2024.08.21 13:13二卵性双生児のような映画が映し出す多彩な女性の肖像と等身大のジェーン「ジェーン B.とアニエスV. 〜 二人の時間、二人の映画。」 ジェーン・バーキンが2023年7月16日に76歳で逝去してから、早1年が過ぎた。ちょうど、2番目の夫セルジュ・ゲンズブールとの間にできた次女で俳優のシャルロット・ゲンズブールが母ジェーンに迫った初監督作のドキュメンタリー映画『ジェーンとシャルロット』(2021)が同年8月に日本で公開されるというタイミングでの悲報に残念な想いを抱いたファ...
2024.06.25 12:15『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』特別な絆と呪縛のはざまで 双子といえば、大抵の人が思い浮かべるのは「うりふたつ」とか、「見分けがつかない」という、いわゆる一卵性双生児ではないだろうか。わたしも自分が双子を妊娠しているとわかったとき、親しか見分けがつかない瓜二つの双子のイメージしかなかった。実際はいまだに間違われたことがないぐらい、双子どころか兄弟というよりは他人ぐらいに似ていない男の双子だった...
2024.05.31 04:54『ちゃわんやのはなし -四百年の旅人-』朝鮮から薩摩へ。継承の歴史と伝統を守る覚悟 日本の陶磁器は日本の文化の中で、各地方の土の質に合わせて生まれ、それぞれの地域で誕生から現在に至るまで継承されていると漠然と思っていたが、本作はそんなわたしたちを、朝鮮陶工たちが日本で根付かせた薩摩焼の歴史と、その伝統と向き合い続けてきた各世代の沈壽官たちの物語に誘う。日本と朝鮮の歴史の交差点からはじまり、19世紀半ばのパリ万博、ウィー...
2022.06.22 14:02『彼女たちの革命前夜』70年代イギリスのフェミニズム運動家が切り込んだ「ミス・ワールド」 アメリカのフェミニズム運動のパイオニア、グロリア・スタイネムの人生を描く『グロリアス 世界を動かした女たち』、世界初の女性映画監督でありながら、長年消された存在と言われてきたアリス・ギイの人生とその足跡をたどる『映画はアリスから始まった』と、今年、フェミニズム映画が続々公開されている。まさに今の道を切り開いた先人の女性たちの志や闘いに今...
2022.01.26 08:03『名付けようのない踊り』田中泯がみせる魂の表現 ダンサーとしての田中泯の活動になかなか触れる機会のないまま、俳優としての田中泯の底知れぬ存在感にいつも圧倒されてきた。わたしが俳優、田中泯を知るきっかけだったのは『メゾン・ド・ヒミコ』だが、その犬童一心監督が、以降交流を重ね、今回2017年8月から2019年11月までの世界各地を巡る田中を撮影。アニメーション作家、山村浩二によるアニメー...
2022.01.13 13:06『あした、授業参観いくから。』忘れがたい日が焼き付ける親子の情景 『あした、授業参観いくから。』というタイトルと、片岡礼子扮する英語教師のトップ画像を見て、本作の安田真奈監督の着眼点にさすが!と思った。短編を撮り続けてきた会社員時代を経て、劇場デビュー作となる『幸福(しあわせ)のスイッチ』(06)で電器屋父娘の物語を人情味豊かに描いた安田監督。子育て期に脚本を担当したNHKドラマ「やさしい花」は、児童...
2021.11.08 03:34『我が心の香港~映画監督アン・ホイ』香港で”映画を続ける”人生に迫る 今年の大阪アジアン映画祭のオープニング作品として上映された『我が心の香港~映画監督アン・ホイ』が、映画祭での上映から1年以内に日本で劇場公開される。これは異例の速さだ。原題は"Keep Rolling"、そして映画祭タイトルは『映画をつづける』だった。一人の映画監督を追ったドキュメンタリー映画にとどまらず、どんなに困難な時でも「映画を撮...
2021.10.28 10:14『スウィート・シング』大人の弱さ、子どもの逞しさを包み込む詩 モノクロームの画像、懐かしい60〜70年代の音楽の数々に彩られ、学校にもいかずに日銭を稼ぐ姉ビリーと弟のニコの日常がイキイキと映し出される。時はクリスマス、父はサンタのバイトをし、ビリーはニコに秘密でプレゼントを用意して・・・と貧しいながらも微笑ましく見えるのは表面上だけ。家を出た母への愛が残っている父は、その寂しさを酒で紛らわし、人生...
2021.10.11 09:16『最後の決闘裁判』今まで語られなかった視点があぶり出す”真実” 裁判と決闘。どちらも白黒をつけるものだが、片や法にのっとり、片や文字通り命がけであり力づくの闘いだ。そんな真逆に思える決闘が合法化され、決闘の勝者が裁判で勝者とされていた時代があった。本作は、14世紀パリで実際に起き、当時民衆たちの大関心事となり、それ以降も歴史家や法律家たちの間で様々な疑念や論争を呼んだ伝説的決闘裁判を、巨匠リドリー・...
2021.09.22 13:21『アイダよ、何処へ?』家族を助けたい!国連軍通訳者の母の視点で描くボスニア集団虐殺 『サラエボの花』(06)では、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争下で悲痛な体験をしたボシュニャク人女性が、その後シングルマザーとなって娘を育てる中、自らのトラウマと向き合えるようになるまでを描うたヤスミラ・ジュバニッチ監督。『サラエボ、希望の街角』(10)を経て、10年ぶりの最新作『アイダよ、何処へ?』では、ついにボスニア・ヘルツェゴビナ紛争...
2021.09.22 08:36『MINAMATA―ミナマタ―』アウトサイダーが切り取った人々の苦しみと人間の尊厳 世界はもちろんのこと、日本でも不動の人気を獲得しているジョニー・デップ。私もファンの一人だが、そのジョニーが日本の四大公害病の一つ、水俣病を題材にした映画をプロデュースすると知り、ロケ中の動向も含めて注目していた。昨年2月に開催されたベルリン国際映画祭で世界初上映され、その記者会見ではジョニー・デップや真田広之、美波といったキャストに加...
2021.09.21 01:49『クーリエ:最高機密の運び屋』キューバ危機を救った男たちの友情と葛藤、平和への志 第二次世界大戦後、冷戦時代を迎え、CIA(アメリカ中央情報局)やMI6(英国秘密情報部)、そしてKGB(ソ連国家保安委員会)などの諜報機関による人的なスパイ活動を題材として映画化された例は数多い。今なら、ハッカーが幾重ものセキュリティ対策をかいくぐり、インターネット上の重要機密をハッキングするケースが大半ではないかと思うが、なにせインタ...