『シスターフッド』ドキュメンタリーとフィクションの垣根、時間の垣根を超えて。女性たちは自分を見つめ直し、自分の言葉で社会に問う。
まるでホン・サンスの映画を見ているようなスッキリとしたモノクロの画面に展開するのは、フェミニズムに関する新作の取材に応じるドキュメンタリー映画監督と記者とのやりとり。直前に私自身も取材をしていたので、こういう風に客観的にその光景を眺めると、お互いに「取材をする者」「取材をされる者」として、どこか演技をしているように見え、滑稽だ。しかも女性記者から厳しい意見が寄せられて、少したじろぐあたりなどが妙にリアルで、風刺も効いている。
『もうろうをいきる』『わたしの自由について~SEALDs 2015~』の西原孝至監督最新作。ドキュメンタリーとフィクションを融合させたという物語だが、注意深く見ないとわからないぐらい、その垣根がない。同様に2015年から撮影をはじめたという本作は、2016年から2年間中断し、その間に起きた#me too運動への共感を反映させ、2018年新たにフィクション部分を撮影したそうだが、4年間という時間の垣根もない。男性監督が撮る女性という、むしろ女性の私たちが意識しているような垣根すらも超え、ひたすらフラットに、そして今の東京で生きる若い女性の姿を真正面に据え、彼女たちは今思うこと、「女性の生きづらさ」をどう思っているかを語るのだ。
中でも西原監督が中心に据えたのが、Instagramでその存在を知ったというヌードモデルの兎丸愛美と、以前からライブに通い、そこで表現する喜びを感じている表情が印象的だったというシンガーのBOMI 。兎丸は、カメラを前に自身がヌードモデルとして活動するいきさつを、自身の境遇から語り始める。その姿は自然だが、とても潔い。10代で死のうと思った時に、最後記念にと裸で撮影したことで、「私が私であることに気づけた」という彼女の告白を聞き、とある若い人気ミュージシャンの10代の頃の話と私の頭の中でリンクした。それだけ死を考えている若者が多いのかと愕然とすると共に、何かをきっかけに自分を見つめ直し、クリエイティブな仕事で大勢の人たちに影響を与えている姿がとても眩しい。
一方、モノクロの画面の中で、まるで色がついたかのように輝きを放つのがBOMI のライブシーンだ。インタビューこそないが、作品中2回登場するフルコーラスのライブシーンは、西原監督の狙いである「東京に住んでいる若い女性のライフワークを、ポートレイトのように描く」作品の中で、見事な躍動感を与えている。大阪出身だというBOMIさんのライブに俄然行きたくなった。
女子大生役として登場する遠藤新菜と共に、フィクション部分でも本人役として登場する兎丸。公園で二人佇むシーンは、タイトルのシスターフッド=女性同士の結びつきを静かに感じさせる。「女性として生きづらさを感じることは?」という質問に答える女性の中には「男尊女卑はなくならない」と言い切る人もいる。認めたくはないけれど、揺るがない事実から逃げず、その上で自分らしく生きるには、どうすればいいのか。色のつかない映画が発するさまざまな女性たちの熱が、観る者を覚醒し、そして語り合いたくなるような、ある意味今年の大阪アジアン映画祭の象徴的作品。関西ではまだ劇場公開が未定だそうだが、ぜひ公開してほしい。今を生きる女性たちの偽らざる姿がそこにあるから。
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