『雲と大地のはざまで』アンデスの山々は見ている
標高4,000mを越えるアンデス山脈に囲まれたペルーの小さな村。森林限界を超えた地では、木々はなく、地表に生えた草たちは人間の数よりもはるかに多いアルパカの貴重な餌になっている。遠くを見渡せば、氷河をたたえた山脈の山たちがそそりたち、村の人たちはそれらを聖なる山として、先祖代々敬ってきた。通常はなかなか見ることのできない景色や、そこで暮らすペルーの公用語の一つ、ケチュア語を話す村人たちの暮らしに触れることができる『雲と大地のはざまで』は、そこを旅したかのようなアンデスの空気を運んでくれる。そして、人類のみならずそこで暮らす動植物たちにとっても大切な大地を、開発という名のもとで立ち退きを迫る採掘会社からの圧力や、それに対し村人たちが毅然と立ち上がる姿も描かれるのだ。
8歳の少年、フェリシアーノは愛犬のランボーとアルパカの世話をするのが日課。中でもまだ幼いアルパカに「ロナウド」と名前をつけ、可愛がっている。フェリシアーノはランボーやアルパカにかつて人間が怒らせてしまった「アウキ・タイタ」の話を聞かせることもある。石を積んで祈りを捧げ、石を並べ大好きなサッカーの戦術を考えたりと、自然の中でアルパカたちや家族と暮らすかけがえのない日々。ペルーが36年ぶりにW杯出場(2018年ロシア大会)を果たすかどうかで皆が盛り上がっている中、フェリシアーノや村の人たちが町にW杯予選を見に行ったときに、ある事件が起きてしまう。
映画では、フェリシアーノ一家の暮らしぶりはもちろん、人間たちのせわしない動きや対立する姿と対照的に、アンデスの自然の中で放牧されるアルパカたちの動きが、時にはスローモーションを用いて印象的に映し出される。まるで生きているかのように動く雲たちもしかり、アンデスで受け継がれてきた大地や天と繋がる世界観を、まさに映像で表現しようとしている。
大人たちが村を守るための抵抗運動を続ける中、少年、フェリシアーノが選んだ方法こそ、フランコ・ガルシア・ベセラ監督が遺しておきたいと願う純度の高い祈りだったのではないだろうか。昔から変わらぬアルパカの放牧を山の中で続けるフェリシアーノと、ペルーW杯出場決定の裏で聖なる大地を守る闘いをしている大人たち。それらをただならぬ気配を漂わせて、アンデスの山々はじっと見守っていた。
『雲と大地のはざまで』
原題:RAÍZ (2024年/ペルー、チリ/ケチュア語、スペイン語/83分)
監督:フランコ・ガルシア・ベセラ
出演:アルベルト・メルマ、ネリー・ウアイタ、リチャード・タイぺ
6月27日(土)よりユーロスペース、テアトル梅田、7月3日(金)より京都シネマ、センチュリーシネマ、7月4日(土)より元町映画館他全国順次公開
© 2024 Desfase Films, Mestizo Studios, Wayquicha
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