「あれだけまっすぐに人を救い、断らない救急をやり続けられるのはなぜ?」問いながら取材を重ねた『その鼓動に耳をあてよ』足立拓朗監督、圡方宏史プロデューサーインタビュー


 『さよならテレビ』の圡方宏史監督が阿武野勝彦氏と共同プロデューサーを務め、足立拓朗監督が断らない緊急医療を掲げる名古屋掖済会病院のER(救命救急センター)に密着した東海テレビドキュメンタリー劇場:第15弾、『その鼓動に耳をあてよ』が、2024年2月3日(土)より第七藝術劇場、元町映画館、2月16日(金)より京都シネマにて公開される。

 さまざまな救急患者が次々に運ばれてくるERで、目まぐるしく動き、的確な処置を施していく医師や看護師たち。コロナ禍で入院患者の家族すら見舞いが禁止されていた時期に、よくカメラがその現場を密着し、彼らの仕事ぶりや患者とのやりとり、そこでおきる悲喜こもごもを記録したものだと思わずにはいられない。何かと選別され、弱い者が福祉の網の目からふるい落とされる今、断らない救急を信条にイキイキと働く名古屋掖済会病院のERの人たちの姿に希望の光がある。また、お金が払えない人たちや外国人労働者など、そこに運ばれる患者たちの姿に、日本の縮図を見ることだろう。

 本作の足立拓朗監督(写真右)と圡方宏史プロデューサー(写真左)にお話を伺った。



■コロナ禍でERを自由に撮影

―――よくコロナ禍の救急病院にカメラが入り、密着できたなというのが驚きでしたが、その経緯を教えてください。

足立:僕たちは日頃、夕方にオンエアするニュース映像を作っているのですが、以前に数回ERを取材し、ニュースで10分程度の特集放送を2度行っていました。そのとき、まだ当時はほんの一部ではありましたがERの凄さであったり、断らない救急という他の病院が真似できないことをやっていると知りました。北川センター長と飲みにいく機会もありましたし、圡方プロデューサーも10年前に取材をしていたので、関係は前々からできていたんです。


―――なるほど。でもコロナ禍での難しさはなかったですか?

足立:逆にコロナ禍だから、ERの中に入らないと撮れないし、それをしなければ伝わるものも伝わらないと思い、北川センター長に撮らせてほしいと直談判しました。ご覧の通り、来るもの拒まずの病院ですからOKをいただき、こちらも自由に撮らせていただきました。


―――撮影期間は?

足立:2021年6月から2022年3月です。9ヶ月間、週に2、3回のペースで撮影に行きました。


―――まだコロナの大きな波が周期的に訪れ、その度行動制限や営業自粛が余儀なくされていた時期でしたが、ご自身が感染することへの恐怖はなかったですか?

足立:僕自身がコロナ流行のかなり初期に感染していたので、自分が感染することの怖さより、僕らがどこかでコロナに感染し、無症状のうちに取材をすることで、現場の医師たちに感染が拡大するなど迷惑をかけることになるのではないかという心配が大きかったです。取材中に感染しなかったのは幸いでした。


―――わたし自身、まだERで治療を受けたことがないので、こんな症状の人も運ばれてくるのかという驚きもあったのですが、取材していかがでしたか?

足立:僕も同じくERで治療を受けたこともないし、事件取材はしますが、医療の取材をなかなかする機会がないので、作中に出てくる社会の縮図には本当に驚きました。



■なぜと問いながら取材した、しがらみのない職場

―――中でも、お金を払えないと最初からわかっている人も診察を断らないですよね。

足立:僕も最初は知らなかったのですが、取材を進めるうちに診察代を払わない人がいるということに、ただただ驚きました。「断ってもいいのでは?」と僕らも現場で言ったことがありましたし。通常病院は、患者さんが搬送される際の消防からの電話で支払いができるかどうかを確認するケースが多いのですが、名古屋掖済会病院はそのことを聞いても他の病院で断られたと聞けば、「じゃあ、うちで受け入れます」と言われますので、本当に懐が深い。当時コロナの受診は無料でしたが、通常の救急対応は無料で行うものではない。飲食店でタダ飯食べているようなものですから。


―――それでも最後の砦として患者を受け入れるというポリシーを感じましたし、それが病院創設以来貫かれている。医療機関としてのプライドを感じました。

足立:そうなんです。医師だけでなく、看護師のみなさんや、病院に勤める方全員がその意識を持っている。決して体育会系の根性論で、上から刷り込んでいるのではなく、皆が自主的にそうやっているんですよね。


―――それは足立さんからすれば、すごく驚くべきことだと?

足立:わたしたちテレビ局もしがらみがあり、なかなか一枚岩にはなれない。でもあのERにはそういうしがらみが見られない。まっすぐに人を救う、断らないことに向き合ってやっている。そこは素晴らしいなと思います。


―――テレビ局に限らず、会社も社会もしがらみだらけですが、名古屋掖済会病院が一枚岩になっている源は取材をしていて掴めましたか?

足立:それは、実はそこが最後まで疑問でもあったんです。あれだけまっすぐに人を救い、断らない救急をやり続けられるのはなぜなんだろうと。医療現場のみなさんの、人を救いたいという使命感が突き動かしているのは確かだと思いますが、それだけで果たして組織が一枚岩になれるのか。



■蜂矢先生の本音を垣間見た言葉「来た時よりも悪くするわけにはいかない」

―――実際にその質問を撮影現場でどなたかに投げかけてみたのですか?

足立:本作のメインキャラクターとなっている蜂矢康二先生に聞いてみたのですが、キザな人なのでその場ではなかなか言ってくれないんですよ(笑)。でも映画でも出てくるように「来た時よりも悪くするわけにはいかないじゃないですか」と、かわしながらも的を得た、本心が少し見えるようなことを、ボソボソと上手く言ってくださるんです。きれいな言葉で言われると、逆に聞いている方が萎えてしまいそうになるので、そういう意味では映画には蜂矢先生の本音がつぶさに出ていると思いますね。


―――これだけのことをやっているERがあるということは、本当に希望だと思う反面、その現場で働く救急医の立場が、専門医より下に見られているという現状も見せています。実際にやっていることと、それに対する評価のアンバランスさが見えます。

足立:その通りですね。僕は取材を通じて蜂矢先生のファンになっているだけでなく、救急医は社会に必要とされているはずで、カメラの目の前でまさに多忙きわまりボロボロになりながら、コロナ患者の対応をしているのに、この人たちの医療界における地位が低いというのはおかしい。ですから、その現状を伝えるための取材も行いました。


―――今回、圡方さんはプロデューサーとして携わっておられますが、足立さんが撮影してきたものや編集の方向性をディレクションするという感じでしょうか?

圡方:東海テレビの場合、比較的撮影は監督に任せているので、編集に入ってからサポートをするという感じですね。



■東海テレビならではの長期取材で、テーマを変えていく

―――ちなみに、今回取材する中で、これで番組、しいては映画が作れると手応えを感じたきっかけは?

足立:基本的にはコロナに対してERの現場の人がどう対峙するのかを撮ろうと密着をはじめたので、社会の縮図については取材をし始めた当初から気づいていたものの、それをメインにして描くという発想はまだなかったですし、救急医の地位が低いということに気づくのも遅かった。東海テレビのドキュメンタリーのいいところは、長く取材をさせてもらえることで、そのおかげで撮っていくうちにテーマを変えることもできたし、作品を作るのに必要な画を撮ることもできました。


―――そうやって長く取材をするうちに、名古屋掖済会病院の成り立ちにも目を向けるようになったと?

足立:そこにも感銘を受けました。まずERを3〜4ヶ月取材した後、旧病院にある食堂に連れていってもらったのですが、そこで「昔、ここで救急治療していたんだよ」と教えてもらったのです。「こんな狭い場所にどうやって患者を入れていたんですか?」と聞きたいことがたくさんあり、そこから病院の過去を調べようと思ったんです。当時のERの玄関にいると隣の工場の音が聞こえてくる。そうすると、あの病院に紐づいてくるものが、どんどん浮かび上がってきたのです。また、密着していると外国人の方や、海上保安員の方がどんどん運ばれてくるので、なぜかと聞くと、もともとは船員のための病院だったと。そうして、長く取材をさせていただくと、歴史に触れる機会がどんどん増えてきたんですね。

新聞記者だと、先に過去をしっかり調べてから取材に入ると思うのですが、僕はまさに取材をしながら学ばせていただきました。


―――蜂矢先生は工学部から学び直して救急医になられたという経歴があったり、その下で学ぶ実習生はテレビドラマで救急医に憧れたとか、集まっている先生方がとてもユニークだなと感じます。そしてあの多忙さの中でも、どこかユーモアを忘れない明るい職場であることも貴重でしたね。

足立:確かに、医者のイメージが変わりますよね。忙しくても、あまりギスギスせず、やりがいを持って業務に挑んでいるんです。自社だと忙しいとギスギスするだけなのに、多少そんなことがあっても、すぐに直る。それがなぜなのか。人を救うということで、人をよくしたいという本筋に立ち戻れるからなのか。取材中もそのことを考えましたが、明確な答えが見い出せない。本当に難しいですね。

圡方:メディアもそうですが、大上段に構えたり、大きなテーマを持ってというのはかえって怪しいと個人的に思うのです。だから、蜂矢先生がおっしゃった「目の前の人を、今より悪い状態にしたくない」という、とてもシンプルな言葉が信じられるのではないでしょうか。

(江口由美)


<作品情報>

『その鼓動に耳をあてよ』(2024年 日本 95分)

監督:足立拓朗

プロデューサー:阿武野勝彦、圡方宏史

2024年2月3日(土)より第七藝術劇場、元町映画館、2月16日(金)より京都シネマにて公開

※第七藝術劇場 2月3日(土) 12:20の回上映後、足立拓朗監督・圡方宏史プロデューサーによる舞台挨拶あり

元町映画館 2月3日(土) 16:10の回上映後、足立拓朗監督・圡方宏史プロデューサーによる舞台挨拶あり

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