黒澤明監督へのオマージュから次回作の構想まで。『山〈モンテ〉』アミール・ナデリ監督、神戸・元町映画館で語る。


全編イタリアロケを敢行し、呪われた土地で家族と生き続けるため、山と対峙する男を描いた巨匠、アミール・ナデリ監督最新作『山〈モンテ〉』が、現在絶賛公開中だ。3月23日(土)、神戸・元町映画館の公開初日に、ナデリ監督とプロデューサーのエリック・ニアリさんが上映後のQ&Aに登壇し、映画への思いを語った。


まずは神戸の観客に「神戸はとても美しい街、食べ物も美味しいし、そこにいる人たちも本当に素晴らしい。そしてこの元町映画館もクラッシックな雰囲気でとてもいい劇場です。前作、西島秀俊さん主演の『CUT』が元町で上映された時は来場することができなかったので、本作も元町映画館で上映でき、またお越しいただいたみなさんとお会いできて、とてもうれしく思います」と神戸や元町映画館、ご来場の観客、そしてこの映画を日本で配給・宣伝しているニコニコフィルム代表で映画監督の蔦哲一郎さんに感謝の言葉を伝えた。

そして、Q&Aに入る前に、10年前から構想し『CUT』の続編として西島秀俊さん出演作にするつもりだったこと、日本で撮影地を探していたが撮影に適した山が見当たらずロケ地探しにイタリアへ向かったこと、イタリアでの撮影秘話、黒澤明監督へのオマージュを込めた作品づくりについて、時には観客が大爆笑するような逸話(ダイナマイトでイタリア国境の山を爆破し、当時は3カ国から告訴されたが、ヴェネチア映画祭での受賞により事なきを得、その山のある村では爆破前の風景と爆破後の風景の絵ハガキが買える!)を交えて披露し、観客からの質問に答えた。まるでキャッチボールをするかのようにテンポよく次々と答えたナデリ監督のパッション溢れるQ&Aの内容をご紹介したい。

※撮影秘話については以下のインタビューで詳細をご紹介。


ーーー今の時代にこのような映画を作る意図は?

ナデリ:私は世界中で起こっていることより、いつも自分の人生に基づいて映画を作っています。1000年前ぐらいの神話にしたのは、今であろうが昔であろうが、どんな人間にとってもそこに山がある。それは普遍的なことだからです。それこそイタリア人であろうが、フランス人であろうが、日本人であろうが、アメリカ人であろうが、どんな国の人間でも、同じような状況が必ずあります。映画を作るときに、最初から強いメッセージを思い描いていると、マジックは起こり得ません。結局それは意図して起こるのではなく、自然に起こるものなのです。『CUT』で西島さんが演じた秀二もそうですが、主人公のアゴスティーノのキャラクターは私自身を投影しています。つまり、不可能なことを可能にする。それを主人公に重ねて表現したかったのです。


ーーーナデリ監督はイラン出身だが、イランでは今、このような映画が作れる状況なのか?

ナデリ:『山〈モンテ〉』のような映画をイランで撮ることは基本的には可能ですが、イスラム教の問題が絡むと少し難しくなります。私が日本を好きになったのは、イランと日本は文化的に共通することが多いからです。日本も古くからある国ですし、文化の歴史があります。実は40年前から日本映画はイランでも人気があるのです。


ーーー黒澤監督がお好きだそうだが、どんな作品がお好きなのか?

ナデリ:『蜘蛛巣城』と『七人の侍』ですね。黒澤明監督作品の後半15〜20分ぐらい、必ずオリジナルで実に映画的なシーン描写があり、主人公がそこで何かを成し遂げようとします。『七人の侍』の場合、ラストの数十分はまるでシンフォニーのようで、『山〈モンテ〉』にも大きな影響を与えています。『七人の侍』では七人のほとんどが死んでしまいますが、最後は次の世代への希望がみえてきます。『山〈モンテ〉』でのラストシーンを思い出していただければ分かると思いますが、(山を切り崩した後)太陽という希望が見えてきます。もう一点、この作品で黒澤監督へのオマージュを捧げた点としてはカメラワークです。撮影方法や編集、音の使い方もそうです。私にとって、黒澤監督は世界中で一番編集が優れていると思います。溝口監督、小津監督もまた違う部分で、私にとっては映画の達人ですね。



ーーー本作は元々は西島秀俊さんをキャスティングする予定だったそうだが、次回作でキャスティングする予定はあるのか?

ナデリ:『CUT』『山〈モンテ〉』に続く三部作の作品として、歴史に関する物語を撮りたいと思っています。蔦監督の故郷、徳島県で、西島秀俊さん主演の作品を撮りたいと思っています。『CUT』では秀二が殴られることでシネマ(映画)を守ります。『山〈モンテ〉』ではアゴスティーノが山を崩して光が戻ってきます。ただ、次回作は誰にも殴られませんし、何も壊しません。主人公は何かを作るのですが、それもまた今までの2作と同様にチャレンジングなことなのです。


ーーー『山〈モンテ〉』に続編があると聞き驚いたのだが、どのように続いていくのか?

ナデリ:たまに物語の中で、今回では『山〈モンテ〉』主人公、アゴスティーノが亡くなりますが、それは映画のためではなくアートのためなのです。大きなものを作るためには、必ず小さなところから始まります。最後にキャラクターたちが若くなることにお気づきかと思いますが、私は映画の中に希望を入れたかったのです。


最後に、「元町映画館でジャン・ヴィゴ監督『アタラント号』が上映予定なのは、本当に素晴らしいことです。ジャン・ヴィゴ監督の作品を上映するこの場所で、次世代の映画監督が生まれてくるかもしれませんから。神戸はとても美しく、文化的に成熟し、素晴らしい人たちがいる街です。そのような場所で、次世代の映画監督のための企画が必要です。映画というのは大学で学ぶものではなく、映画館で学ぶものです。『CUT』の主人公、秀二も体が傷だらけになるぐらいに殴られながら、ジャン・ヴィゴ監督作品のような古典の名作を守りましたから」と、神戸で次世代の映画監督を育てる環境づくりの大切さを力説し、日本映画をこよなく愛するナデリ監督の熱がこもった舞台挨拶を締めくくった。『山〈モンテ〉』は、元町映画館で4月5日(金)まで上映中。

元町映画館スタッフとの写真撮影!

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