣きしました」 


中安さんのお母様 「この度は本当におめでとうございます。幸せってこういうことだなと思いました。世界に発信され、姫路市民の誇りになるのではないかと思いました。撮影も大変だし、ものすごく編集も大変だと聞いていたので、すごくいい経験をさせていただき、うるっときました。みなさんの熱い想いに、ベートーベンブラボーと思いました」 


姫路労音事務局長 橋本さん 「日本で第九が歌い継がれ、市民が第九を歌っているドキュメンタリーを韓国人のキムソヨンさんが着目し、市民が第九を作っている映画を作ってくださったことに感謝している。これだけ熱い想いで作られた第九だから、第九が歌い継がれているのだなと思います」   


Cinemagical シネマジカル

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