「不確かさ」や「繋がりと分断」の追求をテーマに。『こことよそ』JPハバック監督インタビュー
コロナ禍で外出が規制され、四六時中、自宅で過ごす大学院生の“リモラブ”の行方を描くフィリピンのJPハバック監督の最新作『こことよそ』が、第16回大阪アジアン映画祭で世界初上映された。
主演はOAFF2020『女と銃』でフィリピンのアカデミー賞最優秀主演女優賞に輝いたジャニーン・グッチェーレス、相手役には『女と銃』で共演したOAFF2018『ミスターとミセス・クルス』のJCサントス。オンラインとオフラインをミックスさせながらリアルな2人の心情を描写するだけでなく、フィリピンの厳しい外出制限の状況や、徐々に感染者が増していく様子など、不安とともに生きる様々な立場の人を描いている。
本作のJPハバック監督にメールインタビューを行ったので、その内容をご紹介したい。
―――コロナ禍、厳格な外出制限の中でのフィリピンの若者たちの生活ぶりや、気持ちのコントロールが効かなくなる様子、その中でもささやかな歓びの時があることがとてもリアルに表現されていましたが、ここまでリアルに映画へ反映させようとした理由は?
また、映画でも描写されていたがフィリピンでの外出制限の期間や、内容についてもお聞かせください。
ハバック監督:最近の情勢を反映したストーリーを語り、社会で起きていることについてのメッセージを伝える、いい機会だと思いました。フィリピンの外出制限は世界で最も長く、もう1年以上も続いています。エンターテインメント産業をはじめ、多くの産業が大きな影響を受けています。
―――JPハバック監督ご自身は、外出制限下、どのように過ごしていたのですか?
ハバック監督:ひとりでアパートにこもっていたので、やることといったら、仕事をしたり、オンラインでたくさん映画やドラマを見たり、焼き菓子づくりに挑戦したりするくらいでした。もう少しでVlog(動画ブログ)にまで手を出すところでしたが、さすがにそれはやめておきました(笑)。
―――昨年『女と銃』で衝撃的なデビューを飾ったジャニーン・グッチェーレスが演じた主人公、レンは、彼女の魅力が最大限に発揮されていました。キャスティングの経緯を教えてください。また、シナリオを書くにあたって彼女の実体験(等身大の20代女性)を取り入れたりしたのでしょうか?
ハバック監督:ジャニーン・グッチェーレスをレン役に起用することは、本作において最も簡単な決断でした。彼女が候補に挙がった時、すぐに「ジャニーンがベストチョイスだ」と製作チームに伝えました。ジャニーンは積極的に発言する人で、自分のプラットフォームを使ってみんなにメッセージを伝えています。そういう意味でもレンに似ていると思います。
―――共演のJC サントスさんは前作でもタッグを組んでいますが、その魅力は?
ハバック監督:JCは多才な俳優で、相手役の女優が誰であろうといいケミストリーを見せます。
―――映画の撮影再開までも様々な困難があったと思いますが、それらをどのようにしてクリアにしていったのですか?撮影時の工夫、撮影方法について教えてください。また、フィリピン映画全体でどのようなガイドラインが示されたのでしょうか?
ハバック監督:外出制限の間、多くの映画関係者がパンデミックのために仕事を失いました。そのため、彼らが安全に仕事に復帰できるようにいくつかの組合ができました。また、安全対策として、1日の撮影時間を12〜14時間に短縮したり、ソーシャルディスタンスを保つために現場スタッフの人数を減らしたりしました。
―――この映画の魅力の一つは、リモートでしか繋がれない現実を、映画的表現でそこにいるかのように感じさせてくれるところです。「繋がっているけれど会えない」ということを表現するために、配慮したことは?
ハバック監督:トリートメント(プロット)を書く段階から、「不確かさ」や「繋がりと分断」を本作で追求するテーマとして考えていました。
―――この作品では外出自粛をしている人と、仕事を休めない人(レンの母)、失職し、また配達の仕事を続けている人(カロイ)と様々な立場の人が登場します。特にレンとカロイの口論から格差や立場の違いによる断絶を感じましたが、フィリピンでもそういうケースが増えているのでしょうか?
ハバック監督:個人的なレベルで本作に思い入れがある理由は、このような経験をした友人や家族が私の周りにたくさんいるからです。ですから、フィリピンでこのようなケースは増えていると言わざるを得ませんね。
―――音楽にジェロルド・ターログ監督(OAFF 2017 BLISS)がクレジットされていましたが、依頼した経緯は?
ハバック監督:ジェロルド・ターログは私の長編デビュー作『I’m Drunk, I Love You(原題)』でも音楽を手がけています。
―――JPハバック監督がこの作品に込めた思いや、コロナ時代を体験している映画人として今後取り組みたいことがあればお教えください。
ハバック監督:空間に閉じ込められている今だからこそ、距離に関係なく人と繋がることはできるのだと思い出すことが重要です。人を受け入れることで、人生はより耐えうるものになるのです。これからもジャンルを問わず社会の現実を反映したストーリーを伝えていきたいと思っています。
(江口由美)
インタビュー翻訳:今井祥子
『こことよそ』Here and There [Dito at Doon]
(2021年 フィリピン 100分)
監督:JPハバック
出演:ジャニーン・グッチェーレス、JC サントス、ヴィクター・アナスタシオ、イェッシュ・ブルセ、ロトロト・デ・レオン
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