『心と体と』夢なら自然と寄り添えるのに

日頃なかなか観る機会のないハンガリー映画だが、『心と体と』のような人間の精神面にアプローチするような作品に出会えてうれしい。食肉加工工場で長年働くエンドレは、片手が不自由で愛人はいても、本気の恋には臆病になっている。代理職員として働く部下のマーリアは、独特の個性を持ち、コミュニケーションに不安を感じている。二人の出会いとなると殺場のシーンも整然と描かれ、現実社会の象徴のようにも映る。一方、パラレルのように描かれるもう一つの世界では、人間の気配が全くない森の中で、二匹の鹿が寄り添い、駆け回る。誰にはばかることもなく、とても自由に。


現実社会の二人が、同じ鹿の夢を見ていることが分かり、心の距離はぐっと近づくが、そこから先のコミュニケーションはなかなか上手くいかない。夢の中なら、鹿なら、言葉は交わさずとも寄り添い合えるのに。二人それぞれの孤独な葛藤、特にマーリアの健気な努力は抑えた演出の中でも、ユーモアを感じる部分だ。周りの目を気にしていた二人が、自分の中のハードルに気付き、それを乗り越えて「心と体と」が一つになるまで、洗練された映像と、二人の気持ちを胸に秘めた演技に見入りながら、静かに眺めたくなる。そして、自分の内面にある鬱蒼とした森に目を向けたくなるのだ。