「映画の可能性に挑んだ第一弾が音を絞ることだった」矢崎仁司監督、40年ぶりに蘇ったデビュー作『風たちの午後』を語る


『三月のライオン』『ストロベリーショートケイクス』『無伴奏』『スティルライフオブメモリーズ』と痛みを伴う切なる恋愛を、独特の映像美で描いてきた矢崎仁司監督。そのデビュー作で、40年前ながら既に女性が女性を好きになるという従来の枠組みにとらわれない愛の行く末を描いた伝説の名作『風たちの午後』が、長い封印を経てデジタルリマスター版で見事に蘇った。


美津のことだけを考え、自分の身に何があってもそれを引き受けて、美津の気配を感じることで生きる喜びを感じる夏子と、何があっても常にクールで冷静にあろうとする、どこか影のある美津の日常を、自然体かつ細やかな演出と、印象的な音楽、生活音、そしてその空気を閉じ込めた豊かな映像で表現した衝撃的な愛の映画。上映前には、フィルム上映時同様、セリフのボリュームを下げて、ぜひ映像で感じていただきたいというアナウンスが入り、全身で映画を感じる体験となった。デビュー作にして、これまでの作品全てに流れるエッセンスが凝縮されており、愛についての強度のある映画として語り継がれるべき作品だ。


東京を皮切りに、大阪アジアン映画祭(特別招待作品部門)での上映、他全国順次公開されている同作が、5月11日(土)神戸・元町映画館で初日を迎え、矢崎監督の舞台挨拶が行われた。


上映後、先日までの新作撮影ですっかり日に焼けた姿が印象的な矢崎監督がご登壇。「新作の撮影が終わったばかりで、朝起きるとまだ夢でうなされている感じでポカンとしているのですが、元町に来て元気をもらって帰ろうと思います。ありがとうございます」と挨拶。『三月のライオン』を観て以来、ずっと矢崎監督のファンだという林支配人も、まさか40年ぶりに『風たちの午後』をかけることができるなんてと感無量の面持ち。



■映画の可能性に挑む第一弾が音を絞ることだった

当時は日本の劇場だけでなく、海外の映画祭でも音のボリュームを監督自らが下げてと指示して回ったという本作の音作りについては「80年当時、映画というものは、客席に座ればあとは何もしなくて観れるという感じだったので、一本ぐらい観ることを強いる映画があってもいいのではないかと考えたのです。100年ぐらいの映画の歴史の中で、これがベストという風潮への反発心もありました。まだまだ映画の可能性はすごく残っている。それに挑む第一弾として、音を絞ることを最初に考えました」

さらに、「撮影でも僕と離れた場所で演じている役者に対して、『僕に聞こえるのはおかしい』とNGを出したりしていました」と音が出過ぎることに対しての持論を明かした。



■僕が興味あるのは光景

「振り返って思うと、僕が興味あるのは光景なんだな。そこで話される会話はあまり興味がない。イヤホンで飛ばしてもらって、俳優さんの会話を聞くというシステムが今はありますが、全く使わなかった。見たいのはその光景だったなと、今改めて思います」と、矢崎監督の映画に対する思いを披露。セリフで多くを表現する映画が多い中、今の日本映画の流れとは一線を画する、映像で感じる映画は稀有だという林支配人の声に、「なんでこんなにズームするんだとか、なんか恥ずかしいんですけどね」と改めて観るデビュー作への照れも語った。


■『風たちの午後』デジタルリマスターは「今の僕が『風たちの午後』を撮るならどうするか」という新作への滑走路

朝方の歌舞伎町で、二人の女性が肩を組んで歩いている光景を見て、女性同士でもこういうことをするのかと思ったことがきっかけの一つだったという矢崎監督。

「映画24区の三谷一夫プロデューサーにこっそり見ていただいたら、『風たちの午後』を今、もう一度撮らないかという話をいただいたのです。準備を進めているのですが、それへの滑走路として『風たちの午後』を蘇らせようという話であれば、次に続くのでやろうと。もう一度撮るという話がなければ、葬っておこうと思っていました。(セルフリメイクですかという問いに)今の僕が『風たちの午後』を撮るならどうするかという三谷さんの投げてくれた意思には応えようと思っています。プロットは進んでいるので、早ければ年内でも撮影に入りたい。振り返ると、ずっと映画の可能性に挑んできたと思っているので、次も挑みたいです」と、今回の『風たちの午後』デジタルリマスターが新しい企画への第一歩であるという嬉しい報告もあった元町映画館での舞台挨拶。最後に「本当にありがとうとしか言いようがない。すげえ、うれしいです!なんか、頑張ろうなと思います」と笑顔で応えた。

関西では、シネ・ヌーヴォ、元町映画館、出町座の3館で絶賛上映中の『風たちの午後』デジタルリマスター版。この機会に、ぜひこの”伝説”を肌で感じて欲しい。

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