本音が炸裂!見たことのない女子会映画に込めた狙いは?『浜辺のゲーム』夏都愛未監督、福島珠理、堀春菜、大塚菜々穂インタビュー


第14回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作として世界初上映された夏都愛未監督(『珊瑚樹』)の長編デビュー作『浜辺のゲーム』が、5月4日〜5月10日まで新宿ケイズシネマにて公開される。 

浜辺の別荘に泊まりにきた女子大生のさやか(堀春菜)、唯(福島珠理)、桃子(大塚菜々穂)が、国籍や境遇の異なる様々な人と交わる中で、その関係が微妙に変化していく様を、女子の本音たっぷりに描く。三人の関係に影響を与える女好きのミュージシャンをカトウシンスケ(『ケンとカズ』)が演じる他、別荘のタイ人管理人を名プロデューサーのドンサロン・コヴィタニチャが、共同管理人には第13回大阪アジアン映画祭で最優秀女優賞に輝いた飯島珠奈(『東京不穏詩』)が演じているのも見逃せない。ホン・サンスを彷彿とさせる飄々とした描写の中に、ヌーヴェルヴァーグの匂いも感じさせる夏都監督のこだわりは相当のものだ。鋭い観察眼で女子の本音を余すところなく描く一方、韓国語、タイ語、英語、プラス関西弁と4カ国語プラスアルファの多彩な言葉が飛び交う。コミカルさも兼ね備えた次世代映画として、ぜひ注目してほしい作品だ。 


映画祭のゲストとして来阪し、ワールドプレミア上映を終えたばかりの夏都愛未監督、プロデューサー・出演の福島珠理さん、出演の堀春菜さん、大塚菜々穂さんへのインタビュー。女子会さながらの舞台裏トークをご紹介したい。


■自分たちが作ったものをちゃんと受け止めてくださって良かったと安心(福島) 
撮影中「監督は何を考えているんだろう」と思っていたが、客観的に観ると面白かった(堀) 


――――初長編のワールドプレミア上映は、お客様から質問が次々と寄せられ大盛況でしたが、今の気持ちを教えてください。 

夏都監督:スクリーンで初めて見たのですが、面白くて(笑)。役者がすごく活きていて、演技はしていますが、役者自身の素の部分も見えていた気がします。何よりもお客様が面白がってくださったのが良かったです。たまたま違う国の人と出会ったり、一緒に時を過ごしたり、詩を書いたり、自分に気があると思って勘違いしたり裏で陰口言われてたり…いろんな人の日常を見てるみたいでした。

福島:脚本段階で、ちょっと変な映画になる予感はありました。編集を重ねるうちに、「破茶滅茶だけど、面白いよね」 と監督と2人で励ましあっていたんです。今日は観客の皆さんと一緒に観て、笑い声も起きていましたし、上映後に「面白かったです、楽しかったです」と言ってくださる方が多く、自分たちが作ったものをちゃんと受け止めてくださったと思うと、良かったという安心感がありました。 

堀:やっぱり、大阪っていいですよね。笑ってくれるのが素敵だなと思いました。撮影中は、「監督は何を考えているんだろう。監督の脳内は私とは違うな」と思いながら、監督の演出を受けていたのですが、出来上がったものを客観的に見ると面白かったですね。 

大塚:撮影に入る前に、夏都さんと福島さんとは定期的に会っていたので、現場でも友達になる役柄を演じやすかったです。大学外で映画に出るのは初めてだし、知らない人ばっかりで結構不安やったけど、安心して撮影に入れました。今日スクリーンで見ると、関西弁だし、むっちゃ自分なのに、全然違う人のように見えました。 


――――夏都監督は、『3月4日、5時の鐘』で先に女優としてデビューされていますが、脚本や監督をしようと思ったきっかけは? 

夏都監督:監督をしようという強い意思というより、撮りたいものがあり、ただそれは誰もやっていなさそうなものだから、自分が監督しなくてはという気持ちの方が強かったです。「今やらないで、いつやる、自分!」ぐらいの気持ちでした。最初女優を始めたのですが、漠然と監督の仕事に興味があったので、あまり人には見せず、プロットや脚本をひたひたと書き続けていたんです。 


――――福島さんは出演だけでなく、プロデューサーとして制作資金集めにも奔走されたそうですね。 

福島:夏都監督と企業様を訪問しプレゼンしたのですが、いかに自分たちの企画を面白いと思ってもらえるかが大事で、企画の目新しさや魅力を伝えるのが一番難しかったです。女子会を覗き見る映画という謳い文句で「男が見たことがない女子を描きます」とプレゼンしました。  



■コミュニケーションの映画。そこへ、いかに社会的な要素と、女子会の面白さを入れられるかがポイントだった(夏都監督) 

――――女子会を覗き見るという謳い文句より、かなり様々な要素が入り込んだフュージョン映画になっていますが、脚本を書いているうちに変遷していったのですか? 

夏都監督:今は新宿や街に行くと、普通に外国語が飛び交い、色々な国の人がそこで生活しているので、普通に外国人を登場させることは必須条件で、かつ女子会がドドンとはいって作品のポイントになるようなものを考えていました。私の中では、コミュニケーションの映画だと思っているので、(堀春菜さん演じる)さやかの心の葛藤と成長が一番大事でした。  


――――さやかは、(福島さん演じる)唯に友達以上の気持ちを抱いていますが、現地にいた(大塚さん演じる)桃子と仲良くしていることで、気持ちが揺れ動きますね。 

夏都監督:人と人の交わりが深くなると、「この人には嫌われたくない」という思いが出てきます。でもそれがあるから、コミュニケーションが不自由になり、言いたいことが言えなくなってしまうのです。本来コミュニケーションは自由であるはずなのに、嫌われたくないという思いに支配されて、曖昧な身の振り方しかできなくなってしまっている女の子がこれからどうなるのか。それを見守りたくなる筋立てにしました。そこへ、いかに社会的な要素と、女子会の面白さを入れられるか。それが自分の中でのポイントでした。 


――――さやかが、同性の女友達を好きになるのは最初から想定していたのですか? 

夏都監督:最初は秋宏に惹かれ、秋宏に振り回されて自分がわからなくなってしまい、女子会でイジられて不機嫌になるという話だったのですが、何かつまらないなと思ったんです。映画でLGBTQを取り扱うと、問題提起として描かれてしまいますが、生活の中に自然に描くことはできないかと思い、友人間の恋心として描いていきました。 


■夏都さんは自分の作りたいものが明確で、ちゃんと「ここ!」というものがある(堀) 

――――さやかは、自分の同性への思いを、ほぼ初対面の他人に聞いてもらったり、自分でも戸惑いを隠せないキャラクターですが、堀さんは演じてみていかがでしたか? 

堀:不機嫌なのに好意を示すなんて、さやかの思考回路は謎だなと思いましたし、桃子と初対面なのに、今それを出す?といったシーンについては監督とも話し合いました。同性を好きということに対して演じる上で悩むことはなかったです。面白い人なんですよ、夏都さんは・・・(笑)自分の作りたいものが明確で、ちゃんと「ここ!」というものがあるので、それは凄いなと思いますね。


 ――――夏都監督は、描きたいものがはっきりしているんですね。 

堀:(海岸で様々な人に遭遇するシーンで)撮影部さんに「これは何のシーン?」と聞かれて、「(とにかく)やりたいんです」と言い放っていた時は、強いなぁと思いました(笑) 

福島:現場のスタッフの皆さんはベテランの方ばかりでしたし、撮影日数も限られていたので監督も大変だったと思いますが、最後は自分の意見をしっかり伝えていました。 



■大塚さん起用は別の作品のワークショップオーディションで見たのがきっかけ(福島) 

――――大塚さんは、京都で映画を学んでいる大学生で、学外の映画には初出演だそうですが、キャスティングの経緯は? 

福島:大塚さんが参加していた別の作品のワークショップオーディションを、私と夏都さんが見ていたことがあったんです。その後、夏都さんに桃子がどんなキャラクターなのか聞くと、「あの時の大塚さんみたいな感じ」と。あ〜大塚さんね、じゃあという流れでした。 

夏都監督:脚本も最初は今の感じではなかったのですが、ブラッシュアップするごとに、大塚さんの当て書きのようになっていきました。声がすごく良くて、存在がセクシーなんです。また、桃子の関西弁も、日本で標準語以外の言葉を話す人はたくさんいますから、映画の中にも他の言葉を入れたくて、まずは関西弁だと思った時に大塚さんがいる!と。まさにぴったりでした。 


――――ドンサロン・コヴィタニチャさん演じる宿の管理人は、宿に集まった人物たちがワチャワチャしていく中、その様子を客観的に観察して呟きます。さらに自身の妄想も膨らませている面白いキャラクターですね。 

福島:最初はフランス語でナレーションを入れたら素敵だなという話から始まったんです。 

夏都監督:ドンサロンさんが出演してくださると決まって、ならばタイ人から見た日本女子の変なところをナレーションしようと。海外から見た日本の視点も、タイ語の美しい響きも入れることができます。ちなみにドンさんの日本人女子論も私が考えたセリフです。 



■女子がバチバチ火花を散らしているのを見るのは面白い(大塚) 
堀さんはちょっと面倒くさいのが魅力的(夏都監督) 

――――夏都監督の視点はユニークだなとつくづく思います(笑)女三人旅は、様々な人と交わりながら、三人の中での力関係も刻一刻と変化していきますが、演じてみての感想は? 

福島:どういうキャラクターかと突っ込んで聞いても、夏都さんからは「本当にいつもの珠理のままでいいから」と念押しされていたので、演じてみて「私ってこんなにイヤな奴なのか」と思いました(笑)。でも、やはり一緒にいる時間が長いだけあって、予告編を見た両親からは「意地悪なことを言う珠理はこんな顔してるよ」と言われ、ちゃんと私のことを分かっているなとか、見ているなと思うような場面も多々ありました。プライドが高いけれど、友達のことも好きな、本当はいい子。一皮剥け切れていない、大学生にいそうなタイプですね。 

大塚:私も桃子と一緒で自分は交わりたくないですが、女子がバチバチ火花を散らしているのを見るのは面白いじゃないですか。下ネタも日頃私はあまり言いませんが、女子会ってあんな感じで下ネタを言いますよね。 

堀:最初は自分とさやかは全く違うキャラクターだと思っていたのですが、監督からは、さやかのキャラクターは堀さんそのものと言われました。監督とは一度釜山国際映画祭でお茶をご一緒したぐらいなのに、お話をいただいて、脚本で自分の役を見た時「これ、私?」と思って。客観的に見たらこんな感じなのかと(笑)それが最初の印象でした。しかも、私だけヘアメイクの時間が異様に短かったです。顔は3分ですし、髪は起きたままでいいと言われて・・・。  


――――堀さんには、そこまで細かい指示があったのですか! 

夏都監督:さやかはメイクにあまり興味がないし、服もいつもユニクロみたいな感じです。堀さんって、初めて会った時から、ちょっと面倒くさい人なんじゃないかって。ディスっているのではなく、そこがすごく魅力的で好きなんです。素直じゃないところがあるだろうなと思って、振り回されてみたいなと思いました。ものすごくチャーミングな方です。 



■カトウシンスケさんは「ジャン=ポール・ベルモンドのようなキャラクター」(夏都監督) 

――――今回、カトウシンスケさんが秋宏役で出演されていますね。今までのカトウさんの印象とはうって変わり、調子のいい女好きなミュージシャン役ですが、何か指示をされたのですか? 

夏都監督:ゴダール作品のジャン=ポール・ベルモンドのようなキャラクターですとお伝えしました。カトウさんも現場で色々俳優目線での提案をしてくださったので、お互いに歩み寄りながらの撮影でした。 


――――カトウさんも、そんな演出されたのは初めてでしょうね(笑) 

夏都監督:『ケンとカズ』のイカついカトウさんではなく、可愛いカトウさんを撮りたかったんです。前髪があると、すごくセクシーですし、目もすごく魅力的なので、女の子を振り回すカトウさんの色気も撮りたかったですね。(大塚さん、カトウさんと)フェロモンのある人はすぐに見つけてしまいます!  


――――何かが起こりそうな時に軽やかに、弾けるように流れるピアノの音楽が印象的でしたが、音楽について教えていただけますか? 

夏都監督:小野プロデューサーが、堀さんに会った時、「亜麻色の髪の乙女」のメロディーが浮かんだとおっしゃったのですが、たまたま昨年、作曲家のドビュッシーが没後100年で、これは使った方が意味があると思いました。音楽は全てドビュッシーにしています。 


――――他にもヌーヴェルヴァーグの映画や女優が好きなんだろうなと思わせるシーンがたくさんありました。幕間のタイトルもヌーヴェルヴァーグの作品(フランス語)名ですし、ドヌーヴネタも登場しますね。 

福島:ドヌーヴは私が実際に作品も大好きなので、映画の中に取り入れています。 夏都監督:ホン・サンスも好きなので、その雰囲気は作品に反映されていると思います。  



■イメージを押し付けられがちなので、私たちにとっての当たり前を提示したい(福島) 
日常生活のちょっとしたズレを大切にして生きるような作品に出会いたい(堀) 
正反対の弱い役や、したたかな役も魅力的(大塚) 


――――今回は20代のみなさんで見たこともないようなパワフルな女子会映画を作りましたが、これからどんな作品にチャレンジしていきたいですか? 

福島:男性側から見れば女の子同士の関係なんて面倒臭くて難しいと思われがちですが、それだけで終わらせたくないんです。その先にはこんないいいことがあるんだよというところまで伝わるような作品を届けることができればと思います。また女性は、ピンクが好きとか、キラキラしたものが好きとか、常にムダ毛を剃っているとか、イメージを押し付けられていることが多いと常々感じるので、女の子の違う一面、私たちにとっての当たり前なことを提示して、それで得てもらえるものがあればいいなと思っています。 

堀:ユン・ガウン監督の『わたしたち』 のような作品が好きなので、日常生活のちょっとしたズレを大切にして生きるような作品に出会えればいいなと思います。 

大塚:今回は夏都さんがセクシーさを感じていただいて桃子役をやらせていただき、とても楽しかったですが、正反対の弱い役もやってみたいです。『女王陛下のお気に入り』が好きなのですが、エマ・ストーンが演じたようなしたたかな役も魅力的だなと思っています。

 


■女が自分のコンプレックスを超えていく瞬間を描きたい(夏都監督) 

――――最後に、夏都監督は長編デビュー作で等身大の女子の本音を編み込んだオリジナルストーリーを見事に作り上げましたが、これから、女性のどんな部分を描いていきたいですか?

夏都監督:女同士が言い争い、揉め合ったり、互いの価値観やモラルを剥ぎ合う様に興味があります。人が身にまとっている価値観はコンプレックスからくるものが多いと思います。だから、コンプレックスを見られまいと、余計なものを必死に着飾る。特に女性は無意識のうちに社会で下に見られる存在になってしまいがちですし、余計なものを身にまといすぎてつい厚着してしまうことも少なくないと思います。だから、女同士がやたら自分の中のモラルを主張して言い争ったりする様が面白いです。  

無意識に相手をつつき合って、だんだんヒートアップし、それぞれが各々のモラルを張り合って、それが剥がれ落ちてしまったら、そこには何もない気がします。純粋無垢な裸の自分に出会うだけ。私は、その瞬間を描きたいです。“世間に晒される自分”が作り上げた価値観から解放された時に見えてくるものや、自分が作り上げた価値観のせいで不自由だったことに気づいた瞬間を捉えることで、監督をしている私自身も、映画を撮ることを通して、自分と映画の関係がより純度の高い強固なものになるのではないかと、希望を感じます。今後も、女が自分のコンプレックスを超えていく瞬間、価値観が動く瞬間を描ければいいなと思っています。 

(江口由美)


<作品情報> 

『浜辺のゲーム』”Jeux de plage” 

2018年/日本・タイ・マレーシア・韓国/77分 

監督・脚本・編集:夏都愛未 

 プロデューサー:福島珠理  

出演:堀春菜、カトウシンスケ、福島珠理、大塚菜々穂、田中シェン、永純怜、神原健太朗、飯島珠奈、ドンサロン・コヴィタニチャ、杉野希妃他