映画『YUKIGUNI』で登場のスタンダードカクテル「雪国」を味わおう!神戸の名バーテンダー森崎和哉さんが「雪国」を作る、語る。

ジャパニーズスタンダードカクテルとして、世界中で愛される「雪国」を考案し、90歳を超えた今も現役バーテンダーとして山形県酒田市の店に立つ井山計一さん。その人生に迫る渡辺智史監督のドキュメンタリー『YUKIGUNI』が、3月22日(金)よりテアトル梅田、4月6日(土)より第七藝術劇場、元町映画館、京都シネマ他で全国順次公開される。

元町映画館で4/6(土)12:30回上映終了後、神戸の名バーテンダー森崎和哉さん(Bar SAVOY hommageオーナーバーテンダー)が作る「雪国」を飲んでいただけるカクテルパーティー&渡辺智史監督によるトークも開催予定だ(鑑賞者のみ、1杯500円)。

上映に先駆け、神戸・花隈のBar SAVOY hommageにて映画『YUKIGUNI』公開記念の限定イベントが行われ、森崎さんによる「雪国」にまつわる話や井川氏が経営する「ケルン」を訪れた際のことをお話いただいた後、カクテル「雪国」の実演が行われた。


■故小林省三さんを師匠に持つ森崎和哉さんがオーナーのBar SAVOY hommage

このBar SAVOY hommageは、大阪万博の世界カクテルコンテストで世界一になった実績の持ち主で、長年神戸でバーやカクテル文化のマスター的存在であった故小林省三さん(2006年閉店のSAVOYオーナー)を師匠に持つ森崎和哉さんが暖簾分けし、神戸の花隈にオープンさせたバー。元町映画館からも徒歩5分ぐらいで県庁方面に坂を登ると、一見喫茶店のようなレトロな雰囲気の店が現れる。バーといえば、ビルの奥という勝手なイメージとはほど遠い、すっと入りやすい場所にあるのが、バー初心者の私としてはうれしい。だが、一歩店内に入ると、そこは歴史が染み込んだバーの空間。16時開店とバーにしては早いスタート時間だが、もうそこは素敵なカクテルを、しっかりと落ち着いた空間で楽しめる、大人の場所となっているのだ。店内には、映画『YUKIGUNI』のパンフレットの裏表紙を飾る切り絵作家の成田一徹さんが作った小林省三さんの切り絵も飾られ、かと思えば「お客さんが置いてくださった」というテッドのぬいぐるみもさりげなく置かれている。そこに集う人とのつながりが温かみを与えてくれるような場所でもあるのだ。



■「老いても美しく生きる秘訣を、映画を通して探りたい」(渡辺智史監督)

まずは映画『YUKIGUNI』の渡辺智史監督より、映画の主人公、昭和元年生まれの井山計一さんの略歴を紹介(戦後の昭和27年より仙台でバーテンダー修行を開始、当時はダンス講師も行なっていた)。1959年3月に開催された寿屋(現サントリー)のホーム・カクテル・コンテスト全国大会でグランプリを受賞した雪国は、今年でちょうど60年を迎えるが、「50年代のカクテルを考案した方の中で、ご存命な方もなかなかいないのに、今も現役で、しかも週5日3時間半きっちりと働いておられる方はいません」と今の井山さんの姿にも触れながら、「シニアの生き方、働き方が問われる時代に井山さんの生き方を通して、働きがいであったり、老いても美しく生きる秘訣を映画を通して自分自身も探りたい。またバー文化、洋酒文化をびたいと思いました」と映画の狙いを語った。また切り絵作家、成田一徹さんの「バーは人なり」という言葉に感銘を受け、映画作りに思い悩んでいた時の指針になったことも明かした。映画の中ではバーやカクテルの話だけではなく、家族の葛藤も語られることにも触れ、「バーが好きな人だけでなく、色々な方に観ていただきたいし、今までバーに行ったことがない人にも、観ていただければうれしいです」とメッセージを寄せた。

※渡辺智史監督インタビュー記事はこちら

■井山さんと師匠(小林さん)に共通しているのは「皆が使わない材料をどうやって使ったら面白くなるのか」という発想

そしていよいよ、オリジナルカクテル雪国の実演へ。「井山さんの後輩という立場から、色々なカクテルがどんどん淘汰されていく中、雪国というオリジナルカクテルが今の時代にまで受け継がれてきたことについてお話したい」と切り出した森崎さん。実は、師匠の小林省三さんは、井山さんがコンクールでオリジナルカクテル「プチシャトー」が優勝したときの審査員をし、井山さんとも面識があったそうで、森崎さんご自身も一度コンクールの場で井山さんと挨拶を交わしたことがあったという。その森崎さんは、この3月に井山さんが経営する酒田市の店「ケルン」に初訪問し、井山さんが目の雪国を実際に味わい、そして師匠の話も含めた話に花を咲かせたのだとか。井山さんの雪国を味わった上で何か伝えられればという、森崎さんの意気込みにも感銘を受けながら、まずは使う材料の説明から。

●サントリー ウォッカ 100プルーフ。

井山さんは通常は50度のものを使用しているそうだが、お客様に応じて40度のもので作るときもあるそう。

●ホワイトキュラソー(コアントロー)

キュラソーとは、キュラソー島産のオレンジで、ビターオレンジという皮を使用したオレンジリキュール。井山さんは、サントリーのヘルメス ホワイトキュラソーを使用。

●コーディアルライム(サントリー カクテルライム)

フレッシュなライムではなく、糖分が少し入ったライムジュースのようなもの。50〜60年代当時、フレッシュなライムはとても高いものだったところ、ライム風味のジュースをサントリーが開発。当時流通していたカクテルライムが、目につくところにあったからというニュアンスで井山さんはさらりと使用理由をおっしゃっていたそう。

●ミントチェリー

山形県産さくらんぼのナポレオンという品種が酸っぱかったので、なんとかして甘くできないかとミントに漬けたものを業者さんからもらったことが、雪国を作る時井山さんの中で使うきっかけになったのだとか。

●砂糖

上白糖をブレンダーで細かくしたもの(雪をイメージ、上白糖のままだとやぼったい雪になると井山さん談)を、レモンで湿らせたグラスにつける。


ちなみに井山さんは、1日平均40〜50杯の雪国を毎日作っておられるそう。森崎さんは今やクラッシックとなった雪国について「井山さんや師匠(小林さん)と接していて思うのが、当時やっていることは意外と新しかった。皆が使わない材料をどうやって使ったら面白くなるのかというお茶目な部分があります」と、Bar門の先代、長嶋秀夫さんとの雪国誕生エピソード(映画でも登場)を紹介。

実際、60年前の誕生当時と今とでは井山さんも雪国のレシピを変えているそうで、「今の方がウォッカが多めになっています。当時のカクテルは甘さ指向が強い時代で、それが評価されたのですが、年々素材を生かし、より絞った中での世界観という流れが来ています。結果的に、井山さんの今のレシピは甘みを絞ったものになっています」と説明。


■時代を超えて愛されるオリジナルカクテルは「自由」さがある。

さらに森崎さんはオリジナルカクテルについても、「決して分量を守ることではありません。時代によって変化しますし、これだけ日本全国で雪国と言われれば二つ返事で作れるように普及したのは、『雪国はこうでなければいけない』という部分がないことが揚げられるのではないでしょうか。それぞれの地方で、それぞれのバーテンダーの雪国があり、でもそこにはウォッカ、キュラソー、コーディアルライムをもとに、ちょっとレモンを入れようかというお遊びも受け止めることができるカクテル。だからこそ、この世の中にスタンダードとして普及しているのだと思います」と雪国が長年愛され、作り続けてこられた秘訣を考察。他のスタンダードカクテルの話題も交えながら、「スタンダードになっているカクテルはあくまでも自由。それを受け止める寛容さがあります。井山さんのカクテルにもそれを感じました。今日は僕のフィルターを通して井山さんの雪国を作らせていただきますが、当然作り手ひとつで味が変わるのもカクテルの面白さ。僕の井山さんに対する思いや、修行してきた中で表現できる雪国を、今から作りたいと思います」


■長年バーテンダーをしてきた人のカクテルは、相反するものが同居する。

ちなみに森崎さんが井山さんのカクテルを飲んだ時は、「92歳の方が作るカクテルとは思えなかった。昔の方は結構お酒をしっかりいれますが、辛いだけではなく、切なさや優しさを感じられるのが長年バーテンダーをしてきた人のカクテルなんですね。相反するものが同居する。甘いけど味がキレるとか、その秘訣を僕も師匠の元で修行しながらなんとか身につけようと思いましたが、今でもまだ難しいです。井山さんと出会い、同じことを感じましたし、僕の師匠と仲がよかったのでそんな昔話をされているのを聞いて、僕自身もうるっときてしまいました」と、井山さんのオリジナルカクテル、プチシャトーが神戸大会で優勝したときの師匠、小林さんとのエピソードも披露。今、森崎さんは全国大会にも出場されているそうだが、「井山さんが雪国で優勝したのは、50代の時。そこまで全国大会に出続けるなんて、考えられない!」と感嘆の声も。ここからは、名バーテンダー、森崎さんによって作られる「雪国」を動画でご紹介したい。


いざできあがったオリジナルカクテル「雪国」のなんと美しいこと・・・。本当にフォトジェニックなカクテルだ。古びないものは、シンプルな美しさを備えていることを実感する。


そっと口をつけると、やさしく、でもしっかりとついている粉雪のような砂糖と、ちょうどいい頃合いに冷えた、スッキリとしたカクテルの香りがすっと口の中に広がり、至極の瞬間。多分井山さんのものよりは、飲みやすくしていただいたと思われる森崎さんの「雪国」は、ビギーナーにも寄り添うような感じで、でも、キリリとした感じが心地よい。ライムの爽やかさも広がるが、あくまでもキリリ!


最後まで底に沈んでいたミントチェリー。時間をかけてゆっくりと味わった「雪国」の最後、グラスを思い切り傾けて、口に放り込むと、少し柔らかく、ビターになりながらも、ちょっと懐かしい瓶詰めチェリーの甘さが、どこかご褒美のように口の中で弾ける。辛口からのこの甘さ。ただ色が綺麗だけじゃない、見事なアクセントだ。


映画『YUKIGUNI』と笑顔が素敵なバーテンダー、森崎さんのBar SAVOY hommage。イベント当日だけでなく、ぜひハシゴして映画と森崎バージョンのカクテル「雪国」を味わってほしい。