ツァイ・ミンリャンのDNAを受け継ぐポンフェイ監督のNARAtive2020作品『再会の奈良』が日本初上映。永瀬正敏、秋山真太郎が語る作品の魅力とは?


 なら国際映画祭2018の観客賞を受賞した中国の俊英、ポンフェイ監督がメガホンを取り、奈良県御所市でロケハンやシナリオ執筆のための取材を進め、2019年晩秋に現地で撮影したNARAtive2020作品『再会の奈良』が、9月18日より開催中のなら国際映画祭2020でジャパンプレミア上映された。


<ストーリー>

中国と日本にルーツを持つシャオザー(イン・ズー)は、両親が中国に戻った後も奈良でアルバイトをしながら一人暮らしをしている。ある日、祖母のように慕っていた中国人の老女が、ここ数年連絡が途絶えたままの養女・麗華を探すためシャオザーのもとを訪れる。戦後間もない頃中国残留孤児だった麗華を我が娘として育て上げた老女(ウー・ヤンシュー)はシャオザーと共に麗華を探し始めるが、日本名がわからないため手がかりが掴めない。シャオザーが働いていた中華料理店の常連だった元警察官の一雄(國村隼)が加わり、晩秋の奈良で麗華の足取りを追う日々が始まるが・・・。



 中国残留孤児を題材にしながらも、その語り口はやわらかく、ポンフェイ監督ならではのユーモアを滲ませている。風情のある晩秋の奈良県御所市の風景やそこで流れる時間となじむように、ゆっくりと、でも確かに麗華の足取りを追う中で、奈良で暮らすかつて中国残留孤児だった人や中国人たちの生き様やその文化にも触れていく。特に、時にはロシア語も織り交ぜ、日本語をしゃべらずともジェスチャーで見事なコミュニケーションをとる老女の存在は、コミュニケーションの本質を教えてくれる。入りは軽やかに、最後はぐっと深く染み入る、実に味わい深い秀作の誕生だ。



  上映後のトークショーでは本作のポンフェイ監督がオンラインで参加。河瀨直美エグゼクティブ・プロデューサー、出演の永瀬正敏さん、秋山真太郎さん、そして御所市の東川裕市長が登壇した。永瀬は「ポンフェイ監督はツァイ・ミンリャンのアシスタントを務めているので、そのDNAを受け継いでいる。ジャ・ジャンクーと河瀨監督がエグゼクティブ・プロデューサー、ツァイ・ミンリャンのカメラマン、リャオ・ペンジュンが撮影を務めてと、実はすごい企画です。それを新人のポンフェイが束ねて現場に立ち、いつもニコニコと現場をあたたかくあっためていただいた。しかも、自分もヒッチコックのように出演しているんです」とその才能や現場での采配ぶりを絶賛。聴覚障がいのある寺の管理人という難しい役どころだが、撮影は1日だけだったものの事前にしっかりと役作りをし、誰ともしゃべらないで過ごす日々を送ったという。「現場に入ってから撮られていないときも、ずっと筆談していました。筆談だからこそ伝わる何かがあります」と自身の役作りを振り返った。


   秋山はシャオザーの元カレで柿詰め作業場の同僚という役どころ。「脚本を読んだとき感動し、どんな役でもいいから参加させてとお願いしました。(老女にロシア語で)バカと言われるシーンが好きです。映画になっても感動するし、言語の壁を監督のアイデアで面白く昇華していますね」と初めて出来上がった作品を観た感想を熱く語った。役作りのために柿詰め作業も実際に行なったという秋山。シャオザーとの結婚を親に反対されるという役どころについて「言葉にするのが難しい感覚はまだ日本に残っている。都市に住んでいる人は全く気にしない人が多いが、僕の田舎でもまだ若干残っている感覚があります。それを変えたいとは思いますが」と振り返った。



 東川市長は自身が一番好きだという御所市の場所が映画で登場したのに感無量の面持ち。また400人もの自治会が参加したという祭りのシーンでは11月後半の夜の撮影にも関わらず、ポンフェイ監督がテイクを繰り返して粘ったというエピソードも披露。河瀬エグゼクティブ・プロデューサーは「ナラティブ(NARAtive)は造語で、ならとアクティブ、ナレイティブつまり物語性という意味で、私たちが紡いでいくものです。分断を呼ぶようなシチュエーションかもしれないけれど、言語の壁をユニークな笑いに変えて克服しています」と本作の狙いを表現。地域のお祭りを継承するのが困難な中、御所市が東川市長のもとで祭りを継承していることの重要性にも触れた。


 最後にポンフェイ監督は「日本と中国には長い歴史があり、文化の交流もある。その中でも嫌な思いもあればいいこともありますが両国間が深い友情で結ばれているのは、この会場(なら国際映画祭2020)と同じです。中国と日本、両国の皆さんと共に努力して友情を深めたいと思います。このような機会がなければこの作品は誕生できなかった。コロナの状況を乗り越え、やっとみなさんにお目にかけることができました。今日は日本でのプレミア上映でとてもうれしいです。この場を借りて、感謝申し上げます」と挨拶、笑顔で締めくくった。

なら国際映画祭2020は9月22日(火・祝)までならまちセンター他で開催中。