『デイヴィッドとギリアン 響きあうふたり』~『シャイン』の天才ピアニストが、こんなに人懐っこいとは!

どんな人にも気軽に声をかけ、出身地を聞き、相手を称え、握手やハグをする。畳みかけるような早口と、小刻みな動き。本作の主人公、デイヴィッドはなんともエネルギッシュだ。その奥からは「いつもこうなのよ~」とこちらの驚きを見透かしたように、妻、ギリアンのフォローの声が入る。『デイヴィッドとギリアン 響きあうふたり』は、映画『シャイン』のモデルとなった天才ピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴットと妻ギリアンの今、そして彼のコンサートツアーに密着した音楽ドキュメンタリーだ。

「今を生きるのが大事」と強調するデイヴィッドの気持ちと呼応するかのように、本作はギリアンや他関係者の語りで、出会った当時のデイヴィッドのことを振り返ることはあっても、ことさら過去に目を向ける構成にはしていない。『シャイン』で描かれた苦難の時期を乗り越え、今やオーケストラとツアーに出て、各地で名演奏を披露し、観客だけでなく一緒に演奏するオーケストラのメンバーたちをも感動の渦に巻き込む様子やその舞台裏を、実に軽やかに映し出す。


心のバリアがない人はこういう人を言うのだろうかというぐらい、いつも笑顔で、どの国の人に出会っても話を膨らませる。一見子どもっぽく見える言動は、確かにユニークを越えて一歩間違えれば要注意人物ともなりかねないのだが、そこをうまくフォローし、あるべき方向に導くのが妻ギリアンだ。


占星術師だったギリアンが、出会ってすぐにプロポーズをしたデイヴィッドを運命の人と感じて受け入れてから、辛い時期も長かったという。「万物との一体感を求めて、常に歩き回っているの」とギリアンならではの洞察力でデイヴィッドの行動を捉えているのには感動した。そんなデイヴィッドが奏でる音楽とそれに呼応するオーケストラの合奏が、どれだけ生き生きしているかは、ぜひ映画で確かめてほしい。貧乏ながらピアノを買い与えてくれた父親と、その後の確執。ピアノを弾くことから遠ざけられた日々。ギリアンと出会ってから自分の音楽を取り戻した長い道のりを経て、今デイヴィッドは、こんなに人懐っこい笑顔で、誰にでも語りかけている。彼の一挙一動、そして彼が折に触れて奏でるピアノの音色は、ずっと観ていても全く飽きない。そんな、とても魅力的な人に出会わせてくれる映画だった。

関西では5月5日(土)~第七藝術劇場、5月12日(土)~神戸アートビレッジセンター、初夏~出町座にて公開。