華やかに見える移民モデルの窮状に着想を得たサバイバルストーリー 『MOST BEAUTIFUL ISLAND』監督、脚本、主演アナ・アセンシオさんインタビュー
世界から移民が集まる街ニューヨークは、アーティスト、俳優、モデルの卵など、才能や容姿に恵まれた人が集まる場所でもある。そんなニューヨークに移民として不法滞在している女性が、モデルのルームメイトの勧めでドレスアップし、高額バイトに向かうが、それはニューヨークセレブたちがあるゲームを行う場だった・・・。
スペイン出身のアナ・アセンシオさんが監督、脚本、主演を務め、近年日本でも注目を集めているアメリカのサウス・バイ・サウスウエスト映画祭2017で審査員大賞を受賞した『MOST BEAUTIFUL ISLAND』が、1月12日(土)より新宿シネマカリテ、2月1日(金)よりシネ・リーブル梅田、4月13日(土)より神戸アートビレッジセンター他全国順次公開される。
ダルデンヌ兄弟、ジョン・カサヴェデスのリアリズムを追求する姿勢や、初期のロマン・ポランスキーやデヴィッド・リンチにとても影響を受けているというアナ監督の初長編である本作は、まさに前半はダルデンヌ兄弟作品のように、主人公のルシアナの困窮ぶりや、懸命にアルバイトを掛け持ちする様子がリアルに描かれる。そしてアンダーグラウンドでのゲームに巻き込まれる後半は、デヴィッド・リンチ作品のようなクールかつスリリングな展開が待ち受ける。リアリズムとエンターテイメントを融合させながら、移民として生きる彼女たちの本音に迫った、ヒロインのタフさが光るサバイバルストーリーだ。
本作の監督、脚本、主演のアナ・アセンシオさんが来阪し、インタビューに応えてくれた。
■ニューヨークはサーカスみたいにどんな人がいても不思議ではない場所。
――――自身の体験も元になっているそうですが、アナ監督がスペインからニューヨークに出た理由は?
アナ:今は女優兼監督ですが、22歳の頃、アメリカのテレビシリーズに出演する機会があり、初めてニューヨークに滞在するきっかけとなりました。それまでアメリカの文化にあまり触れることもなかったので、ただただ寒かったことが記憶に残っています。
――――仕事がきっかけでニューヨークに滞在し、現在も拠点となっていますが、ニューヨークは移民にとってそれだけ魅力的な街なのですか?どんなインパクトがありましたか?
アナ:ニューヨークは世界の色々な国からやってきた人たち(アウトサイダー)によって構成されている街なので、そこに住んでしまえば自分が部外者という意識が全くなくなる環境なのです。行く前は自分にとってニューヨークがどんな影響を与えるのか想像もできなかったのですが、行ってみて最初に感じたのは「自分はなんて小さい存在なんだろう」ということで、とても不安になり、不幸なことが自分に起こるのではないかという気持ちに苛まれました。17年間ニューヨークに住んでいますが、本当にすごいところで、まるでサーカスみたいにどんな人がいても不思議ではない。そんな場所だと思います。
――――冒頭のシーンで、いかにニューヨークに多様な民族の人々が溢れているかが分かりますね。 アナ:冒頭のシーンでカメラが女性たちを追っていますが、色々な人がいて、本当にたくさんの物語がある中で、あえてカメラは主人公のルシアナに焦点を合わせ、そこから物語が始まるようにしています。
■本当に住むのが大変なニューヨークの生活。華やかに見えるモデルたちの困窮ぶりをリアルに描く。
――――前半は不法滞在者のルシアナがいかに貧しく、誰にも頼れない生活を送っているかが描かれ、危険な仕事に手を染める背景が色濃く出ています。
アナ:ニューヨークは家賃がとにかく高いので、住むのが本当に大変です。家賃を払うために色々なものを削らなければいけない。そういう生活をまず描こうとおもいました。ルシアナだけではなく、ニューヨークに住む本当に様々な人種の人たちがマンハッタンから離れた場所に住んでいたり、とても狭く、汚い空間で生活しています。昔、マンハッタンのダウンタウンにある1日50ドルの宿で生活していたことがありますが、1フロアがカーテンで仕切った小部屋になっているだけで、色々な人と同居していました。
――――毎日アルバイトを掛け持ちし、それでも電話代が足りないので故郷に電話もできないアナの焦燥ぶりもリアルです。
アナ:私の昔のモデル仲間で、もっと悲惨な生活をしている人もいました。彼女たちはルックスがいいので、それだけでパーティーやレストランで無料の食事をできることもあります。ただ、その時は美しいドレスを着たり、ハイヒールを履いて着飾っているので、彼女たちがそこまで困窮している風には見えないのです。
――――モデルの女性たちの見た目の華やかさと、実生活とのギャップは、この映画で痛切に語られていることですね。
アナ:モデルたちはすごく痩せているけれど、ダイエットしているのではなく、本当に(金銭的な余裕がなく)食べることができないでいる。それぐらい苦しい生活をしている女性たちがいるということを伝えたいという思いも、この映画を作る動機になっています。移民の女性というのは、例えばメキシコから来た女性がメイドとして働いていて、なおかつ普通のビジュアルだとむしろ同情されやすいのです。一方、私の友人たちのように移民だけれど美しい女性の場合、生活的にはメイドの女性よりもっと苦しいかもしれないのに、同情を受けることはなかなかないです。
■自分がやりたい役は自分で作るしかない。何があっても闘い、生き抜く術を知るヒロインを演じる。
――――アナ監督ご自身が演じているヒロイン、ルシアナの設定やキャラクターは、どのように構築していったのですか?
アナ:ルシアナが20代なら、色々な目的でニューヨークに来たという設定にできますが、私自身がもう40代ですし、ルシアナを30代半ばにしているので、目的として、子どもが亡くなり、その事実から逃げるためにニューヨークにやってきたという設定にしました。それぐらい強い動機がないとその年齢で国を離れることはできないと思いますから。この作品、特に脚本は長い時間をかけて練り、キャラクター作りをしていたので、当初の脚本にはありませんでしたが、そのように変容していったのです。私とルシアナとの共通点は、すごくナイーブだけれど強い意志を持ち、何かあっても闘い、生き抜く術を知っていることですね。
――――一番最初から、ルシアナは自分で演じようと思われていたんですね。
アナ:そうです。今までは女優中心に活動していましたが、自分が納得できる役にまだ巡り会えていなかった。自分が女優として何かを成し遂げたという確信がない中で、自分がやりたい役を作るしかないという目的意識が高まり、この作品を自分で監督し、主演もやろうと思ったのです。
■シナリオを書きながら、何度も企画をプレゼン。出資者探しは女性だからこその苦労も。
――――まだまだ男社会のアメリカ映画界で、インディペンデントで映画を作ることは相当ハードルが高かったと思いますが、どんな苦労がありましたか?
アナ:まず、映画に協力してくれる人や、映画に出資してくれる人を探さなければなりませんでした。私は出資者に自分を魅力的に見せると同時に、監督として自分を売り込まなければなりませんでした。やはり出資者は男性が多かったので、ビジネススーツを着ていながらも、チャーミングな面を持ちながら作品をプレゼンしなければならなかった。そこがすごく大変でした。
――――企画内容にはすぐに賛同してもらえましたか?
アナ:最初、企画を出資してくださるかもしれない方にプレゼンをした時は、ほとんどの人から共感を得ることはできませんでした。「エロチックサスペンスになるなら出資するよ」と言われたこともありましたが、私は自分に正直でありたかったのでその時は断ったのです。ただ、正直すぎると出資者がいなくなってしまう恐れがあったので、途中からはそういう声をかわしつつ、何年もプレゼンをし続けました。結局、最終的に出資をしてくれたのは、自分に嘘をつかず何年もこの作品のためにがんばっている私を信じて出資してくださった方で、冗談半分で付き合っていた方達は何も出資をしてくれなかったですね。
■お金のある人はなんでも手に入る代わりに、失うものがあるのではないか。
――――後半はパーティーと称するアンダーグラウンドのゲームに巻き込まれ、とてもスリリングでした。個人的には『ディア・ハンター』のロシアンルーレットのシーンを想起させましたが、何からインスピレーションを得たのですか?
アナ:おっしゃる通り、ロシアンルーレット風のシーンを想定していたのですが、あまりにも残酷すぎるので、使いたくなかった。私は女性監督ですから、女性が思いつくものを起用したいと思い、ガラスの棺桶を使い、裸の女性が横たわる絵が思い浮かびました。そこから女性が思いつくようなゲームはこういうものではないかと、私自身が思いついたゲームです。こんなゲームを思いつく私は、ちょっとクレイジーかもしれませんが(笑)
――――ゲームに誘った張本人でもあるロシア出身のルームメイト、オルガは、同じ移民でも迷いがなく、自分の目的に突き進むキャラクターです。
アナ:ルシアナとオルガの違いは、ルシアナは色々な選択肢があると言われたことで、すごく動揺するのですが、オルガは何が欲しいのか、何を選択するのかがクリアです。強い意志を持っている女性であるオルガとルシアナを対比して描いていました。
――――アンダーグランドで展開するゲームのシーンは、ニューヨークセレブの裏の顔を表現しているのですか?
アナ:ニューヨークセレブの裏の顔というより、むしろお金のある人はなんでも手に入る代わりに、失うものがあるのではないか。変な欲望は満たされても、普通の楽しい人生、人生で得られるものを見失ってしまうのではないか。そんな思いを込めています。
■秘密クラブの中にある階級は、モデル社会でもリアルに起きている。
――――セレブたち以外のゲームに関係する人たちは、ほとんどが移民で、その中にある上下関係も表現されています。
アナ:秘密クラブの中にある階級といえば、アナのようにゲームの一部になっている女性たちの元締めをしているヴァネッサも、元々はアナたちと同じ立場で、そこからのし上がっています。ヴァネッサの状況と同じように、モデルだった人がのし上がってモデルエージェンシーを経営するケースも実は多いんです。ヴァネッサのようにスカウトしたり、「すごくいいオーディションがある」と言って女性たちを送り込むのですが、実はオーディションと称された会場で女性のオークションが行われていたことがあり、そこで得たお金をチャリティーという名目で計上していました。そういうことが現実に起きています。美しいのが大変なのではなく、そういう意識を持っている人がいるということが怖いのです。
――――ラストはルシアナが立ち去る道路沿いにある壁面に「big big dreams」と書かれた看板が映されます。皮肉を込めたシーンですね。
アナ:実はこの作品で唯一このシーンに視覚効果を使いました。元々は違う看板だったのですが、全然しっくりこなかったので、70年代のメッセージを入れたいと思い、撮影後にそこだけ変えました。
――――最後に、これからどんな作品を撮っていきたいですか?
アナ:次回作も女性が主人公の作品で、サイコスリラーを考えています。彼女の心理状況をリアルに追求したものになると思います。
(江口由美)
<作品情報>
『MOST BEAUTIFUL ISLAND』 (2017年 アメリカ 80分)
監督・脚本:アナ・アセンシオ
出演:アナ・アセンシオ、ナターシャ・ロマノヴァ、ニコラス・トゥッチ、ラリー・フェッセンデン、アミ・シェス、デビッド・リトル
2019年1月12日(土)~新宿シネマカリテ、2月1日(金)〜シネ・リーブル梅田、4月13日(土)〜神戸アートビレッジセンター他全国順次公開
公式サイト⇨http://www.interfilm.co.jp/mostbeautifulisland/
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