『ミッドナイト・アサシンズ』(映画祭題『ネオマニラ』)フィリピン・スラム街の現実が突き刺さる疑似親子物語

今年の大阪アジアン映画祭で、來るべき才能賞を受賞したフィリピンのミカイル・レッド監督作『ネオマニラ』。今年の作品の中で、私的には3本の指に入る”ガツンとくる”秀作だった。父親も映画監督というサラブレッドのレッド監督は、前作の『バードショット』がNetflixにて視聴できることになり、今やフィリピン映画の次代を担う存在。そして、映画祭からわずか数ヶ月で劇場公開というのも快挙だ。通常は映画祭上映時に未配給の作品は、配給がついた場合、公開まで1年近く、もしくはそれ以上かかるのだから。今回は、AYA PRO PRESENTS バリバリ・アクション・伝説の一本としての上映。全国に広がるのか、今の所はわからないが、それでもこの夏映画祭で見逃した方にも観ていただけるのは、やはり嬉しい。


主人公は、兄が捕まり、一人で生きるしかないストリート・チルドレンのトトとスナイパーのイルマ。孤独な二人が、疑似親子のような関係になる姿は、多くは語らないイルマの母としての顔を滲ませる。イルマを演じるのは、フィリピンの名女優ユーラ・バルデス。日頃はパートナーと夜な夜な麻薬犯罪グループの殺害代行をしている屈強な女だが、トトを見る目はどこか優しく、何かを重ねているかのよう。そんなトトとイルマの関係は長くは続かない。印象的なシーンを散りばめながら、イルマの究極の選択まで一気に見せる手腕は見事だ。二人のシーンの美しさも記憶に残ることだろう。


フィリピンではドゥテルテ大統領による麻薬撲滅政策で殺害される青少年が増大し、道端で殺害された人が倒れていても、市民には「またか」という空気が漂う。そんなことは、この映画を見るまでは知る余地もなかった。単なるアクションものではない、社会的な問題にも踏み込んだ衝撃作。新しいフィリピン映画の魅力を発見していただけると思う。