学校給食から始まる、土と水、いのちをめぐる物語 『身土不二』~日本一の学校給食と有機農業~ 安孫子亘監督インタビュー


 福島県熱塩加納町の有機農業に3年半密着し、ほぼ100%の地産地消給食を実現した地域と小学校の取り組みや、その根底にある土、水の問題に迫った『身土不二(しんどふじ)』~日本一の学校給食と有機農業~が、8月21日(金)よりアップリンク京都、8月22日(土)よりシアターセブン他全国順次公開される。

 ニューヨーク、インド、シンガポールと今続々と海外映画祭でノミネートが続いている注目のドキュメンタリー映画だ。

 本作の、安孫子亘監督にお話を伺った。



■熱塩加納の有機農業を牽引した“レジェンド”小林芳正さん

――――安孫子監督は、福島を拠点にさまざまなドキュメンタリー映画を手がけてこられましたが、今回、食にフォーカスしたというのは、最重要人物として登場する小林芳正さんとの出会いが大きかったのでしょうか?

安孫子:小林芳正さんは元々熱塩加納村の農協職員で、1980年に熱塩加納村が有機農業を始めたとき、小林さんが率先してこの有機農業を進めていきました。最初は単独ながら、かなりエネルギッシュに、強力なリーダーシップで地域の農家を引っ張っていったそうです。


――――戦後、農業の機械化や化学肥料、農薬の使用によって生産性の向上が図られる一方、農薬による健康被害や土壌汚染が大きな問題になる中、1970年代には日本でも、農業と自然、生産者と消費者を結び直す有機農業運動が起こります。その流れで考えると、熱塩加納村は早い時点で取り組み始めたと言えますね。映画でも最晩年の小林さんの姿が捉えられていましたが。

安孫子:本当は直接お会いして、いろいろとお聞きしたかったのですが、実はまだこの映画が企画される前にお亡くなりになっておられたのです。やはり熱塩加納町の有機農業を題材とする上で、小林さんはレジェンド的存在だったので、以前撮られていた映像を取り入れています。映画でも登場する元熱塩・加納小栄養士の坂内幸子さんが「味方半分、敵半分」とおっしゃっていましたが、小林さんの場合半分以上が敵だったそうです。それだけ、有機農業に徹するように地元の人たちを引っ張っていくエネルギーが半端なかったということですね。



■土を育て、きれいな水を大事にする

――――有機農業は土地とどうやって付き合っていくかという生き方の問題にもなりえます。最近だとオーガニックと呼ばれることも多いですが、ではそもそもオーガニックって何なんだろうと。

安孫子:有機農業とかオーガニックを健康的な食べ物作りと考えてもらうと、基本的にこれらは地球に優しい農業をするための土台なんだということを、この映画でみなさんに知ってほしいと思います。土を育てること、きれいな水を大事にすることが日ごろの農業にどれだけ影響を与えているのか。あまりみなさんはおっしゃらないですが、ここが大事なんです。


――――その地球に優しい農業で作られた野菜で給食を作っているのは、本当に素晴らしい取り組みですね。

安孫子:小林さんが熱塩加納で有機農業をはじめてから10年ほど経ったころに、栄養士の坂内さんが熱塩・加納小に赴任してこられたんです。赴任早々に会った小林さんから「有機野菜があるんだけど、使わねえか?」と言われた坂内さんが「使えます!」と応じた。そこから日本一の学校給食がはじまりました。



■日本一の学校給食

――――有機野菜を使うだけでなく、調味料も添加物のないものをとこだわった坂内さんの活動ぶりには、「ごもっとも!」と膝を打ちました。

安孫子:坂内さんの活動も半端じゃなかったですね。脱添加物を徹底しておられたし、彼女が熱塩・加納小の学校給食を支えてきたと思います。坂内さんがおっしゃった「無農薬の野菜を使っているのに、添加物いっぱいの調味料を使ってどうするんだ」という言葉は、本当に大きいです。添加物チェックができる、オリジナルのおやつカードを持って、お店に買い物しに行くと、おやつを何も買えないんですよ。でもそのぐらい徹底して、口に入れる食べ物に関して気をつけていくっていうのは、やはり健康を考えた上でのことだと思いますね。

そして調理師の力も大きい。やはり有機農業では献立以外の旬の野菜が急に納品されることもあるので、調理師たちもそれに対応してメニューを変更したり、野菜も規格外の大きさのものがほとんどだったそうです。時には児童たちも一緒になって皮むきをしたり、虫がついたものがきたら虫を取るところから始まったり。坂内さんも調理師のみなさんがいなければ、有機野菜給食はできませんでしたと堂々とおっしゃっていました。


――――本当にそうですね。本来、野菜というのは虫がついていたり、大きさがバラバラだったりするのでしょうが。ちなみにこの「日本一の学校給食」のことは、以前からご存知だったのですか?

安孫子:いやぁ、知らなかったです。実は映画の最初に児童たちが、自分たちで育てた小豆ともち米で赤飯を作り、秋の収穫祭のときに地元の一人暮らしのお年寄りへ赤飯を届けるシーンがありますが、この学校行事の記録を頼まれたのが映画のきっかけになりました。これは映画にはならないだろうと思いながら、その日だけの撮影のつもりで引き受けたのですが、蓋を開けたら、日本一の学校給食があり、有機農業の原点がここにあることを発見してしまった。それで、本作のようなドキュメンタリーになったわけです。



■小学校での農業授業と有機農業の継承

――――素晴らしい取り組みをされている小学校だなと思って拝見していましたが、その撮影がくしくも本作のスタートだったんですね。この映画は、若い世代への継承の映画でもあると思いますが。

安孫子:本当に地元に若い人たちがいないという嘆きがありますね。有機農業をどうやって継承していくんだろうと。今は熱塩加納で有機農業をしている「まごころ野菜の会」が給食用に有機野菜を提供してくれていますが、長年有機農業に取り組んできたみなさんの貢献度はすごく大きいんです。「まごころ野菜の会」でも、きゅうり農家の森田迅雄さんなど、結構若い人たちも入ってきましたが、やはり若い人材不足は懸念されるところですね。


――――もう一つ驚いたのが、小学校の授業で、地元農家の指導のもと、畑の畝作りから取り組んでいることです。土作りからはじまり、植えて、収穫して、最後は調理していただくという有機野菜作りを最初から最後まで体験できる。いい授業ですね。

安孫子:普通の農業体験ではなく、小学校に農業科があるんです。地元農家のおじいちゃんやおばあちゃんが指導をしてくれ、地元の農業を肌で感じられる。そして食べるところまでつながっていくので、座学の勉強ではなくて、実際に畑で野菜を育てることで自然に入ってくる食育が行われているんです。熱塩・加納小の子どもたちは恵まれているなと思いますね。


――――有機農業の後継者が育ったらいいなっていう願いも込められていますよね。

安孫子:そうですね。熱塩・加納には、若い人たちのグループはあまりないのですが、映画で取り上げた「喜多方学校給食を考える会」では、若い保護者たちが、子どもたちも一緒になって農業体験をしたりしています。子ども用の鍬も作ってもらい、そこで使っていますね。

真似事でもいい。鍬で土を耕すことを、土を切ると言うのですが、その感触だけでも子どもの時に体験していると、大きくなって、何かの機会にふっとそれが思い出されるんですよ。特に土を切る時のあの音を、みなさんに知ってほしいという思いがありましたね。

「土の上で暮らす」ということが、この映画のテーマですし、みなさんにも勧めているんです。都会暮らしではなかなか難しいかもしれませんが、やはり土の上、そして木の中で暮らしているとこんな暑さはないんですよ。木陰の涼しさ、そして土は熱を反射せずに吸収し、太陽熱を優しく取り込んでくれるんです。


■温暖化に負けない農業

――――本当にそうですね。土が大事だというのは、最近自分でも農園で土を触っているので痛感するところです。

安孫子:きゅうり農家の森田さんも、温暖化に負けない農業とは、いい土作りが行われていることが大事だとおっしゃっていました。やはり、昔の地球環境を少しでも取り戻すためには、化学肥料を使うのではなく、緑肥(植物を栽培し、土にすき込むことで肥料として利用する方法)を使って、土を作っていく。そして太陽の熱を防いでいくという方法もあるということを、この映画で見ていただきたいですね。


――――草の根が土の中での水の通り道になると。

安孫子:そうなんです。その森田さんも有機農業だから一切農薬を使わないという考えではないというポジションがおもしろいですよね。つまり、地元で採れた新鮮で健康的な食べ物を子どもたちに食べてもらい、そういう野菜で育てたいという願いを持った人たちが、この地域にはいるんですよ。そしてそれは地元の人たちの声でもある。この野菜と米で子どもたちを育てようという声から給食が始まったので、やっぱり地元の人たちの一体感があるからこそ、この給食は続いているのだと思います。


――――トップダウンではなく、ボトムアップですね。実際に有機野菜を給食に取り入れたいと他の地域の学校から見学が多いことも触れられていますが。

安孫子:全て真似することはないと思うんですよ。できることからはじめる。ただ、やっぱり地元の食材をなるべく使ってほしいですね。熱塩・加納小の学校給食における地産地消率はほぼ100%なのですが、そういう学校は日本ではほとんどありません。オーガニック給食を導入している自治体は20%ぐらいあるそうですが、年数回や月数回という頻度も含めて、その数字なんです。熱塩・加納のように年中ずっと地産地消の米や野菜を使っているというところは、ほとんどないですね。



■山からの水を汚さず、海まで導く

――――「上堰棚田」の保全活動についても取り上げておられますね。災害からの復旧活動を追っていましたが。

安孫子: 「喜多方学校給食を考える会」の指導をされている浅見彰宏さんを取材したときに、棚田と水路の問題を知り、取材をはじめました。全長6キロと長い水路ですが、山頂の源泉から流れてくる水の量ではなかなか棚田全体を潤すには足りないそうです。そして、一度水路が壊れると、修復するのはなかなか難しい。

そして、やはり山からもらった清らかな水を汚さずに海まで導く。そうした暮らしを見直さなくてはいけないし、そこを審判されなくてはいけない。有機農業かそうではないかということ以前に、自然の水をいかに下流の人に渡していくか。上の畑や田んぼで化学肥料や農薬をいっぱい使うと、下流の人はその水を使って米作りをしなくちゃいけない。だから水はきれいなまま渡したい。渡さなくちゃいけないんじゃないかということが、有機農業の最初の前提にあるわけです。そういうことを念頭に置いて、みなさんの暮らしぶりを少し考えてみませんかと、この映画で問いかけていきたいです。


――――タイトルの『身土不二(しんどふじ)』は仏教用語ですね。

安孫子:小林芳正さんがよく使っていた言葉だそうで、浅見さんも「身土不二」とプリントしたTシャツを自分で作って着ているぐらい、地域の有機農業に関係するみなさんの間では、よく使われている言葉です。体と大地は二つにあらず、地球と体は一緒なんだ。地球を汚せば体も汚れる。この言葉も改めて知っていただければと思います。


――――ありがとうございました。最後にみなさんにメッセージをお願いします。

安孫子:有機農業という言葉を知らない人でも、この映画を見て、自分たちの暮らしの何かを変えてみようとか、何かに気づきを与えるような役目をこの映画が果たせればうれしいです。特に、子どもたちにも観てほしいですね。昔々の農家は馬を使って田んぼを耕したり、糞も堆肥になったり、みんな有機農業だったんだよと。

(江口由美)


<作品情報>

『身土不二』(2026年 日本 86分)

監督・撮影:安孫子亘

2026年8月21日(金)よりアップリンク京都、8月22日(土)よりシアターセブン他全国順次公開

公式サイト⇒ https://mirufilm.jimdofree.com/

※アップリンク京都、8月22日(土)14:30の回上映後、安孫子監督舞台挨拶

シアターセブン、8月22日(土)12:00の回上映後 安孫子監督舞台挨拶

©ミルフィルム