短編アニメーション『Shallow』解説とタイのアニメーション事情 ANIME-ASEANツアー in 京都Lumen gallery featuring FOGHORN vol.1
ANIME-ASEANは、国際交流基金アジアセンターの助成を受けて行われている、日本とASEAN諸国を中心としたアジア各国のインディペンデント・アニメーション作家たちの3年間に渡る交流プログラムだ。 アジアの作家たちを日本へと招聘し、日本ではまだあまり紹介されていないASEAN諸国のアニメーションの歴史と現状を紹介してもらうこともあれば、日本の作家をアジアへ派遣し、現地でのワークショップなどを通じてインディペンデント・シーンの活性化を図ってきた。実際に、ANIME-ASEANプロジェクトから「旅」「交流」等をテーマにした作品制作にもチャレンジしているという。
2015年にスタートし、3年プロジェクトの最終年となる今年は、初めて京都での開催が実現。8月22日(水)19時よりLumen galleryにて「ANIME-ASEANツアー in 京都Lumen gallery featuring FOGHORN」が開催された。司会、通訳はANIME-ASEANプロジェクトを運営する株式会社ニューディーアーの土居伸彰さん。3時間に渡る盛りだくさんの内容を、3回に渡ってお送りする。
vol.1は、「短編アニメーション『Shallow』解説とタイのアニメーション事情」と題して、タイのタヌート・ルジタノント(RUJITANONT THANUT)さんをゲストに迎えた上映&プレゼンテーションの模様をご紹介したい。
■『Shallow』の制作経緯と、作る上で感じたこと
『Shallow』はタヌートさんの卒業制作作品。水墨画のようなモノクロの作画で、顔のない人間が登場する。音楽はなく、水のポチャッという音が印象的に響く。水、穴、潜る、消えるというとても抽象的な動きに固唾を飲んで見守りたくなるような作品だ。
この作品の構想については、「自分自身の子供の頃の記憶を辿る試み」と言うタヌートさん。 「過去の細部を思い出すのは、様々な思い出が混じるの難しいです。一方、思い出す際に、その当時に感じていた感情も蘇ってくるもの。様々なイメージが混ざり合う時、感情が再生していきます。それが何なのかを考えるためにこの作品を作り始めました。実際のものを模倣するのではなく、何か違うものを作ることにしたのです」とその狙いを語った。
制作の手順としては、最初と最後だけを決め、実際に書く作業を通じて過去を探求する作業を行っていったそう。「絵コンテを作ることで様々な記憶を思い出すことができました。4分間の作品ですが、私自身の記憶の深い部分を思い起こさせるという体験ができました」と自分自身と向き合う作業を振り返った。
■タイのアニメーション事情
タヌートさんは在学中に、同級生たちが作ったアニメーション作品をたくさん鑑賞し、自分自身が描きたいものから、家族を喜ばすものまで、皆それぞれの目的を持ってアニメーションを作っていると感じたそうだ。
ただ、卒業後、自分の目的を持って作り続けることは難しいことを身をもって知ったと言う。
「商業アニメーションは3DCGの世界で、2Dアニメーションのインディペンデント作品とは全く異なります。私も商業アニメーションに自分を適応させていく必要性は感じましたが、結局は『Shallow』を様々な映画祭に出品していきました」
さらにタイのアニメーション事情で特筆すべきことの一つ目は、タイで唯一のインディペンデント映画を対象とした映画祭、「タイ短編映画ビデオフェスティバル」での現状。インディペンデント作家の上映機会を作り、後押しをすることが目的なので、セレクションをせず、応募作品を全作上映する、非常に意欲的な映画祭だ。但し、タヌートさんは「何百本にも及ぶ作品の中で、アニメーション作品の出品は非常に少なく、しかも卒業制作ばかり」と出品作家の少なさを指摘している。
二つ目は、タイの文化庁が映画のサポートをしているが、ほとんどのファンディングが実写に使われ、アニメーションのプロジェクトに使われるお金は非常に少ないこと。タヌートさんは、「商業作品ではなく、自分自身の作品を作ることで生計を立てるのは難しい」と人生の岐路に立ったことを告白しながらも、インディペンデント作品を作り続けることを決意したと語ってくれた。
■アヌシーで選ばれた企画〜私たち人間は常に何かを待っている存在
サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』などにインスピレーションを得て企画した短編アニメーション『Day Dream』は、「私たち人間は常に何かを待っている存在」であることからスタートしたというタヌートさん。「バスを待つというような日常のことから、仕事の成功や結婚、何年もあっていない友達を待つという大きなことまで、私たちは常に何かを待っています。そして、待っているものが訪れると、すぐに別のものを待ち始めます。私たちが待っているものの先にある人生の目的は何なのか。それが、作品の核になっています」
2018年1月、タイでアヌシー国際アニメーション映画祭の特別プログラムが開催され、プロジェクトピッチのワールドカテゴリーで、本大会でピッチされる企画を探しにワークショップが企画された。タヌートさんは、そこでは残念ながら選ばれなかったが、アヌシーの映画祭に自分のプロジェクトを再度応募し、アヌシーで企画中のプロジェクト「をプレゼンし、短編カテゴリーで見事選ばれたそうだ。「(制作のために)フランスのレジデンスの機会が与えられ、ポリマージュという著名なスタジオと繋いでくれました。喜ばしいことですが、プリプロダクションを今年、実際のプロダクションは来年と、2〜3年ぐらいの時間がかかることも実感しました」
■制作費が集まるのを待つ間に立ち上げた小さな別プロジェクト
タヌートさんは、『Day Dream』の制作費が集まるのを待つ間、違うプロジェクトを立ち上げている。「自分自身でできる小さなプロジェクト。鉛筆、ペン、インク、水彩 様々な素材を使って、事物の存在、普遍的な因果関係 外側との関係を探求していきたいと思っています。自然の世界の事物を子供の目から見るという自分自身の子供時代の個人的なお話です。少年はトラウマを感じる存在で、事物を観察しようとしますが、それと関係性を持ちたくないと思っている。彼の手を通じてトラウマが心や体に入り込んでいきます。今は、制作の最初の段階で読書やスケッチをしながら、プロデューサー探しも行っています」と近況を語ってくれた。
自己や人間自身を探求し、哲学的領域まで到達するインディペンデントアニメーションの作り手であるタヌートさんは、制作の過程もソリッドで、作家性の高さを伺わせる。今のところは映画祭や自主上映会がメインで上映される場所は少ないそうだが、見た後議論したり、話し込みたくなるようなアニメーション。タイのインディペンデントアニメーション界を牽引する存在になってもらいたいし、またタヌートさんの同期の皆さんのアニメーションもぜひ一緒に紹介してもらえると、アジア映画好きとしては嬉しいなと感じた。
ANIME-ASEANツアー in 京都Lumen gallery featuring FOGHORN vol.2は、「『パントゥラの光景』解説、インドネシアのインディペンデント作品のファンディングとCRAFT国際アニメーション映画祭短編アニメーション」をご紹介する。
0コメント