みんぱく企画展「フォルモサ∞アート――台湾の原住民藝術の現在(いま)」を徹底紹介


 万博記念公園内にある国立民族学博物館の本館企画展示場で、9月18日(木)より12月16日(火)まで企画展「フォルモサ∞アート――台湾の原住民藝術の現在(いま)」が開催中だ。

 順益台湾原住民博物館共催によるオーストロネシア系先住民族の台湾原住民族によるアート企画展の開幕日には、12名の出展した原住民アーティストのうち10名が来場し、シンポジウムで自身の作品について語った。


 タイヤル族のユマ・タルーさんは「命はこの30年取り組んできたテーマ」とし、芸術家だけでなく、文化の伝承を引き継ぎ、染色工芸の技術を後世に伝えていく活動を続けている。タイヤル族にとって織られた布は人生を共にするものだという。「生まれた後、大きな布に包まれるところから一生が始まります。わたしは今でもそのうぶ布を持っています。成人になるとマントやスカートをまとい、布との関係は続きます。さらに結婚のときには自分の持っている技術を全て表して婚礼衣装をつくり、最後に老いて亡くなると布に包まれ、家の中に埋められるのです」

一人の女性として布のように柔らかい舌を持つことを目指しているというユマさんの展示作品「生命の廻旋VI」は会場入り口にある。ぜひ、そのダイナミックさと繊細さを味わってほしい。

 


 パイワン族のマスグスグ・ジンルルさんは長年伝統的な古い壺の研究を行っているアーティスト。その中には日本統治時代に日本人が接収した原住民の作品も含まれているという。マスグスクさんの父であるウマス・ジンルルさんは、台湾で原住民族の権利回復運動や文化的な活動に携わった中心人物のひとりだそうで、「批判的な一つの見方が身についた」と明かした。今回は伝統的な壺と伝統的な文化に対する批判的な作品「優雅な狩人」など4作品を出展している。




 パイワン族のアルアイ・カウマカンさんは集落の婦人会の人たちとともに、集落の全ての家、すべての道の拓印をとり、それを繋げ合わせた大きな作品を出展。シンポジウムでは集落の年配の女性たちがあらゆるところで、ときには生い茂る草の上でも拓印をとっている動画が紹介された。大きな作品に写し取られている柄をよく観察してみると、その土地にあるものたちが見事にトレイスされている。ぜひ、じっくりと味わってほしい。


 

 アミ族のシキ・スフィンさんは木彫作家。小さい時に祖父は日本語を、父は中国語(台湾華語)を喋っていたと前置きし、日本占領時代に原住民族たちは高砂族と呼ばれ、太平洋戦争に日本兵として駆り出されたことや、その後の国共内戦では中国大陸にアミ族が兵隊として駆り出され、これら二つの戦争で多くの原住民族たちが命を落としたことや、台湾の学校では歴史をきちんと学ぶ機会がないことに言及し、「2006年から中国大陸に渡り、戻れなくなった人たちの作品を作っています。国共内戦で大陸に渡った人たちにインタビューをしました。このような歴史的なプロセスを経て、台湾の公共テレビ局を通して、国共内戦で中国に渡り戻れなくなったアミ族の人たちのドキュメンタリー番組を制作することにつながりました。 このテーマは、現在までわたしの創作のモチーフとして大事にしています」

 さらに高砂義勇隊としてパプアニューギニアの戦地に行き、戦後戻れなかった人たちのドキュメンタリー番組も製作されたが(会場でその一部が上映されている)、「重要な歴史的事実は番組を撮り終えたからといって終わりになるものではありません。それが翼というシリーズの作品につながりました」とシキさん。追悼の意を込めて彫られた作品を、ぜひ会場で目撃してほしい。



 ピヌユマヤン族のミレイ・マヴァリゥさんは、台湾の16の原住民族それぞれの文様を正方形のキャンパスの中にペインティングした作品。それぞれの文様に、各原住民族が大事にしているシンボルや生活の形が見えてくる。「絵を描く時にそれぞれの民族の人をみつけ、お話を聞いて理解を深めようとしました。模様を表現する時に重要な考えは、人と人との関係、人に誠実に対峙すること、平和であること。皆さんがこの作品をご覧になり、家族、友達、社会、世界との関係を誠実に思っていただければと思います」とミレイさん。


 

 タオ(ヤミ)族のシャマン・ミスラコは蘭嶼島出身。その先祖はもともとフィリピンのバタン島から渡ってきたという流れがあることを紹介し、70%ぐらいはバタン島のと言葉が通じるのだとか。今回は、伝統的なたたら船のミニチュア版が展示されている。「船は島にとって呼吸のようなもの、重要な意味を持っています。わたしの作品から、伝統的な海洋文化や船を作る知識が受け継がれるように祈っています」とシャマンさん。現在、みんぱくで開催中の特別展「舟と人類―アジア・オセアニアの海の暮らし」と合わせて、ぜひご覧いただきたい。



 パイワン族のアダン・ダルジャルンさんは「台湾民族のロダン」と称される彫刻アーティスト。代表作の「禁錮」と、純潔、純真を意味するシンボリックな百合の花を掲げた花を見つけて喜んでいる少女の彫像の2作品が出展されている。他にもアートを通して様々な台湾原住民族の世界が表現されているので、ぜひこの機会に楽しんでほしい。