「表現の根っこにあるのは、自分が何者かということ。皆さんも狼煙を上げ続けて」『狼煙が呼ぶ』豊田利晃監督が語る。


 『泣き虫しょったんの奇跡』の豊田利晃監督による企画・プロデュース・監督・脚本・編集の最新作『狼煙が呼ぶ』が9月20日より全国37館のミニシアターで一斉公開中だ。4月に起きた銃刀法違反容疑による逮捕および不起訴、その後のネットやマスコミの反応と、不条理を身をもって体験した豊田監督は、わずか2ヶ月で16分の短編を完成させた。渋川清彦、浅野忠信、高良健吾、松田龍平らそうそうたる出演者が集結、また音楽を担当し、出演もしている切腹ピストルズは豊田監督に大きなインスピレーションを与えたといえる。超迫力の音楽と、狼煙を上げるべく決意をもって集まった男たち。現在日本とかつての日本を比較する試みも込められた必見作だ。

 舞台挨拶のため、全国行脚中の豊田利晃監督が9月24日に神戸・元町映画館に来館し、お話を伺った。舞台挨拶の模様と共にご紹介したい。




■「時代劇を撮りたい」と考えていた時に出会った切腹ピストルズ 

―――音楽、出演の切腹ピストルズとの出会いについて 

豊田:昨年の9月23日に切腹ピストルに出会い、題字を書いてくれた隊長の飯田団紅さんとは、それ以降、遊んだり電話で話を重ねていました。切腹ピストルズは数多くライブをやっていますが、録音音源がないことを知り、ぜひ聴いてみたいという思いで、僕が主導して11月に音源録音を行いました。メンバーが多いので、フルオーケストラが入るような大きいスタジオで15人のメンバーが参加し録音した後、その曲を使って何か撮ろうという話もその頃からしていました。いわゆるPVではなく、映画音楽として使いたいと構想していたのです。 


■新元号発表当日に浮かんだタイトル『狼煙が呼ぶ』、テーマはニホンオオカミ。 

―――インパクトの強いタイトル『狼煙が呼ぶ』は、いつ頃考えたのですか? 

豊田:このタイトルができたのは4月1日、「令和」という元号が発表された時でした。飯田団紅さんとはずっと映画化にむけてのキャッチボールを続けていましたが、この日も命令の『令』に『和』と書く元号について話をしていたら、「それは狼煙を上げないといけないね」「それならば、次の映画のタイトルは『狼煙が呼ぶ』だ」と。狼煙は、昔、中国で狼の糞を藁に混ぜて燃やすと、直線に煙が上がり、それが敵の来襲を伝える目印になったことが語源で、三国志の世界もそうだったと思います。今回映画で使われている切腹ピストルズの曲も「狼信仰」(11月に録音した曲)ですし、関東の秩父には本当に狼信仰があり、映画でも登場したように、神社の前にいるのは狛犬ではなく、狼です。かつては山神の食物連鎖の頂点が、ニホンオオカミで、それがいたからこそイノシシなどの害獣から、山の自然が守られていました。ただ、明治以降の日本の近代化により、ニホンオオカミが絶滅してしまった。だから近代化以前の、良き日本の象徴として、僕と飯田団紅さんの間ではニホンオオカミがテーマで、「狼煙」という言葉は、そのニホンオオカミを意識して考えた中で、出たものです。 



■ネットとマスコミの相乗効果によるいじめのような状況下、映画での返答を決意。 

―――本作を作ることに決めた動機は? 

豊田:祖父は天皇を警備する近衛兵で、自分の身を守るために、ヤングアメリカという手のひらサイズの拳銃を保持していました(映画では全く同じ型で大きめのレプリカを使用)。赤錆だらけで作動しない祖父の遺品がもとで、4月18日に銃刀法違反容疑で逮捕され、9日間拘留された後釈放されたのですが、不起訴になったとニュースを送っても、どの媒体も取り上げてくれなかった。昨今頻発しているネットとマスコミの相乗効果によるいじめのようなことが行われていますが、それが自分の身にも降りかかったのです。週刊誌の知り合いから独占インタビューを持ちかけられたこともありましたが、僕は映画監督ですから、せっかくなら映画でアンサーを返したい。その方がストレートにご覧になる皆さんに僕の気持ちをわかってもらえるのではないかと思ったのです。 



■日本映画界の名スタッフをはじめ、スタッフが100人駆けつけた現場。

―――本格時代劇を短期間で作り上げているが、その経緯は? 

豊田:5月1日に企画書を書き、関係性のある役者、スタッフにそれを送って、撮影は6月10日前後からスタートしました。スタッフ、キャストが集まって作る表現が映画ですから、内容も色々な人が集まる映画にしたかった。大まかな流れを書いた第一稿を作り、キャストが決まったら当て書きをしていくというシナリオ作りでした。1ヶ月後にはすでにスケジュールが入っている役者も多かったですが、皆、撮影の日だけは空けてくれました。スタッフも、撮影に『青い春』『泣き虫しょったんの奇跡』の笠松則通さん、映画界でナンバーワンの衣装デザイナー、宮本まさ江さんが衣装を全て持って来てくれましたし、ヘアメイクは高倉健さん付きだった佐藤光栄さん、そして小道具は五社英雄組のスタッフが参加してくれました。『るろうに剣心』に参加したクレーン技師を含め、通常以上に多い4人が集結したり、スタッフが総勢100人、車輌が70台と、皆が助けに来てくれたのです。 


■史上初のミニシアター全国一斉公開を実現。 

―――最初から全国ミニシアターでの上映を考えていたのですか? 

豊田:全国で上映するだろうとは思っていましたが、ここまで広がるとは想像していませんでした。通常は関係者試写、マスコミ試写他を行い、一般公開まで半年かかりますが、今回は7月に渋谷WWWでいきなりプレミアイベントを行いました。シネマート新宿、アップリンク吉祥寺、ユーロスペースが上映を申し出てくれ、いずれもご縁があるので、それならば、3館一斉にやりましょうと提案したのです。地方の劇場には、「映画監督の豊田ですが…」と直接電話をしました。劇場もすでに番組が決まっているケースが多かったのですが、「予告編2本飛ばしたらできます」と説得し、結局全国37館で公開。全国行脚中で、元町映画館で舞台挨拶12館目です。ミニシアターで全国一斉公開というのは史上初のことです。 


■16分の短編は、今の時代にあっている。良くも悪くも新しい挑戦。 

―――16分の短編を単独で1800円で公開するのも初の試みです。 

豊田:最初は30分ぐらいの作品になると思っていました。ただ、現在の観客は映画館でも30分もすればスマホを見たくなります。動画配信などで鑑賞する機会も増え、映画館で集中して観る能力、人間の集中力は落ちており、日本人の能力が少し別の方向に行っている気がします。16分の映画なら、何も見逃すまいと思って観るので、集中できるのです。音の面でも、今回は爆音の設定にしていますが、1時間もこの音量でするとスピーカーが潰れてしまいます。僕は昭和の人間なので2時間の映画も好きですが、短編映画は時代にあっている気がしますし、これから増えてくると思います。良くも悪くも新しい挑戦であることは確かです。 



 上映後の舞台挨拶では、司会の林支配人が「この映画は熱い気持ちで制作を決められ、スタッフが集まり、熱い気持ちで映画館も上映し、観客もその狼煙をキャッチしてくださったと思います。立ち上がれと言われているようで、気持ちがザワザワしました」と切り出し、豊田監督から制作の経緯の説明があった。初めて映画制作現場を体験している人や、親子で来場した人など、若い観客も多く、口々にその気持ちを伝える姿が印象的で、豊田監督も様々な観客からの質問に丁寧に答え、

「見えない敵は怖いが、社会を変えるとか大きなことはできなくても、自分の身の回りのシステムを変えることはできます。従来のシステムだと映画を撮っても、(興行収入からは)監督、スタッフ、役者にほとんどフィードバックがありません。そういうシステム一つ一つを変えていくことが、僕ができる目に見えないものへの闘いです」

と、今回の体験から映画業界のシステムへ、狼煙を上げようとしていることにも触れた。

最後に今後の夢を聞かれた豊田監督は、

「次の作品をできれば早いうちに撮りたいと考えています。もっと先の映画のことも考えていて、映画を作ることしか楽しみはない。映画は音楽や旅などの遊びが全部創作につながるいいジャンル。だから映画を撮ることが夢です」 


 ここで切腹ピストルズの大太鼓担当、祐太が名古屋より助太刀参上!気合の入った大太鼓の演奏で観客を魅了し、豊田監督から「切腹ピストルズのメンバーは普段から職人仕事をしており、野良着にふんどし姿、江戸の世界で生きています」と紹介された。祐太は「(時代劇の)映画の中でも普段着でした。豊田監督から映画のお話があると聞き、19人のメンバー全員が緊張してしまい、テイク5は絶対やっていました」と、演奏終わりで息が荒い中、映画出演の感想を激白。豊田監督も

「色々な表現があり、彼は音楽やがま口を作る人だし、他にも絵を描く人、料理をする人も日常で創造している訳です。根っこにあるのは、自分は何者かということ。それが創造することの核であり、日々、狼煙を上げているようなものなのです。みなさんも狼煙を上げ続けてください」

と、観客に呼びかけ、映画よりも長い舞台挨拶を締めくくった。

『狼煙が呼ぶ』は元町映画館で9月27日(金)まで絶賛上映中。    

※画像は元町映画館提供


<作品情報>

『狼煙が呼ぶ』(2019年 日本 16分)

企画・プロデュース・監督・脚本・編集:豊田利晃

出演:渋川清彦/切腹ピストルズ/高良健吾/松田龍平/浅野忠信 他

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