『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』音楽もアートもモードも、若き労働者階級から始まった!

今や世界的な名俳優のマイケル・ケインが、自ら体験したロンドンの60年代を振り返り、階級社会のロンドンが大きく変貌を遂げた時代や、そこで花開いたカルチャーに迫る 『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』。

父は魚の運搬、母は掃除の仕事で生計を立てていたという労働者階級出身のマイケル・ケイン。さらにコックニー訛りがあったため、俳優業は難しいと言われていた。第二次世界大戦後、日本と同じように貧しい暮らしだったケインからみれば、当時見ていた映画の中の登場人物たちは皆、貴族のように見えたという。

階級差が厳しく、就く職業も決められてしまうイギリスで、労働者階級にとって画期的な政策がとられたのは労働者政権が誕生した50年代。全ての子どもが無料で良い教育を受けることができるようになったことが、60年代の若者たちの自己表現につながっていく。



エルヴィス・プレスリーを見て「人生で初めて自由だと思った」というケインをはじめ、まだリバプールサウンドでロックンロールを演奏している超若いビートルズが登場。ザフーからは、ローリングストーンの曲をポール・マッカートニーが書いたというエピソードも飛び出す。いわゆるライブ映像ではなく、見たこともないようなモノクロのオフショットが満載。彼らの新しいサウンドが流れるラジオは「悪を広める」といわゆる”大人たち”から大反発を受けるが、若い彼らは全く気にしない。地上が無理なら、海上でと、舟を漕ぎ出し船上ラジオ局で思い思いの曲をかける。若者たち自身の文化を、自らの手で。当たり前のことだが、労働者階級の若者がカルチャーで一大ムーブメントを作ることなど、それまでのロンドンでは考えられなかったなんて。


音楽だけに止まらず、ヴィダルサスーンがアートのような髪型を作り上げて行く様子や、一斉を風靡した名カメラマンたちによって、当時流行りのモードファッションでポーズをとるモデルたちが次々と映し出される。その中でも、ひときわ輝いていたのが世界中に旋風を巻き起こしたツイギー。彼女はモデルにも関わらず、ケインと同様コックリー訛りがキャリアの妨げになる恐れがあったという。そんな逆境を跳ねのけ、大躍進するツイギーにミック・ジャガー、ジョン・レノン。あの人もこの人もロンドンで青春時代を共にしていたのかと、今更ながら思う。そして、そのアーティストたちが皆、アメリカで大成功を収めるのだ。アメリカではなく、イギリスが流行を作っていた時代、「長すぎるパーティー」の時代に、自身も次々と映画に出演し、キャリアを構築していったケイン。イギリスの輝かしきカルチャーが誕生した時代を映すのと並行して、ケイン自身の人生を省みる野心作は、60年代イギリスの熱気を感じると同時に、イギリスの中の世代間、階級間の分断にも気づかされた。やはり若い人たちを疲弊させてしまう世の中では新しいカルチャーは生まれない。分断を乗り越え、世界をつなぐカルチャーが生まれる国になってほしいなと、最後は羨望の眼差しで眺めてしまった。


2019年1月11日(金)~シネ・リーブル梅田  1月19日(土)~京都シネマ 2月1日(金)~ シネ・リーブル神戸  

配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES 

© Raymi Hero Productions 2017