「日常の退屈をぶっ壊してくれる佐々木をぜひ観てほしい」 『佐々木、イン、マイマイン』細川岳(主演、共同脚本)インタビュー
学生時代を振り返ると、いつもムードメーカーだったアイツのことが頭に浮かぶという経験を持っている人は実は多いのではないだろうか。心の中のヒーローはいつまでも色褪せない。そんな誰もが思いを重ねられるような永遠の青春映画『佐々木、イン、マイマイン』が11月27 日(金)より新宿武蔵野館、大阪ステーションシティシネマ、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸他全国公開される。
監督は、PFFアワード2016観客賞受賞作『ヴァニタス』も11月公開予定の内山拓也。同作で主演を演じた細川岳が、高校時代の体験をもとに内山監督と共同脚本を担当、さらに藤原季節が演じる悠二の忘れられない同級生、佐々木を自ら演じている。同級生仲間役に遊屋慎太郎、森優作、現在の悠二が同棲中の元カノ役に萩原みのり、悠二の俳優の後輩に村上虹郎と今注目の20代俳優陣が集結し、実にエネルギッシュかつ、懐かしさを覚える普遍的な青春映画に仕上がっている。特に「佐々木コール」に乗って裸で踊りまくる佐々木の爆発力は、一度見ると忘れられないインパクトがあり、『宮本から君へ』に続く全力疾走映画と言えるだろう。
本作の主演、共同脚本の細川岳さんにお話を伺った。
■今でもその姿が蘇るあいつを、ずっと演じたいと思っていた。
――――細川さんが演じた佐々木の存在感が圧巻でした。この佐々木にはモデルになる人物がいたそうですが、細川さんの学生時代の思い出を含めてお聞かせください。
細川:モデルになったのは高校時代の同級生で、学生時代の僕が悠二のような存在だったのに対し、あいつは絶対的な存在でした。ある時あいつにとって大きな出来事が起き、その翌日あいつは学校に来て、「お前らコールやれよ」と言ったんです。映画の流れとは違いますが、実際に僕らはコールをやり、あいつは全部服を脱いで踊るのだけど、その時の顔が本当にすごかった。10年前の出来事ですが、あいつの顔や学校の廊下、すれ違う人の目など全ての光景がいつでも僕の中で蘇るぐらいにこびりついていて、僕自身もずっと前から、「どんな役を演じたいか」と聞かれるたびに、あいつを演じたいと思っていたんです。
――――やりたい役を俳優自身が企画するというのは、最近の俳優の動きの一つでもありますね。
細川:自主企画で監督した事もありますが、自分にはその才能はないと思っていて、映画にする事を諦め小説を書き始めました。悠二に反映しているように俳優業もなかなかうまくいかない。芝居ができる環境があまりなく、面白い映画やスクリーンの中で生きる俳優を見ては俺だってやれるのにっていつも思ってました。そういう日常に耐え切れず、やめるまえに最後にやりたいことがあると、繋がりのあった内山監督にあいつのことを話して映画化したいと相談すると、内山監督は「俺に撮らせてくれ」と言ってくれたんです。
――――内山拓也監督の長編デビュー作『ヴァニタス』で細川さんは主演をされていますが、内山監督との出会いは?
細川:僕が監督作を撮っている時、録音部を探していた時に当時のキャメラマンが連れてきてくれたのが内山だったんです。『ヴァニタス』(PFFアワード2016観客賞受賞作、11月13日公開)の時は、急に内山監督から連絡が来て出演をオファーされましたね。
■内山監督とキャッチボールを重ねた脚本秘話。
――――今回は内山監督と共同脚本ですが、どのように作業を進めていったのですか?
細川:僕としては内山に全て脚本を書いてもらいたかったのだけど、モデルに対する思いがあまりにも強く、どのエピソードも面白いので、内山から「お前の高校時代を全部知りたい」と言われたんです。ノートに覚えていることや、高校時代の友達との思い出、彼らの性格などを全部書き出して渡したんです。これで内山が書いてくれるだろうと思ったら、「一回、お前が書いてみて」と。すでに色々と書き出していたのですでに見えてきたこともあり、一気に書き上げて渡すと、内山から「これでは伝わらない」とダメ出しされたんです。
――――シナリオ塾みたいですね。
細川:ヤバイと思い、最初主人公の設定は違っていたのですが、主人公を今の自分に置き換えてみると、「オモロイ」とOKが出て、そこからは内山が書いたものを僕が読んでというキャッチボールを繰り返しました。
――――映画の中の劇中劇として登場する「ロング・グッドバイ」が映画と重なる構成も見事ですね。
細川:ちょうど脚本を書いていた時、実際に友達の俳優から一緒に芝居をやらないかと誘われ、渡された台本が「ロング・グッドバイ」だったんです。その時、「これや!」と思って、脚本に入れました。
■悠二役は『何者』から注目していた藤原季節に即決。
――――佐々木のことを思い出す主人公、悠二役を藤原季節さんにオファーした経緯は?
細川:オファーする前に、僕が悠二を演じるという選択肢もあったんです。僕が佐々木を演じたいということから始まった企画ですが、脚本を書き進めるうちに、やはり主人公が作品を背負うので僕がそれを背負いたいという気持ちも生まれたんです。そういう葛藤があった時、内山さんから失敗しても後悔しないのはどちらを演じた時かと聞かれ、そこで僕の迷いが吹っ切れました。
(藤原)季節は、『何者』(16)を観た時にすごく気になったのが最初です。その後、『止められるか、俺たちを』(18)で共演した時は「こいつヤバイ」と、彼のエネルギーが凄かった。僕はジェラシーが強いので、部屋の隅から季節をじっと見ていたのですが、季節はその時「あいつ、隅でなんもしゃべらんと、何してるねん」と思っていたらしいです(笑)。今回の悠二役は季節がいいと内山に相談し、監督の構想にも入っていたので、即決でした。品田誠特集上映の宣伝会議の席で、実質的には季節と初めてきちんと話をしたのですが、帰りに脚本を渡してオファーし、すぐに脚本を読んでやりたいと連絡をくれました。
――――細川さんと同じく大阪出身の森優作さんも同級生の木村役で出演していますね。
細川:季節と同じぐらいのタイミングで決まっていたのは、森優作さんと悠二の元カノ役の萩原みのりさんです。森優作さんは現場で一緒の時に、木村は森さんしかいないと思ってオファーしましたし、萩原さんは『お嬢ちゃん』を見て、彼女しかいないと。
――――佐々木が暮らす昭和臭漂う汚部屋が、同級生たちの根城になっていましたが、そこが彼らの学生時代一番の思い出の場所でもあり、非常に雰囲気が出ていました。
細川:福島奈央花さんが美術を担当してくれたのですが、登場人物の役のことを一番考えているのではないかというぐらい、全てをきちんと考え、美術として落とし込んでいるので演じる方としても本当に助かりました。部屋の匂いがしてきそうですよね。佐々木の雰囲気から想像できないだろうけど本をよく読むし、絵を描く。その部分もあの家の中で表現されています。
■佐々木を演じていると生きている実感があった。
――――佐々木は佐々木コールに乗って、同級生たちの前で脱いで踊ってみんなを盛り上げますが、演じてみていかがでしたか?
細川:藤原、遊屋、森が撮影前から僕を佐々木と見てくれている雰囲気があったので、「俺、佐々木や」みたいな感じになれ、すごく楽しかったんです。脱ぐシーンもだんだん楽しくなってきた。だけど、佐々木を演じた日は死ぬほど疲れましたね。生きている実感がありました。佐々木は誰かといることに固執していたというか、寂しがりだと思います。
――――佐々木の父親を演じた鈴木卓爾さんの存在感も見事でした。滅多に家に帰らない父親という設定で普通ならネグレクトというマイナスイメージが付きまといそうですが、ふわっと現れて、すっと消えてしまう。佐々木も父のことが好きでたまらなかったですし。
細川:メチャクチャ良かったです。卓爾さんは「お父さん、こういう感じなんだ」と僕の想像の上をいく感じで、卓爾さんのおかげで父親像がはっきりしたんです。劇中、父子でゲームをするシーンがすごく好きでしたね。どんどん佐々木が追い込まれていく中で、撮影前に卓爾さんと話したことや、卓爾さんに勧められて読んだ漫画やゲームのシーンなどが佐々木の父親に対する思い出として全て紐付いてきたんです。
■「誰もが誰かの青春」だし、そうありたいとすごく思う。
――――佐々木は悠二に俳優になれと勧めますが、佐々木にとって憧れの存在だったのでしょうね。
細川:悠二は佐々木に憧れていたし、佐々木も悠二に憧れていた。予告編で「誰もが誰かの青春」という言葉が流れますが本当にその通りで、誰かに憧れているあなたも、誰かに憧れられている存在だし、そうでありたいとすごく感じますね。
――――「誰もが誰かの青春」というのはこの作品のテーマでもありますね。現代部分で悠二の葛藤や劇中劇「ロング・グッドバイ」と重なるあたりもリアルかつ詩的に描かれていましたが、内山監督の演出によるところも大きいのでしょうか?
細川:脚本になかった部分を現場で補完していくことも多かったですね。内山監督はクランクイン前にリハーサルの時間を非常にとるタイプなんです。今回は佐々木のクラスメイト全員とクランクイン前にバスケットボールをしたり、全員でファミレスに行ったり、撮影では埋まらない時間を、リハーサル段階できちんと埋めようとするんです。それをすることで、演技にも説得力が生まれるんです。
――――悠二をはじめとする仲良し4人組ではどうですか?
細川:すごくたくさん一緒に時間を過ごしましたね。僕は全員とサシで遊びに行きましたし、僕がこの作品を作りたいという熱と同じぐらいの熱を持ってくれたので、皆で作ったという意識がとても強いです。
■内山の中に、佐々木の基準がはっきりとあった。
――――佐々木を演じるにあたっての内山監督からの演出もあったのですか?
細川:内山の中で、これは佐々木だとか、これは佐々木じゃないという基準がはっきりしているんです。悠二とテレビを見ながら、「おまえ、やりたいことやれよ」と言うシーンがあるのですが、そこで予定にはなかったのに僕は涙を流してしまった。それなのにカットのあと内山がOKと言ったので、僕はもう一度やらせてほしいと頼んだのですが、彼の中ではむしろ佐々木らしくて、「絶対に大丈夫だから、信用しろ」と言われたのをすごく覚えています。内山が突き通すことに意見をすることはあっても、信頼し、それに従っていましたね。
――――悠二に演劇「ロング・グッドバイ」を一緒にやろうとさそう後輩役で村上虹郎さんも出演されています。
細川:虹郎と同じシーンはなかったのですが、試写が終わった時、虹郎が何も言わずにハグしてきたので、すごく良かったんだなと思い、うれしかったですね。僕と内山と季節は3人並んで試写を見ていたのですが、エンドロールぐらいで3人とも思いが大きすぎたので、声を出して泣きました。
――――佐々木らしさを貫いたラストも見事でした。
細川:ただぐっと感動しただけで終わりたくはなかったんです。当初は別のエンディングを予定していたのですが、佐々木だったらそのエンディングでこの映画を面白いと言うだろうかと自問自答すると、いや、違うなと。
――――悠二と同様に、きっと代表作になるであろう『佐々木、イン、マイマイン』以降に細川さんがどういうキャリアを歩むのかも注目していきたいですね。
細川:悠二もこれから自分がどうしていくかを見据えていますが、そこも含めてまさに自分の映画だと思います。
■これは人生の映画であり、人生の中の青春の映画。
――――最後に、これからご覧になるみなさんにメッセージをお願いします。
細川:悠二と同じような俳優をはじめ、モノを作っている人、何かやりたいけれどうまくいかない人にはぜひ観てほしいですし、エネルギーを感じてもらえると思います。佐々木は日常の退屈をぶっ壊してくれる人物ですから、日常が退屈だと感じる瞬間が多い人にもぜひ観ていただき、青春を更新してほしいです。青春映画とよく言われますが、これは人生の映画であり、人生の中の青春の映画なので、それをもう一度観ているみなさんに見つけていただきたいですね。
(江口由美)
<作品情報>
『佐々木、イン、マイマイン』(2020年 日本 118分)
監督:内山拓也
脚本:内山拓也、細川岳
出演:藤原季節、細川岳、萩原みのり、遊屋慎太郎、森優作、小西桜子、河合優実、井口理(King Gnu)、鈴木卓爾、村上虹郎
11月27 日(金)より新宿武蔵野館、大阪ステーションシティシネマ、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸他全国公開
公式サイト⇒https://sasaki-in-my-mind.com/
(C) 「佐々木、イン、マイマイン」
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