「子どもの気持ちを汲み取れる大人が増えれば、子どもも風通しよく生きられる」『ゆめパのじかん』重江良樹監督インタビュー


 神奈川県にある公設民営の「川崎市子ども夢パーク」(以降ゆめパ)や、施設内にある「フリースペースえん」に通う子どもたちの営みやその成長を映し出すドキュメンタリー映画『ゆめパのじかん』が7月23日(土)から第七藝術劇場で公開中、7月29日(金)から京都シネマ、8月6日(土)から元町映画館にて公開される。

 『さとにきたらええやん』の重江良樹監督が3年かけて撮影した本作では、子どもたちのやってみたいを実現させるべく、子どもたちと話し合いを重ねながら作り上げてきたゆめパで、学校に馴染まない子どもたちがイキイキと自由な活動を行っている姿を多数映し出す。大人たちも子どもたちの目線で話を聞き、余計な手出しはしない。自分でやりたいことを見つけていく姿に、生きる力はこうやって培われるのかとハッとさせられる。

正スタッフだけでなく、木工を教えるベテランのボランティアスタッフや学生のボランティアスタッフなど、様々な大人たちに見守られながら、自分の好きなことや将来を見つけていく子どもたちの力にも注目したい。

本作の重江良樹監督に、お話を伺った。




■『さとにきたらええやん』と共通しているのは、子どもを中心に子どもの最大の利益を考えるという理念

――――『さとにきたらええやん』では、運営者と共にそこに子どもを通わせる保護者たちにもカメラを向けていましたが、今回はまさに「川崎市子ども夢パーク」で遊び、自らの好きなことを探求する子どもたちが主役ですね。まず、前作から本作への経緯や2作品の違いを教えてください。

重江:『さとにきたらええやん』を観てくださった方たちから、「自分の子どもにこんな場所があればよかった」というお声をいただいたことから、次も子どもの居場所について撮りたいと思っていました。『さとにきたらええやん』は大阪の西成にある「こどもの里」が舞台で、大阪の人情が滲み出る、とても賑やかな作品テイストでしたが、今回はゆったりとした時間の流れの中で、子どもたちの活動やその成長を描いています。ただ、それ以外では、二つとも、子どもを中心に子どもの最大の利益を考えるという理念が共通している場ですし、子どもたち一人ひとりを見つめる中で、子どもが自らを育てていく力を再確認できました。子どもたちの目線で向き合う大人がいる、彼らにとって安心安全な場では、より育つ力が増すことも確認でき、まさに兄弟姉妹作になったと思います。


――――「川崎市子ども夢パーク」(以降ゆめパ)元所長の西野博之さんとは、講演会で出会ったそうですね。

重江:「こどもの里」の荘保さんが講演会で西野さんを招いた時に、僕は撮影を依頼され、記録していたんです。その後『さとにきたらええやん』の公開時には、東京のトークゲストで西野さんに来ていただきました。居場所の映画を作りたいと思っていたので、ゆめパを見学させていただきたいと思い、現地に行かせてもらったのがご縁になりました。最初はとにかく広いのに驚きましたね。税金をきちんと使ってスタッフを雇い、約一万平米の規模で子どもたちの居場所を運営しているケースは他にないです。


――――工場跡地が、子どもたちの居場所になる巨大な、しかもハコモノではない自由に遊べる拠点になっているのに驚きました。

重江:しかも、子どもたちの意見を元に作られ、運営の中で反映させている。本当に素敵な場所だと思うし、子どもたちがゆっくり、伸び伸びと過ごしているのも印象的でした。フリースペースも、もっとセンシティブな感じがするのかと思いましたが、そこに通っている子どもたちはとても元気が良くて、僕の中の不登校の概念も覆されました。



■子どもと同じ目の高さで、共に考える

――――西野さんや、ゆめパのスタッフのみなさんが子どもたちと接する姿も、理想的だなと思いながら拝見していました。

重江:西野さんをはじめ、周りのスタッフの人たちはとても柔らかく、指導という感じではなく、同じひとりの人間同士として子どもたちと接しておられます。ゆめパの理念と同じく、なるべくお節介なことはしない。自分たちでやりたいことをやり、自分たちでどうするか考えて答えを出す。そういう子どもたちの体験を重視されています。また、彼らから相談が寄せられたら、同じ目の高さで共に考えるのです。


――――子どもたちの自由な姿をローアングルから、まさに子どもの目線で捉えていますが、子どもたちにカメラを向ける前にどんな準備段階を踏まれたのですか?

重江:最初に訪れたとき、ゆめパで子どもたちが集まるミーティングにて自己紹介をさせていただき、「みんなにとってゆめパは当たり前だけど、こんな場が欲しいと思ってもこんな場が無い子どもは全国にたくさんいるから」と、映画でみんなの日常を伝えることで、必要としている子どもたちの近くに仲間といられる場所や、話を聞いてくれる大人が現れるかもしれないので、撮らせてねとお願いしました。そこから3ヶ月ぐらいは、まず子どもたちに僕のことを知ってもらい、僕もみんなのことを知る時間だと思い、カメラを回さずに過ごしました。



■雑多な人が集まる場で起きる化学反応が魅力に

――――子どもたちは本当に色々なものを作り、四季を通じてその成長やゆめパでの営みが垣間見えますよね。

重江:僕はいい場所だと思っていますが、ゆめパを啓蒙する映画にはしたくなかった。ここで過ごす子どもたちの姿を通してこの場所が浮かび上がるような映画を目指しましたから、撮影においては子どもたちが中心で、この作品を導いてくれたと思います。異年齢、多世代の子どもたちが集う場なので、ひとりの子の変化を見せることはできないけれど、じっとアリを見ている子もいれば、自分の学力に悩んでいる子もいたり、もう少し大きくなって本気で将来のことを考えたり、高卒認定取得を目指す子もいる。そんな広がりや、様々な化学反応が起きるというのも雑多な人が集まる場の魅力なので、映画の構成でも意識しました。


――――子育て経験があるので、子どものやることに口を出さないということがいかに難しいことかが、よくわかります。

重江:子どもたちと、本当にたくさんの対話が必要なんです。子どももひとりの人間ですから、思っていることを相手に伝えるのは当然の権利です。ただ、それを親子という非常に近い結びつきの中で毎回喧々諤々とするのはしんどいかもしれません。それでも対話をするという意識があるかどうかで、ふとした時に「なぜ早く宿題できないのか」と叱るだけでなく、何か理由があるのかと子どもの話を聞いてみる機会を作れるのではないでしょうか。



――――ゆめパでは1日何をして過ごすかは自分で考え、自分で決めます。学校や習い事に忙殺されたまま過ごしてしまうと、自分で考える力がなかなか身につかないと感じるので、ゆめパの自由さは、一方で考え決断するという大事なことが自然とできるようになる下地となっていますね。選択肢もたくさんあります。

重江:自分で考え、自分で決断していくということは大事でありかつ、実は当然のことなんです。音楽やダンスなどの講座もありますが、参加する/しないも自由だし、強制をしない。そこがいいところですね。


――――子どもたちに監督がインタビューをしているシーンもありました。なぜ学校に行かなくなったのかの理由が子どもそれぞれで、言語化しづらいという声もありましたね。

重江:「ゆめパと学校と、何が違う?」と両者の違いを聞いたのですが、人それぞれで、多分全然語れていない理由もあると思います。もう少し大人になり、自分を客観的に見つめられるようになれば、また違った言葉が出てくるかもしれません。みんな、まだ成長の途上ですから。


――――川崎市では2000年に「子ども権利条例」が作られていますね。こういう自治体は日本で珍しいのでは?

重江:子どもの権利条約は日本も批准しているので、子どもに関する条例を策定している自治体はそれなりにあるのですが、条例の中から具体化している自治体は数少ないのではないでしょうか。そういう取り組みを通じて、子どもの気持ちを汲み取れる大人が増えれば、子どもも風通しよく生きられるのではないでしょうか。


――――ゆめパの大きな行事の一つが「こどもゆめ横丁」です。板を使って実際にブースを自分たちで組み立てる姿をドキドキしながら観ていました。最後は見事に、工夫をこらした横丁が完成しましたね。準備段階から全てするのは、すごい体験です。

重江:僕もあんな建て方で本当に小屋ができるの?と思いましたが、そこで子どもたちも学ぶんですね。ちょっと大きいお兄ちゃんやお姉ちゃんたちが「それじゃ、できないよ」と教えてくれたりもする。その過程がおもしろいですね。実際、大人たちが子どもたちの帰った後に見回って、危ないところに印をつけたり、さりげないフォローをしているんです。行政が運営する施設なので、安全面は特に気を配っていると思います。



■コロナ禍で痛感した、子どもたちの居場所の大切さ

――――コロナ禍で学校が緊急休校になる中の決断の経緯にも触れていました。学校がないからこそ開けるべきだと。

重江:西野さんをはじめとするスタッフのみなさんや、川崎市の担当所管の行政の人たちが普段から密接にコミュニケーションが取れていた。それが大きいですね。行政の施設であの時期に開けることは通常は非常に難しかったと思いますが、ゆめパを閉めることによって困るひとたちがたくさん出てくるという想定で続ける決断をされました。すごいなと思いますし、コロナ禍で改めて、ゆめパのような子どもたちの居場所の大切さがわかったのではないでしょうか。


――――このゆめパに子どもを通わせている保護者のみなさんも楽しそうでしたね。

重江:この場を使って、仲間内で保育もできますし、近隣の保育所や小学校から来たり、フリースペースえんがあるので、不登校の子どもを通わせるのに保護者の方も一緒に来られ、そこで親同士の交流が生まれたりもする。だから、大人にとっても居場所になるのです。


――――ゆめパのような子どもの居場所を作るのに必要なのは、やはり人でしょうか?

重江:子どもの権利などをきちんと理解している人ですね。そのような子ども感観がないと、かなり難しいと思います。自治体からもたくさん視察に来られているのですが、「この規模では、うちでは…」とよく言われるそうです。規模ではなく、ゆめパのエッセンスを持ち帰っていただき、子どもと同じ目の高さで過ごしていける人がいるような場がもっと増えれば、居場所を必要とする子どもたちに届いていくのではないでしょうか。



――――『ゆめパのじかん』というタイトルも、シンプルながら思いが伝わってきます。

重江:時計の針に追われず、じっくりと考えて生きていく。そんな時間を子どもたちも、大人も持てたらいいのではないかと思っています。それは自分自身を大切にしている時間でもあるのです。今は、日々そんなことも考えられないような忙しい時間を過ごしていると思いますが、少しゆっくりしましょうよという思いで付けました。


――――ナレーションも務めた児玉奈央さんの自由で伸びやかな歌が、ゆめパの子どもたちの遊びっぷりと見事にマッチしていましたね。

重江:西野さんが91年にフリースペースたまり場をアパートの一室で開始した頃の写真を見せていただいた時、初代スタッフの娘さんである児玉奈央さんが写っていて、現在は歌手になっていると教えていただきました。本当に映像にぴったりとはまる歌声で、必然のような出会いでしたね。感性や価値観が、ゆめパの営みと近しい気がしました。曲を聴いていて、いろんな子どもたちの姿が浮かんでくるのです。


――――最後にメッセージをお願いします。

重江:自分のやりたいことをやったり、そこで失敗をして考えたり、疲れているから休んでみる。自分で考える時間を持つことは、自分自身を大切にする時間です。そういうことを意識してもらいながら、居場所やこの場に流れている時間を観た方が考えていただければと思います。

(江口由美)



<作品情報>

『ゆめパのじかん』(2022年 日本 90分)

監督・撮影:重江良樹 

音楽・ナレーション・挿入曲:児玉奈央

出演:川崎市子ども夢パークに集う皆さま、フリースペースえんの子どもたち他

7月23日(土)から第七藝術劇場にて公開中、7月29日(金)から京都シネマ、8月6日(土)から元町映画館にて公開

公式サイト → http://yumepa-no-jikan.com/

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