アニメーションのエコシステム構築に向けての取り組み|インドネシアのインディペンデント作品の現状とCRAFT国際アニメーション映画祭 ANIME-ASEANツアー in 京都 vol.2
8月22日(水)19時よりLumen galleryにて開催された「ANIME-ASEANツアー in 京都Lumen gallery featuring FOGHORN」。vol.1の「短編アニメーション『Shallow』解説とタイのアニメーション事情」に引き続き、vol.2ではヒスキア・ルビヤントロ(SUBIYANTORO HIZKIA)さんと、コニー・プリシラ(CHONIE PRYSILLA)さんをゲストに迎えた上映&プレゼンテーションの模様をご紹介したい。
■『Roda Pantura(パントゥラの光景)』の制作経緯と狙いについて
スビヤントロさんの初となる短編アニメーション作品『Roda Pantura』は、ジャワ島の端に位置する貧民街が舞台の物語だ。南国らしいカラフルな色合いと豊かな音楽が流れる一方、ゴミの島のような街の描写はリアリティがある。主人公のトラック運転手の終わることのない労働、貧しい暮らし、ギャンブル、売春という刹那的な生活が、ジャワ島北海岸に沿って伸びる1000キロに及ぶ高速道路パントゥラでの景色と交差する。
スビヤントロさんは、「1998年、インドネシアでは金融危機が起こり、経済が機能を失いました。貧しい人が急増したという社会的危機の中、貧しい方に追いやられた人々の物語を描きたかったのです」とその狙いを語った。
もう一つの狙いとして挙げたのが、アジア、インドネシアを象徴するものを見せること。 「インドネシアのアニメーションといえば、日本のアニメや、ディズニーなどが想像されてしまい、そういう産業で働く人が多いです。でも、私はそれとは違うもの、アジア、インドネシアを象徴するものを見せたいと思っていました。そのため『Roda Pantura』では、ビジュアル、音楽にカラフルなものを取り入れ、シンボリックなものを見せる工夫をしています」
2015年のアヌシー国際アニメーション映画祭でピッチングを行った結果、2人のプロデューサーが興味を持ったものの、まだ海外のプロデューサーと働く準備ができておらず、最終的にはクラウドファンディングを募り、制作期間2年で完成させたそうだ。完成後は、映画祭(ポーランドや釜山)で上映され、アニメーションに限らない映画祭でも上映できたことに意義を感じたというスピヤントロさん。「アニメーション映画祭は技術を競う側面がありますが、社会的な側面を個人的な観点から切り取ったことが評価され、実写の映画祭でも上映してもらえました」と、実写の映画祭は、より作品の狙いにフォーカスしてもらえることを自身の体験として語ってくれた。
※オープンソースソフトを使ってのアニメーション制作過程
■アニメーションにエコシステムを作る〜オープンソフトユーザーのコミュニティ「Animasi Club」を運営
スビヤントロさんは、短編作品を作る前の2009年にオープンソフトBlender(動画編集ソフト)を使うコミュニティー、「Animasi Club」を立ち上げて運営している。現在の会員数は2万7千人と非常に多い。『Roda Pantura』も、オープンソフトでアニメーションを作るという挑戦的側面があったと明かしながら、「私が興味があるのは、アニメーションでエコシステムを作ること。Animasi Clubでは人々が集まって、アイデアをディスカッションしています」と、アニメーション制作の土台となるチーム力の源について明かしてくれた。
■インドネシアのアニメーション産業にとってのインパクトを持つ存在になりたい。 〜CRAFT international animation festivalの立ち上げ
2014年から『Roda Pantura』のプロデューサーを務めているコニー・プリシラさんは、以前からAnimasi Clubでスビヤントロさんと活動を共にしていたのだとか。アニメーション業界に入ってから4年が経ち、「インドネシアでアニメーションの道に進む人は多くないので、義務感を感じています。産業にとってのインパクトを持つような状況に持っていきたい」とその心境を語ってくれた。
まだまだ上映機会が少ないインディペンデントのアニメーション作品だが、作品完成後、さらに作家性を観客に見せて行くために映画祭という場の重要性を語ったコニーさん。
「私たちも映画祭の旅をしましたが、概してフィルムメーカーは何度も旅をするお金がありません。でも映画祭は魅力的なので、2017年、自分たちの国でCRAFT international animation festivalというアニメーションの国際映画祭を立ち上げました。ここに世界中の産業的ではないアニメーションを集めていきます」と映画祭立ち上げの経緯を明かした。さらに、その狙いとして、「手作りの作品に注目することにより、一般的なアニメーションとバランスを取りたい。映画祭の目的は、アニメーションが持っている無限の可能性を見せること。こういうビジュアルもあり得ると若いクリエーターに気づいてもらうことが重要です」と、若い世代に気づきを与える場であるべきと強調した。
■プロデューサーとしての最終目的はインドネシア版のキャラクターを作ること
コニーさんは、「インディペンデントでアニメーションを作るときに私たちが下した決断は、お金は単なる“作品を完成させる手段”であり、それは作家の芸術的な特徴を世に知らしめるものです。次の作品の可能性を開くためにあります。特定のキャラクターを持った需要を生み出す。理想的には需要を持って産業を作り上げて行くことが最終的なゴールです」と産業面にフォーカスしたフローを解説。「日本のアニメのように、インドネシア版のキャラクターを作り上げることがプロデューサーである私の一つの目的です」とビジネスプランを語ってくれた。
■オープンプロジェクトで制作した『Roda Pantura』、その秘訣とは?
当初から『Roda Pantura』をオープンプロジェクトにすることを考えていたというコニーさん。Animasi Clubという大きなコミュニティがすでにあったため、情報を逐一オープンにシェアし、どんどんと多くの人が関わってくれたという。 「コラボレーションはお金以上に重要なものだと考えるようになりました。メンバーが自発的に取り組んでくれることで、自分自身のプロジェクトとして考えてくれ、さらに広がるという有機的なプロジェクトになり、実際のアイデアを持ってきてくれました。音楽についてもやりたいという方が関わってくれたのです。将来的な観客数の増加にもつながるでしょう」 コミュニティのサポートが得られるようになってからも、メンバーが注目しそうな仕掛けを行ったという。
1.短編でも長編同様の物販戦略を行う
サントラを作ったり、デザインに凝った物販品を作ったりと、長編同様の物販戦略を行った結果、商品を作るとすぐに売り切れ、それが制作費に充てられるという好循環が生まれた。
2.ポスプロでも仕掛けを作る
まだ完成しない段階で、いかにして完成させたかというハウツー本を販売し、それも売り切れて次の長編作品の制作費に充てることができた。
■初長編作品『KOSONG』の狙いと、低予算で有意義に作る取り組み
コニーさんは、スビヤントロさんと共同監督で、何らかの事情で子どもを持っていない5人の既婚女性を描く、ドキュメンタリー的要素の濃いアニメーション『KOSONG』の準備に取り掛かっている。
「ある特定の価値観をサポートする作品を作ると、その価値観を共有する人たちが強力にサポートしてくれます。『KOSONG』のように女性の置かれた問題を取り上げると、様々な女性サポート機関やNPOの支援を得ることができるのです」とファンディング効果を見据えたテーマ設定について語った。
実際には作品を完成させるほどの大きな予算は集まらなかったそうだが、スタート資金はできたので、低予算でもできる手法を取り入れている。 選択した手法は、ロトスコープアニメーションテクニック。ロトスコープを使用し、様々なグラフィックスタイルを入れ込み、実写をトレイスする手法だ。
「5人の女性を描くに当たり、様々なスタイルが共存できるため、技術が伴っていないアニメーターも自分が描けるスタイルで作ることができ、スキルレベルを大きく広げていけます。また作品の世界観にも合うのです」
ユニークなのが、スタッフが主に学生で、アニメーションを学んでいる人もいれば学んでいない人もいて、リテラシーがバラバラであること。若手のアニメーター育成にも有効な手段であり、この取り組みがあったからこそ、映画作りをスタートさせることができた。とても説得力があり、かつ有機的な物作りの姿勢を垣間見た。
最後に、コニーさんが作業風景の映像(最後に作業部屋で美味しそうな手作り料理が振る舞われる)を鑑賞後に語った言葉をご紹介したい。
「自分たちのチームに対し、ご飯を作るのもとても重要なこと」
チームに対する愛情、そしてコミュニケーションが一番大事なのだなと実感した。様々な仕掛けを自らが作り出し、インドネシアでのインディペンデントアニメーションの作り手だけでなくサポーターや観客も育てているお二人のトークに、インドネシアアニメーション界の未来が見えた気がした。
ANIME-ASEANツアー in 京都Lumen gallery featuring FOGHORN vol.3は、「FOGHORNとGojo Short Animation Galleryの野望」をご紹介する。
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