イチオシのジョージア・ドイツ合作『私だけの部屋』から多彩なインド映画まで〜プログラミング・ディレクター、暉峻創三氏に聞く第18回大阪アジアン映画祭の見どころvol.3


  プログラミング・ディレクター、暉峻創三氏に聞く第18回大阪アジアン映画祭の見どころvol.3では、コンペディション部門の中でもイチオシのジョージア・ドイツ合作『私だけの部屋』やインドネシア映画『ライク&シェア』、タイ映画『ユー&ミー&ミー』『OMG! オー・マイ・ガール』、インド映画3本をまとめてご紹介したい。



―――コンペ中、女性の生きづらさや連帯などが描かれた点で注目したいのが、インドネシア映画『ライク&シェア』、ジョージア・ドイツ合作『私だけの部屋』。そしてタイ映画『ユー&ミー&ミー』も加えたいですね。

暉峻:GDH 559の作品は『ユー&ミー&ミー』と特別注視部門『OMG! オー・マイ・ガール』の2本を選んでいますが、いつも作品の根本の着想がすごくシンプルなんです。『ユー&ミー&ミー』は監督も双子姉妹なのですが、双子というアイデアからこれだけストーリーを膨らませていけるのが素晴らしい。



『OMG! オー・マイ・ガール』は、想いのすれ違いというテーマで最後まで引っ張ります。OAFF2020でグランプリを受賞したナワポン・タムロンラタナリット監督『ハッピー・オールド・イヤー』が、「片付ける」というシンプルなテーマだけであれだけ見事な作品を成立させたのを思い出しました。



■インドネシア発、ジェンダー問題の追求からビジュアル面の追求まで全方向で極める『ライク&シェア』

―――インドネシア映画の『ライク&シェア』は#MeToo映画ですね。

暉峻:本当に素晴らしいですね。映画そのものも素晴らしいし、今のインドネシアでこれだけのことを描くこと自体、かなり挑戦的な試みだったと思います。今回、ギナ・S・ヌール監督が来阪し、シンポジウム(3月17日(金)15:00-16:30@大阪中之島美術館1Fホール)にも登壇されるので、その背景も聞きたいですね。監督はエドウィン監督のOAFF2017『ひとりじめ』で脚本を担当し、インドネシアでは他でも多彩な活動をされているようです。


―――若い世代のリベンジポルノ問題だけではなく、家父長制の中で抑圧されている母世代の女性の生きづらさにも触れていますが、ビジュアルがポップでそういう点でも挑戦的ではないかと?

暉峻:ビジュアル面でもインドネシア映画としては突出したオシャレ感を出していますし、予告編だけ見てもヨーロッパ映画のような洒落た感じがわかると思います。室内や衣装デザインも素晴らしいし、そのようなビジュアル面での追求がありつつ、今の社会に根ざしたジェンダー問題をしっかり追求している。一方向だけに突進するのではなく、あらゆるところで完璧を追求している点を、特に評価したい作品です。



■昨年の釜山国際映画祭で一番の発見!ジョージアの女性映画『私だけの部屋』

―――ジョージアが舞台の『私だけの部屋』は粘り強く交渉したオススメの1本とのことですが、どこで発見したのですか?

暉峻:昨年は、2〜3年ぶりに海外の映画祭に足を運んでプログラミングすることが復活した年でした。それまでは全てオンラインでしか観ることができなかったけれど、現地で、スクリーンで観るといろいろな発見がありますし、新しい出会いもあり、やはり全く違いますね。『私だけの部屋』は昨年の釜山国際映画祭(BIFF)で世界初上映されたのですが、アジア映画の部門ではなく、欧米映画の部門に入っていたので、アジア映画好きの間では見逃されていた一本です。昨年のBIFFの大発見中の大発見でした。主演のタキ・ムムラゼが脚本にも参加していることも納得できる力作です。英題が「A Room of My Own」でヴァージニア・ウルフの「自分だけの部屋」からとっているあたりは、昨年のOAFFで上映した中国の短編『自分だけの部屋』(A Room of One’s Own)と似ています。本作のイオセブ・“ソソ”・ブリアゼ監督は、今回の映画祭の中でも一番日本で知られていない監督なので、自分的にもイチオシで推薦したい作品ですね。



■多彩なインド映画、3本一気に紹介!

―――今年のインド映画は『トラの旦那』、『マックスとミンとミャーザキ』の2本がコンペティション部門に入選しています。

暉峻:『RRR』でインド映画に目覚めた人に、是非見てほしい2本です。どちらもインド映画の多様性に驚かされるはず。『トラの旦那』は同じコンペティション部門作品の『私だけの部屋』同様、昨年の釜山国際映画祭(BIFF)での大発見の一つです。リマ・ダスも僕が偏愛してきた映像作家で、最初から大きな期待をしていました。本作も本当にシンプルにトラの旦那を描くだけなのですが、それでこれだけの物語を紡げるとはと驚くばかりです。前作のOAFF2019『ブルブルは歌える』もそうですが、起承転結がなく断章的で、一つ一つの場面がきちんとドラマ性を持ち、その連続で映画を見せていく。その作りに魅せられました。ドキュメンタリーのような生々しさも特徴ですね。



―――『マックスとミンとミャーザキ』は、「ミャーザキ」にほっこりさせられます。

暉峻:宮崎アニメを愛するあまり、愛猫に「ミャーザキ」と名付けたカップルの話です。スタジオジブリの映画がインド映画でも扱われたことが画期的です。設定やおしゃれなビジュアルで観客にアピールできる可能性の大きい作品で、主人公の父役に、『ガンジスに還る』のアディル・フセイン、祖父役に『バーフバリ』シリーズのベテラン俳優、ナーサルが出演していますし、作品の基本コンセプトや、ネコ映画としても楽しめる要素があります。



―――特別注視部門の短編『騒動』も宗教対立を背景にした、濃密な作品です。

暉峻:『騒動』のアロック・クマール・ドゥヴィヴェーディー監督は、アンシュル・チョウハン監督がインドでその才能を発見し、勧めてくれました。彼の作品が海外で紹介されるのは、これが初めてとなります。ワンシチュエーションの緊迫感あるドラマで、まだ長編監督の経験はないようですが、ちゃんとした商業映画の作り方を知り尽くしている監督であることが観れば分かると思います。



※特別注視部門では、神戸女学院大学文学部英文学科の学生チームが字幕翻訳に取り組むバングラデシュの新鋭、メジバウル・ラフマン・シュモン監督による大ヒット映画『風』3/12大阪中之島美術館1Fホールでシンポジウム 「バングラデシュ映画に新『風』が吹く」を開催)を上映。



さらに、今年唯一のベトナム長編映画で、今年の正月のテト映画、ヴー・ゴック・ダン監督の成り上がりエンターテインメント『姉姉妹妹2』も上映する。


プログラミング・ディレクター、暉峻創三氏に聞く第18回大阪アジアン映画祭の見どころvol.4に続く

(江口由美)


第18回大阪アジアン映画祭は、3月10日(金)から3月19日(日)まで開催。