「緩さの中に、伝えるメッセージがしっかりある作品を作りたい」『ほとぼりメルトサウンズ』『暮らしの残像』東かほり監督インタビュー
3月10日よりシアター上映を開催中の第17回大阪アジアン映画祭で、インディ・フォーラム部門《焦点監督:東かほり》として長編『ほとぼりメルトサウンズ』、短編『暮らしの残像』の2本が特集上映されている。
『ほとぼりメルトサウンズ』は、xiangyu(シャンユー)を主演に迎え、祖母の空き家に訪れた女性と、庭に立てたダンボールハウスにすみ、音を集める老人との交流を描いたMOOSIC LAB[JOINT]2021-2022 参加作品。『暮らしの残像』は、ある一人暮らしのアパートに入ろうとした女性が鍵を開けられずにいる間に次々と、自分の家と称する人が登場するワンシチュエーションコメディ。ワークショップから生まれた短編だ。正反対のテンポ感、作り方の両作を観ることで、かえってそこに佇む優しさや、社会、日常を見つめる視点を感じることができるだろう。当特集のゲストとして来場した東かほり監督にお話を伺った。
―――まずは焦点監督として大阪アジアン映画祭で特集上映されることに対してのお気持ちを伺えますか?
東:大阪アジアン映画祭は、日本の中で大きい映画祭というイメージでしたし、わたしが好きな作品や、『ほとぼりメルトサウンズ』も参加しているMOOSIC LABの作品もいくつか上映しているので、いつかわたしの作品も上映できたらいいなと思っていました。今回、インディ・フォーラム部門で焦点監督として出品させていただけたのは、驚くと同時にとても嬉しかったです。
■プロットを書いていた高校時代
―――ちなみに、お母様は歌人、作家の東直子さんですが、東監督が子どものころ、母の影響を受けた部分はありましたか?
東:ありますね。母はもともと短歌をよんでいたのですが、わたしが高校時代に小説を書き始め、常に何かをしている人でした。母が何かをし続けているということに影響を受け、わたしも何かをやる人になりたい、好きなことを仕事にできたらいいなと思っていました。
―――本もよく読んでいたのですか?
東:わたしも母のように、高校時代から何かしら面白いことがあればメモをして、小説の始まりぐらいまでは書いていたんです。でも小説は、言い回しが深さを出すイメージがあり、それが難しいと思ってしまった。物語は思いつくけれど、それを小説に落とし込むのはできないと判断し、画は浮かんでいるので、それならば映画をやってみたいという方向に向かっていきましたね。
―――なるほど、プロットみたいなものはいろいろと浮かんでいたんですね。
東:プロットはいくつもあったので、『ほとぼりメルトサウンズ』は以前のプロットをもとにした部分も結構あります。
―――今回はミュージシャンやアーティストとのコラボということで、本作の音楽も担当しているケンモチヒデフミさん(水曜日のカンパネラ)がサウンドプロデュースするxiangyuさんの連載エッセイから着想を得たそうですね。
東:xiangyuさんが、友達のおじいさんとの交流を雑誌のコラムで連載されていたのを読んで、この関係性をシナリオに活かしたいと思い、わたしもおじいさんに取材をさせてもらったりしました。
―――映画では老人が、土砂災害で亡くなった妹の話をしていました。東日本大震災のことを想起させましたが、その狙いはあったのですか?
東:特に何かの災害に重ねてということではありませんが生きること、死ぬことについて昔からすごく考えていたんです。ただ生と死を重いテーマで描くことはしたくなかったので、自分なりの触れ方をできたらいいなと思い、取り入れてみました。
■音を集める老人役、鈴木慶一さんの歌詞と脚本がリンクして
―――音を集める老人を演じるのは、ムーンライダーズの鈴木慶一さんで、とてもフィットしているのに驚きました。ニューミュージック世代からすれば神様的存在ですが、このキャスティングはどうやって実現したのですか?
東:鈴木さんは私の父母世代が好きな曲で、車でも流していたのでわたしも曲を知っていたのです。インディーズ映画なので出演してもらえるなんて思ってもいなかったのですが、髭野プロデューサーが鈴木さんの名前を挙げたとき、「めちゃくちゃいいですね!」と意気投合し、お手紙を書いたり、脚本を送らせていただき、引き受けていただきました。たまたまですが、鈴木さんの曲の歌詞とリンクしている部分もあったことも功を奏したようで、引き受けていただけました。
―――具体的にどんな曲ですか?
東:「夢が見れる機械が欲しい」という曲で、自分の声を録音して土の中に埋めるという内容の歌詞があったのです。私はその曲のことを存じ上げなかったのですが、偶然一致したんですね。また、私がデザインの学校に行っていた20歳ぐらいの頃、業界関係者と飲むからと先生に誘われて参加した場に鈴木さんもいらしたそうで、いろいろ繋がっていたみたいです。
―――それは鈴木さんも嬉しかったでしょうね。今回は舞台となる家がまた立派な日本家屋で、家具や置かれているものも昭和風で見ているだけでホッとする感じがまた良かったです。もともとレトロなものが好きなのですか?
東:はい。昭和っぽいものが好きで、おばあちゃんの家に行くと、ずっと見ています(笑)美術さんにも「より昭和っぽく」とお願いしました。
■『ほとぼりメルトサウンズ』のこだわりとキャスティング
―――音を集める物語ということで、音へのこだわりを大いに感じました。
東:音楽はもちろん聞きますが、普段から外の音や日常の音、子どもの声を聞いたり、人の会話にちょっと聞き耳を立ててメモをしたりするんです。たまに録音をして、自分で聞いていることもあります。だから日頃から好きな日常の音を集めている人を作り上げて映画に入れたいと思っていました。
―――映画では疑似家族のようになっていく会社員2人の存在が楽しかったですが、演じた宇乃うめのさんは、とてもいい存在感を出していましたね。動画インタビューでも非常に仲が良さそうでしたが。
東:存在感が強いのですが、結構人見知りで前にはでないんです。でも目立つ!
―――これから東監督作品のは必ず出るような俳優さんになりそうですね。
東:いやあ、出てほしいですね。
―――『アルプススタンドのはしの方』の平井亜門さんも、飄々とした雰囲気が作品にマッチしていましたが、オーディションですか?
東:平井さんはわたしからオファーしました。『アルプススタンドのはしの方』でもよかったですし、舞台挨拶の平井さんがイケメンなのに意外と抜け感があって、そこが面白いなと思い、途中からは当て書きしました。
―――そして、何と言ってもxiangyuさんの存在感が素晴らしかったですね。普段から自然体の方ですか?
東:普段から明るくて、可愛らしい方です。すぐにセリフを覚えられますし、一方でセリフが言いにくいときはちゃんと言ってくれるので、一緒に別の言い回しを考えたりもしました。とても楽しかったですね。
―――xiangyuさん演じるコトは寝る前にカセットテープにその日のことを吹き込みます。今だったらSNSに書き込むところですが、この演出にした狙いは?
東:スマホのような現在っぽいものは、映画の後半に向けて減らしていきたいと考えていました。若干出てきますが、デジタルなものをなくしていくことを意識していたので、スマホにメモではなく、カセットテープに録音することにしました。
■平和な時間を描写する、食べ物のシーン
―――本当に食べ物が美味しそうですよね。『暮らしの残像』はメイン写真からすき焼きですし、『ほとぼりメルトサウンズ』は朝ごはんといい、映画の中での食べるシーンやそこで映る食べ物に並々ならぬ思い入れを感じました。
東:そう言っていただけるのは、本当に嬉しいです。食べることがそもそも好きですし、家族で食べるご飯や人と食べるご飯はすごく意味があります。普通に家族でご飯を食べることができるのは、すごく平和でいい時間だと思うのです。だから、映画上で食べ物が美味しそうに見えているときは、幸せなシーンに映るのではないかと思い、カメラマンにも「なるべく食べ物を美味しく見せたい」と相談し、美術さんにも出来たての料理が出せるようにお願いしました。
―――幸せの湯気が朝ごはんから立ち上っていました。映画全体が丸いというか、トゲトゲしさがなくて、だからといって緩いのではなく、世の中のことも映し出されている。このバランスが東監督の作風なのかなと思ったのですが。
東:山下敦弘監督や沖田修一監督のように、ほのぼのとしてくすっと笑える作品が大好きなのですが、お二人とも緩さの中に、伝えるメッセージがしっかりあるので、そういうのは取り入れたいと思い、わたしだけだったら緩すぎてしまいそうなところを共同脚本の永妻優一さんと相談しながら、バランスを考えてもらいました。二人で書いたから成り立ったと思います。お互いに客観的な意見が言えるので、いいですね。
―――『ほとぼりメルトサウンズ』のタイトルについて聞かせてもらえますか?
東:「ほとぼり」町という架空の町で、ほとぼりが冷めるといいますが、何かわけがあるのかなという設定になっています。「メルトサウンズ」はそこに音が溶けていくという意味で、日本語とカタカナを混ぜたいと思い、皆でかなり話し合って決めました。もっと堅いタイトル案もありましたが、ポップさがあった方がいいのではと。
■ワークショップから誕生、コロナ下で作り上げた『暮らしの残像』
―――なるほど、確かにポップ感のあるタイトルですね。一方『暮らしの残像』は、短編で、とてもテンポがあり、登場人物はわんさか出てくるし、途中で数えられなくなりました(笑)
東:11人参加のワークショップからできた作品で、本当はコンビニに行ったり、河川敷のシーンがあったりする群像劇を想定していたのですが、コロナ下で撮影予定地がことごとく使えなくなってしまった。それならばワンシチュエーションで考えようと、一旦ゼロからスタートした中で、当時アパートで一人暮らしをしていたので、前にはどんな人が住んでいたんだろうと考えていたときに思いついた企画です。
―――今回、長編と短編の2本を特集していますが、やはり全然作り方は違いましたか?
東:『ほとぼり〜』は撮影を予定していた時にコロナが始まり、撮影を止めて1年延期したんです。その間に脚本もどんどん変更し、今までで一番脚本に時間をかけた作品になりました。『暮らしの残像』は『ほとぼり〜』の直後に1ヶ月で仕上げるという切羽詰まった感じでやっていたので、制作環境も全然違いましたね。
■10代の大人になるかならないかの時期のことを、描いてみたい
―――いろいろなやり方で撮れるというのは経験にもなりますし、違いの中に東監督流のユーモアも入って、これからも楽しみになりました。今後の予定は?
東:具体的なものはまだ決まっていませんが、今後撮りたいと思っているのは10代の時の自分。完全に自分だけのことにはしたくありませんが、変なことをする時代が人間にはあるなと思うんです。変なことばかりしていたので、何かしら共通点を見つけたいという想いがあります。そういう話を考えたいですね。
―――変なこととは?
東:最初、友達がいなかったので、ひとりの時に、もう一人いるという設定で遊んでいたり、物にぶつかった時に数を数えるとか、10秒間じっと物を見続けなくてはいけないとか、謎のルールに縛られて生きていたんです。そこからやっと人間になっていくという一番面白い時期だったので、10代の大人になるかならないかの時期のことを、たくさんの人に聞いて書けないかと考えています。
―――今年の映画祭ラインナップでも思春期年代の青少年が主人公の作品は多いですが、東監督が描くとまた面白いものが生まれそうですね。それでは最後に、メッセージをお願いいたします。
東:祖母の家が大阪なので、親しみのある大阪で上映されたのはとても嬉しいです。『ほとぼりメルトサウンズ』は今後劇場公開に向けて動いていければと思いますし、『暮らしの残像』も配信などで観ていただけるようにしていきたいと思いますが、まずは映画祭のスクリーンでご覧いただきたいです。
(江口由美)
<作品紹介>
『ほとぼりメルトサウンズ』Melting Sounds (2021年 日本 80分)
監督・脚本:東かほり 脚本:永妻優一
出演:xiangyu(シャンユー)、鈴木慶一、平井亜門、宇乃うめの、坂田聡
©️「ほとぼりメルトサウンズ」製作委員会
『暮らしの残像』The Residents(2022年 日本 16分)
出演:広瀬冬馬、相馬有紀実、岡凛、真嶋篠花、藤本てぃふぁにぃ
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