『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』特別な絆と呪縛のはざまで


 双子といえば、大抵の人が思い浮かべるのは「うりふたつ」とか、「見分けがつかない」という、いわゆる一卵性双生児ではないだろうか。わたしも自分が双子を妊娠しているとわかったとき、親しか見分けがつかない瓜二つの双子のイメージしかなかった。実際はいまだに間違われたことがないぐらい、双子どころか兄弟というよりは他人ぐらいに似ていない男の双子だった。顔が違うと性格も真逆、何かをシェアする相談をする姿なんて見たこともない。そんな双子であることを忘れるふたりを育ててきた身からすれば、双子の入れ違いを利用したユニークなエピソードの数々と、その見事なコンビネーションに驚かされる。こんなことをふたりで企むぐらい仲がいいのがなんだか羨ましい。本作の監督、ワンウェーウ・ホンウィワットとウェーウワン・ホンウィワットも一卵性双生児。自身のエピソードや祖母の家での思い出などを作品に盛り込んだという。タイでヒット作を送り出し続けているGDHの作品の特徴でもある脚本の良さと本当に魅力的なキャスティングが光る、リアルな青春双子ものがたり。双子がトリック的に描かれる作品も多い中、本当のふたりの悩みを描いている双子映画としても記憶しておきたい作品であり、タイの田舎の風景の美しさにもぜひ、注目してほしい。



 ほくろのあるミーとほくろのないユー。一卵性双生児のふたりは、ときどき入れ替わりをしては自分たちだけの特権を楽しんでいた。ほくろを消し、ユーの代わりに追試を受けたミーは、鉛筆を忘れ困っていたところを、同級生の男子に助けられる。彼はミックスルーツのマークだった。夏休みになり、サマースクール行きを熱望するも、お金がないと断られ、母の実家である田舎の祖母の家にふたりして滞在することに。ミーが店番をする間、ユーは昔習っていた弦楽器を習い始めるが、そこで教えていたのはマークだった。初対面なのに親しく話しかけるマークに最初は戸惑いながらも、ユーには、だんだん初めての感情が芽生えてくるが、そんなユーの姿を見て、ミーの気持ちは波立っていき…



 どれだけ仲のいい双子でも、恋愛だけは別。誰かを独占したいという想いは、今まであたりまえのようになんでもシェアしてきたふたりに、世の中にはシェアできないものがあることを突きつける。ふたりの絆が呪縛のように思える瞬間だ。そんなふたりに愛され、自身も翻弄されていくマークをまっすぐに演じたのは、今年の大阪アジアン映画祭コンペティション部門で人気抜群だったタイ映画『親友かよ』(日本配給は未定)の主人公を熱演したアントニー・ブィサレー。ふたりの間で次第に悩みを深めていく姿に、ユーとミーの関係性の悪化が重なり、ずっと一緒ではいられない現実を突きつける。


 

 見た目は瓜二つであっても、慎重でしっかりしているユーと自分の欲望にまっすぐで挑発的な面もあるミーと性格は違う。そんなふたりを一人で演じたのが、本作で主演に抜擢されたティティヤー・ジラポーンシン。入れ替わっている演技も含めると実に複雑な演じ分けを全てひとりでやっているのだから、本当に見事。劇中で、ユーとミーがふたりで踊りながら歌う『Handkerchief』も超キュートだ。ちなみに『親友かよ』では準主役でとても重要な役を熱演しており、まさにこれからのタイ映画界で注目の新星を発見できる作品にもなっているのだ。



 この作品の背景が、1999年の世紀末論で揺れる時代であったことも非常に重要だ。コンピューターの2000年問題で世紀末騒動が世界的に起こり、漠然とした2000年代への不安のようなものがあった時代。ユーとミーにはもう一つ、ふたりにとってはいい父親であっても、借金に追われる羽目となり、母と離婚をすることになるという、家族の破綻が目の前に起きていた。いつまでも一緒ではいられないことを実感せざるをえないこの夏、マークと3人で見た田舎の景色は、次の人生のステップに進むまでの特別な猶予期間だったのかもしれない。いつまでも一緒にいられない代わりに、離れていても心が繋がっていれば、相手のことを思いながら生きていける。相手のことを大事に想うからこその、それぞれの決断がとても潔かった。

(江口由美)





<作品情報>

『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』(2023年 タイ 122分)

監督:ワンウェーウ・ホンウィワット、ウェーウワン・ホンウィワット

出演:ティティヤー・ジラポーンシン、アントニー・ブィサレー

2024年6月28日より全国ロードショー


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