熱いぜ、養殖!完全養殖研究現場の声をたっぷり盛り込んだマグロ×青春物語 「TUNAガール」安田真奈監督インタビュー


32年もの年月をかけてクロマグロの完全養殖に世界で初めて成功した近畿大学の水産研究所と安田真奈監督(『幸福のスイッチ』)がタッグを組んだ完全オリジナルのスペシャルドラマ「TUNAガール」、ドキュメンタリー「海を耕す者たち~近大マグロの歴史と未来」が、3月28日よりひかりTV、NTTぷららと吉本興業が提供する「大阪チャンネル」で好評配信中だ。 また、9月28日からNetflixで世界配信される(英語字幕付き)。


クロマグロの完全養殖を成し遂げた和歌山県串本の近畿大学水産研究所を舞台に、研究に情熱を注ぐ教授や研究生と交わることで成長していく、実習生たちの熱い青春群像劇になっている。とにかく前向き、就活に有利という理由で合宿に参加したヒロイン美波を、ドラマ「トクサツガガガ」で人気急上昇中の小芝風花が演じる他、美波を見守る教授に星田英利、養殖オタクの研究生に藤田富が扮している。また、近大出身のつんく♂が挿入歌をプロデュースしているのにも注目したい。養殖マグロに対するイメージが大きく変わる、お仕事ドラマとしても見ごたえ十分の感動作だ。 脚本も担当した安田真奈監督に、制作の舞台裏を伺った。 



■「ドラマも面白かったけど、養殖も面白かった」とプラスアルファがある作品に。 


――――安田監督らしい、爽やかだけど、クロマグロ養殖の裏側がよく分かる学べる青春ドラマですが、オファーの経緯は? 

安田: 2016年12月に提携協定を結んだ吉本興業と近畿大学の間でドラマ制作の話が持ち上がり、近大と言えば近大マグロが有名だが、昔の開発話を焼きなおすというより、現代の若者のオリジナルドラマを作ろう、と決まったそうです。取材してオリジナル脚本が書けて監督できて関西ノリがわかって…ということで、私に依頼くださった、とのことでした。農業や漁業をフィーチャーしての青春物語といえば、景色のいいところで、ふんわり、さらっと作ることもできるのですが、私がマニアックなところに光を当てたい性格で、電器屋だったら徹底的に電器屋の仕事を描きたいし、養殖なら養殖の舞台裏まで徹底的に描きたいんです。働いている姿を見ることは、なんて尊いことなのだろうと思っているので、他の人が描けないくらい養殖ネタを盛り込んで、「ドラマも面白かったけど、養殖も面白かったわ」とプラスアルファがある作品にしようと、かなり入れ込みました。街の電器屋さんが舞台の『幸福のスイッチ』も、3年かけて取材をした上、オリジナル脚本で撮った作品でしたから。私は取材をするのが好きなんですね。  


■しっかりした人間ドラマの裏に、徹底的な取材で皆が知らない世界を見せる『マルサの女』に憧れて。 

――――それは、『幸福のスイッチ』や「TUNAガール」などの作品に現れていますね。取材を元にしたオリジナル作品を作ろうと思った原点は? 

安田:森田芳光監督の『家族ゲーム』を見て、美男美女のラブストーリーや、大スペクタクルのスペースファンタジーではなくても、身近なネタで面白い映画は作れるんだ!と感銘を受け、奈良高校の映画研究部に入りました。その後、神戸大学でも映画サークルに入りました。伊丹十三監督の作品にも興味を持ったのですが、特に『マルサの女』は、人間ドラマがしっかりしている上で、徹底的な業界取材が面白く、皆が知らない世界を見せるという、発見の多い映画だった。私の取材好き、オリジナル脚本好きというのは、その体験が影響していると思います。



■ドラマとドキュメンタリーの二本同時制作裏話。 

――――「TUNAガール」と同時制作、配信されている近大水産研究所のクロマグロ完全養殖までの道を描いたドキュメンタリー「海を耕す者たち」を見ると、教授や学生たちへのインタビューのセリフが、「TUNAガール」にうまく生かされていることがわかりますね。 

安田:32年かけてクロマグロの完全養殖がやっと成功したことを、今の学生たちを描きながら織り込んでいく。そして学生たちが半年近く串本に滞在して行う研究合宿を描くことは決まっていました。18年の夏、約10日間で撮ったのですが(卵の撮影などは除く)、ドキュメンタリーも是非作ろうという話になり、「TUNAガール」仕上げ中に、インタビュー撮影にいきました。ドキュメンタリー単体だと、見る方も少ないかもしれませんが、ドラマ「TUNAガール」と同時配信だと、波及力があります。ドラマを見た後にドキュメンタリーを見ると、「あのセリフはこの教授の研究なのか!」と、裏舞台が楽しめます。映画館で二本立てだと長いですけど、自宅なら好きなタイミングで両方見られますしね。 


――――確かに、配信なら気軽に2作品を見ることができますね。今回、事前にも相当取材をされたそうですが、どれぐらい時間をかけたのですか? 

安田:17年に取材をして分かったのが、クロマグロの発育を撮影するのは一年に一度のワンチャンスだということ。初夏に産卵し、夏に沖の生け簀へ放つのですが、クロマグロはとにかくその間の発育が早く、すぐに大きくなってしまう。だから撮影は大変でした。数日遅れるともう成長してしまうので、撮影日程にあわせて、「十日目くらいの稚魚の死骸を取っておいていただけますか」とか、研究所さんに細かいお願いをし、全面協力していただきました。取材に行く前も、とにかく本で一生懸命マグロのことを勉強し、かなり具体的にお聞きしたので、「こんなにマグロのことを調べてきていただけるとは」と、驚かれた先生もおられました(笑)ドキュメンタリーを他の監督が撮ると、研究所の方々は、またゼロから「沈降死とは?浮上死とは?」とマグロのことを教えなければならない。私なら、どの先生に何を聞けばいいか、どのテーマをどの学生に聞けばいいか大体分かりますから、喜んで、ドキュメンタリーの監督も引き受けました。  



■クロマグロの養殖はたくさんの方の様々な技術とチームワークの結晶! 

――――なるほど、事前の取材があったから、ドラマの仕上げと同時並行で、一気にドキュメンタリーも作ることができたのですね。それらの取材を通じて一番感じたことは? 

安田:魚一つを育てるのに、こんなにたくさんの方の様々な技術が結集しているのだという裏舞台の感動が大きかったですね。マグロって巨体で荒々しいイメージがありますが、こんなにも繊細な生き物(ふ化から沖出しまでの生存率は5%)が頑張って生きて、それを皆で育てているんです。例えばクロマグロの餌は、少し大きくなると普通の魚や配合飼料を食べるのですが、初期のうちはプランクトンを食べます。ただ、成長率が高いので、たくさん食べるんです。初夏の、クロマグロがたくさんプランクトンを食べるタイミングで、プランクトンを大量に育てなければいけない。かつプランクトンの栄養価を高めるために、プランクトンの餌であるクロレラも大量に育てなければいけない。そのクロレラも繁殖させるタイミングを間違えてはいけない。「餌の餌から育てて、めっちゃがんばってはるんや!」と本当に感動しました。研究に研究を重ねた上での成果物なのです。  


また、人間関係とチームワークありきで成り立っていますので、スタッフの方への感謝、研究している人たちや学生さんたちへの感謝も素敵でした。ドキュメンタリー内でも「ダイバーさんが死骸を拾ってくれ、そのおかげで僕たちが計測して研究に役立てられます」と学生さんが語っておられましたが、様々な人の働きに感謝できる、良い環境の研究所だなと思いました。そうした様々な感謝は、ドラマにもドキュメンタリーにも押し付けにはならない形で、ふわっと入れ込んでいます。 


世間では、クロマグロの完全養殖はもはや当たり前になっています。でも、まだまだ品種改良や餌の改良の研究は、進化していきます。ワンチャンスという自然の摂理と戦いながら、毎年改良を重ね、上を目指すというのは、すごくストイックで素晴らしい取り組みです。「熱いぜ!養殖」と思いましたね。  



■「突進」がキーワードの主人公美波役、小芝風花は撮影現場で皆が大好きになる頑張り屋さん。 

――――本当にそれぞれが細かい研究を積み重ね続けた上で今があることが、しっかり描かれていますね。ちなみにドキュメンタリーでは男子学生が多かったですが、今回女子学生をあえて主人公にした意図は? 

安田:実際に水産研究所は男子が多いし、男子の物語が自然かもしれませんが、女子を主人公で、と決まりました。調べるうちにマグロの語源がギリシャ語のツナス(突進)という意味だと知り、突進するけれど、それによって皆が楽しくなったり、失敗してしまったり。その主人公が男子よりも女子の方が、跳ねて面白いと思い、そこからキャラクターを作っていきました。 


――――主人公の美波は、他の合宿に参加した学生ほど養殖に対して意欲的でもないし、知識もなく、視聴者と同じぐらいの目線で、養殖や研究に触れていきます。 

安田:実際に研究合宿に行く学生さんはここまで無知ではありませんが、ドラマの中で視聴者と一緒になって、へぇ〜と思うキャラクターはいいかなと。「近大マグロはブランドだし、就活の面接受けするから絶対にいいと思って来たのに、こんなに面倒臭いとは!」という感じですよね。  


――――美波役の小芝風花さんは、コメディエンヌ要素も混じえて、魅力全開の演技でしたが、現場ではどんな感じでしたか? 

安田:撮影現場でも皆が大好きになってしまうぐらい、とにかく可愛くて、愛想が良くて、頑張り屋さんなんです。それに一つ一つの動作のキレが良くて、怒るにしても笑うにしても本当にピチピチ。ラストシーンなんて、もう超可愛い!とみんなで震えながら見守っていました。クライマックスの長ゼリフも、削ろうかと一瞬思ったのですが、「研究の話だから、マグロオタクの先輩を超える勢いで、アツく語ってほしい」と伝えて、がんばってもらいました。小芝さんも「素敵な作品に出会えてよかった」と喜んでくれました。  


――――星田さんが演じる教授は、突進したり失敗したりして落ち込む美波を温かく見守る懐深い人物で、非常に好感が持てるキャラクターですね。 

安田:重鎮っぽい俳優さんだと説教くさくなるところですが、星田さんのキャスティングは大正解で、ベースは軽やかに見守りながらも、ほどよい重みがあり、とても良いバランスでした。星田さんの場合、難しいことや、過去の栄光を語る時の語り口が偉そうではないので、聞いていても心地よくて絶妙なんですよね。 



■今当たり前と思っているものの裏に、とても尊い努力や歴史がある。 

――――途中、国や他大学が研究から手を引く中、近大だけが成果がでなくてもクロマグロの研究を続けたことが教授の口から明かされます。 

安田:今の若者は、機械やスマホなど、すでに完成したものが周りにあふれている中で育っていますから、それが作り出されるまで、いかに長い年月と試行錯誤があったかということを窺い知る機会が少ないと思います。今当たり前と思っているものの裏にも、とても尊い努力や歴史があり、過去のものであっても、そこから学ぶものが多いはずです。昔の人が偉い!という絶賛映画にはしたくないけれど、そういう歴史もありながら、今の若者もがんばっているという風に描いています。


 ――――「不可能を可能にする」を実践していますね。 

安田:ものづくりの観点で言えば、昔の人は、計算するのが大変だからコンピューターを作ろうとか、できないことをできるようにしてきたクリエイティブな世代です。今の若者は既にあるものをより良くしていくバージョンアップ世代なんです。バージョンアップ世代が、クリエイティブ世代と交わり、クリエイティブな現場を知ることで、研究を引き継ぎながらも自分たちなりに新しい道を探ろうとするのは、どんな業界においても大事ではないかと思います。 


――――実習生たちが研究するシーンも度々登場しますが、中にはマグロと程遠いように見える研究もありますね。文句を言う美波の気持ちが分かります(笑) 

安田:2018年春と2017年春の2回、串本・白浜の研究所へ取材に行きました。研究の班は、飼育班、バイオテクノロジー班、魚病班など、色々あります。初回取材の時、一人の学生さんが、バイオテクノロジーか飼育を希望したけど、魚病班になってしまった…と、言っていました。が、ドラマ撮影の際に再会すると、寄生虫研究のためにゴカイの世話をしていて、イキイキと取り組まれていました。まさに美波みたいでグッときました。実際に魚に触れたり、研究に携わったりすると、命の尊さや面白みが見えてきますよね。 



■学生たちの悲喜こもごもを、群像劇として描く。 

――――美波を含む4人の学生たちの実習が描かれますが、それぞれの家庭事情も描いているのが印象的でした。 

安田:今時の学生さんは必ずしも皆が恵まれているわけではなく、勉強をさせてもらえるありがたさがあると思い、今回、研修合宿をリタイアしてしまう学生を1人設定しました。今の学生が抱えている状況も調べて、それぞれのキャラクターに落とし込んでいき、学生たちの悲喜こもごもを描いた群像劇の雰囲気も出しています。  


――――タイトな撮影で、リハーサル時間を捻出するのも大変だったと思いますが、演出はどのようにされたのですか? 

安田:皆が集合してのリハーサル日程はありませんでした。が、それぞれのキャストさんと、衣装合わせなどの際に、私と読み合わせをしていただいて、テンポ感や、芝居がかり感の塩梅、空気感、各セリフのトーンなどを調整させていただきました。その上で本番に臨んだので、リハーサル日程がなくてもうまくいったかなと思います。 


――――研修生の一人を演じた金井浩人さんは、5月公開の映画『嵐電』(鈴木卓爾監督)にも出演されています。東京から撮影のため京都にきた俳優役で、京都弁のセリフに苦労するシーンが度々登場するのですが、今回は見事な関西弁を披露しており、思わず注目してしまいました。

安田:金井さんは新潟出身で関西ネイティブではないので、私の関西弁サンプルを聞いて、完コピししてくれました。ちゃんと関西人の口調ですし、リアル感もヤンチャ感もあって、微妙なニュアンスの演技もできて…。とても良かったです。



 ■突進ガール美波の成長に、実在の学生たちの頑張りを重ねて。 

――――苦手な研究にもようやく馴染んできたころに美波の前向きさが裏目に出てしまい、ネットで炎上事件を起こすのも、現在ならではの社会の反応を映し出していますね。 

安田:美波がいつまでも隠れることをやめて、顔を出して謝るシーンがあります。日大アメフトの悪質タックル問題でも、加害者側の選手はちゃんと顔を出して謝ってましたよね。炎上と謝罪…、今の時代を反映させたシーンになったかな、と思います。 


 ――――その後の美波の言葉は、養殖関係者の思いを代弁しているようにも感じました。 

安田:謝罪はするけど、最終的には「養殖なめんな!」と言いますよね。取材を通じて、養殖はまだまだポジティブなイメージを持たれていない、と聞いたことがヒントになっています。みなさん愛情をもって丁寧に育てようと頑張っていらっしゃるし、学生さんの一人は、「スーパーで鯛の切り身を見ると、どこかの養殖場の人が頑張って育てたんやなぁ!みんなシッカリ味わって食べてや!と思うんですよね~」と、生き生きと語っておられました。そういう姿を見ると、その舞台裏はぜひ映してあげたいなと。実際に小芝さんのファンの方がドラマをご覧になって「ドラマもいいけれど、養殖にまさかの感動」とコメントされていたのは、本当にうれしかったですね。


映画もマグロの養殖も共同作業なのは同じです。皆の力を合わせて、それぞれの専門技術の良さを持ち寄ることで、どんどんレベルアップしていく。それがものづくりの醍醐味、養殖の醍醐味だと思います。 

(江口由美)


<作品情報> 

「TUNAガール」

90分/スペシャルドラマ 

特別協力:近畿大学 

制作著作:吉本興業/NTTぷらら 

監督・脚本:安田真奈  

出演:小芝風花、藤田富、星田英利、金井浩人、遊佐亮介、田中珠里、井之上チャル、谷口高史、升毅(近畿大学卒業生友情出演) 

Fumika with KINDAIGIRLS「無理かもって思ったら それより先に進めない」

 Sound Produced byつんく♂