史上初のコンペ部門日本映画4作品入選「新しい作品の登場を印象づけたい」〜プログラミング・ディレクター、暉峻創三氏に聞く第18回大阪アジアン映画祭の見どころvol.2
プログラミング・ディレクター、暉峻創三氏に聞く第18回大阪アジアン映画祭の見どころvol.2では、コンペティション部門に入選した日本映画4本と、合わせて観たい一本を紹介したい。
―――コンペティション部門に日本映画が4本入選するのも史上初ですね。
暉峻:コンペティション部門で日本映画の本数制限を設けていたわけではないのですが、今までは多くて2本でしたし、悩まずにその入選本数になっていました。でも今回は性質の全く違う作品が最高評価で何本も揃い、コンペティション部門とインディ・フォーラム部門に振り分けることができない状態だったんです。例えばカンヌ国際映画祭などは、自国のフランス映画がコンペディション部門に多数入選していますし、OAFFも日本映画でそれだけ良作が揃っているなら、それをそのまま表してみようと。だから今回は日本映画としてこれだけ新しい作品が出てきていることを世間に印象づけたいという狙いがありますね。
■アンシュル・チョウハン監督は、スター俳優の使い方がうまい
―――OAFF常連のアンシュル・チョウハン監督作『赦し』は、加害者と被害者双方の視点から魂の救済を描く重厚なドラマです。元受刑者の社会復帰を題材にした舩橋淳監督のドキュ・フィクション『過去負う者』(インディ・フォーラム部門)と合わせて観るのも良いですね。
暉峻:どちらも、”赦し”があり得るのかというテーマで共通していますね。チョウハン監督はインド出身で今は日本映画界で、他の日本人監督とは全く違う立ち位置で活躍しているだけでなく、その独自の立ち位置のまま、いつの間にか日本映画の代表作を作る監督になっています。これまでの日本映画史になかったタイプの監督です。『赦し』は今まで以上に作品に幅が出てきました。
『過去負う者』の舩橋監督は、スターやアイドルを起用した作品も手掛けてきた人ですが、前作の『ある職場』に続いて、スター俳優は使わないというポリシーを強く感じさせる一作です。一方、スター俳優は使わないできたチョウハン監督は、逆にスター俳優をうまく使える人であることが『赦し』で実証されました。驚いたのは裁判官役の真矢ミキの演出です。彼女を起用し、あれだけヒューマニズムに溢れた裁判官像を出せているのは、スター俳優の使い方のうまさを実感します。主演の尚玄にとっても、これは彼の代表作になるのではないでしょうか。
■『天国か、ここ?』はいまおか監督が撮りたかった、とてもピュアな映画
―――もう一人の常連、いまおかしんじ監督は、『天国か、ここ?』でコンペティション部門初入選を果たしました。
暉峻:他国の映画祭同様、OAFFもコンペティション部門といえば新世代寄りの選出が多いのですが、ついに大ベテランがコンペ入りを果たしました。さきほどのチョウハン監督やいまおか監督は、カンヌ映画祭と河瀨直美監督の関係のように、常に映画祭が注目し続けてきた監督です。いまおか監督は商業映画の企画も近年、次々に撮っている一方、OAFF2020のインディーズ映画『れいこいるか』で第二のブレイクを果たしたぐらいの評価を受けました。『天国か、ここ?』は、その『れいこいるか』の延長上に成立していると考えられる作品です。商業性は別にして、彼自身がなんとしても撮りたかった、という意志を感じさせる、とてもピュアな映画だと思うのです。だから今回はコンペティション部門に入れました。
―――かなり実験的なことをされているとか?
暉峻:いまおか監督としては、かなり冒険をしたのだと思います。役者の身体言語力にかけたような部分もありますし、いかにも“いまおか監督作品の役者の動き”をしていて、凄いなと思いますね。
■注目の宮嶋風花監督『愛のゆくえ』、金子由里奈監督第2作『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』
―――そして映像にもぜひ注目していただきたいのが、宮嶋風花監督『愛のゆくえ』です。
暉峻:岸建太朗さん(OAFF2018『種をまく人』、OAFF2021『海辺の彼女たち』、OAFF2022『バグマティ リバー』撮影)が撮影を担当しているので、新人監督でありながら一つ一つの映像が説得力を持っています。ラストの展開も長澤樹、窪塚愛流というフレッシュな二人の熱演や映像の力もあいまって、リアリズムを超越した展開でありながら、納得させられる。宮嶋監督にとって切実な問題を題材にして描いたそうです。OAFFでの世界初上映を皮切りに今後国内外の映画祭で紹介されていけば、『愛のゆくえ』はかなりの評価を集める作品になるでしょう。
―――『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は金子由里奈監督の第2作で、京都が舞台でなのも魅力です。
暉峻:金子監督は初長編の『眠る虫』で主演に松浦りょうを起用していますし(アンシュル・チョウハン監督『赦し』で加害者少女役)、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』ではOAFF2021『いとみち』の駒井蓮をはじめ、細田佳央太(『町田くんの世界』以来の主演作)や新谷ゆづみをメインに起用。その他の俳優陣を含め、そのキャスティングに先鋭的なセンスを感じさせます。大学のサークルが舞台になった話で大前粟生の原作に忠実なストーリーですが、日本映画の青春もの一般とは相当に異なる肌触りに仕上がっています。
プログラミング・ディレクター、暉峻創三氏に聞く第18回大阪アジアン映画祭の見どころvol.3に続く
(江口由美)
第18回大阪アジアン映画祭は、3月10日(金)から3月19日(日)まで開催。
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