『クレアのカメラ』イザベル・ユペール、ホン・サンスワールドの男女を”覗き込む”
なかなかこんな機会はないのではないか。回顧上映ではなく、一人の監督作品を一挙4本連続上映。しかも、全て日本の劇場公開は初となる作品だ。そしてそのどの作品も主演女優は同じ。空気のように映画を撮っているのではと思う韓国のホン・サンス監督と、そのミューズであり、プライベートでも密な関係のキム・ミニ。二人が産み出す男女の物語は、いずれも不倫がらみで、誰も真の幸せを獲得することはできない。そんな大人の男と女の恋愛劇を、クールかつ、どこか人間臭さも匂わせながら見せていく。
あれもこれも不倫なのに、そのシチュエーションや、仕掛けが面白くて、ついつい見てしまうホン・サンス作品だが、『クレアのカメラ』にはまるで”家政婦は見た!”と言わんばかりのカメラを持ったフランス人女性が登場する。イザベル・ユペールが演じるクレアはパリの高校教師。舞台となっているカンヌに映画祭に出品した監督の友人として来場している。とはいえ、この友人とは行動を共にすることなく、偶然カフェで声をかけられた韓国人監督の男性と話が弾み、そこから、この監督、プロデューサーの女性、その部下(キム・ミニ)の三角関係を意図せずして覗き見てしまうことになる。
あからさまに覗き見るのではなく、クレアが写した写真を見た3人の反応が、その微妙な関係をクレアに感じさせるというカメラ、写真の特性をうまく生かした心理劇。クレアは再三、「写真を撮る前と後では違う人になっている」というニュアンスの言葉を発するが、写真というより、クレアという人物に出会う前と後とで、様々な状況が変化しているようにも思える。カンヌ国際映画祭で来場時に撮ったという割には、そんな華やかさはあえて写さず、まるで避暑地に来たかのような非日常を映し出しているのも興味深い。それにしても、不倫をする男の苦しい言い訳や未練、別れの言葉は天下一品やな。キム・ミニ×イザベル・ユペールの友情を感じるようなシーンの数々も自然で、美しかった。
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