ピアノの即興演奏でサイレント映画を味わう感動の映画ライブ!ソ連の映画作家ジガ・ヴェルトフの傑作『カメラを持った男』@元町映画館SILENT FILM LIVE#04

映画館でのライブ体験が人気を博している今、元町映画館ではサイレント映画時代の映画体験を再現した、ピアノの即興演奏付きでサイレント映画を楽しむSILENT FILM LIVEを2018年3月から開催している。2019年6月8日に行われた#04では、『アタラント号』をはじめとするジャン・ヴィゴ監督の作品が上映されるのに合わせ、ジャン・ヴィゴの映画制作に大きな影響を与えた実験的ドキュメンタリーの金字塔、ソ連の映画作家ジガ・ヴェルトフ『カメラを持った男』(1929)のライブ上映が行われた。 


演奏は、そのレパートリーが490本に及ぶという、関西を中心にサイレント映画専門楽士として活躍している鳥飼りょうさん。 楽譜もなく、映像を見ながら、その雰囲気に合わせたやわらかく、映像の魅力を引き出すような伴奏が奏でられる。

あるロシアの1日を撮った作品は、カメラを撮る様子を映したり、映画館で観客が見る作品が私たちの見る映像になっていたりと、様々な入れ子構造を用いる他、画面を重ねたり、高いところや低いところから撮影したりと、様々な撮影手法が取り入れられ、ワクワクさせられる。特に筋がないと言いながらも、同じモチーフが何度も登場したり、婚姻届を出す映像と離婚届を出す映像が続けて映し出されたかと思えば、結婚式と葬儀の映像が続けて映し出されたり、人生の悲喜こもごももが描かれる。また道ゆく路面電車が絶妙のタイミングで交差する様子や、勢いよく走る列車、工場で働く男たち、タバコを箱詰めする女たちと働く人々の生き生きした様子も映し出す。そんな映画の勢いに合わせて、ピアノの伴奏もクレシェンド(だんだん強く)に。映像のテンポが早まるのと共に、演奏のテンポも早まり、鍵盤をガンガン叩く息遣いが感じられる。これぞ映像と同じ空間で演奏しているからこその一体感だ。かと思えば、肖像の静止画の時には演奏がちょっとブレイクした後、不協和音をふっと奏で、ピリッとしたアクセントになる。

100分の映画の中で、さまざまな映像の強弱に呼応するかのように、演奏の強弱がつき、そして音がなければ入り込みにくかったかもしれない映像が、説得力をもって、記憶に焼き付いていくのだ。「いだてん」顔負けの運動をする人々や、大きな映画館で映画を楽しむ人々など、社会主義がある一定の成功を見た時代の生き生きとした姿を描いた作品。エンディングに差し掛かり、ピアノの音もフォルテッシモ(きわめて強く)で、興奮がマックス状態に。ジャン!と演奏と共に映画が終わりを告げた時には、大きな拍手が沸き起こった。これぞライブ!の醍醐味だろう。そして、映画はこんなに自由でいいんだ!と実感する、まさに目から鱗の傑作だ。 



鳥飼さんにとっては7回目となる『カメラを持った男』のピアノ伴奏。「日本ではサイレント映画といえば、弁士ありきですが、ソ連映画『カメラを持った男』はあらすじやセリフがないので楽士が取り上げないと上映されないタイプの作品。関西で上映される機会が多い作品なので、自分が演奏しなければという気持ちでいつも演奏しています。演奏するたびにテンションが高まりますね」と作品への思いを表現した。 

楽譜なしでの即興演奏のための準備で一番大事なのは、映画を理解することという鳥飼さん。「映画の基本的な本質をどうみせるかを大事にしています。準備でも7〜8割は映画を観ることに費やしています。映画の即興演奏は、音楽が勝ってしまうと、観客が映像に没入できなくなってしまう。華やかな演奏は不要で、むしろ演奏者の解釈の仕方が問われます。弁士がつくとまた違う雰囲気になりますし、演奏者が違えばまた全く違う雰囲気になる。今は応援上映が人気を博していますが、無声映画の歴史を辿れば、元々は劇場に備え付けのピアノ、オルガンの生演奏と共に上映されていたので、そういう意味で、映画の元の姿に戻っている気がしますね」とSILENT FILM LIVEの可能性を語った。 

 また、観客の熱量も演奏に影響するという鳥飼さんは、SILENT FILM LIVE#03で上映した、美少女の転落悲劇を描いた『何が彼女をさうさせたか』のたたみかけるような悲劇が白熱する後半シーンで、演奏が白熱したあまり譜面台とライトを倒してしまったというエピソードも。元町映画館林支配人もその白熱ぶりが忘れがたい体験になったという。 




9月22日(日)に開催予定のSILENT FILM LIVE#05では、

スウェーデン出身のヴィクトル・シェストレム監督とリリアン・ギッシュ、ラルス・ハンソンの黄金コンビでおくる傑作『真紅の文字』(1926年/アメリカ/87分) を上映。

<あらすじ>

17世紀、厳格な清教徒が暮らすニューイングランドの村。裁縫婦へスターは若き牧師ディムズデールと出会い、やがて愛し合った。ディムズデールは布教のため暫く村を去るが、その間にヘスターは子を産み落とした。布教の旅から戻ってくると、へスターの胸には姦淫を象徴する赤きAの印が…。

(協力:マツダ映画社) 


関東を中心に上映されてきた作品で、関西での上映は非常に貴重という本作。「このメンツで悪い映画が出来上がるはずがないという映画。メロドラマだけれど、リリアン・ギッシュがジャンヌ・ダルクのように凛とした女性を演じている」と林支配人も太鼓判を押す必見作だ。メロドラマの伴奏が好きだという鳥飼さんの本領を発揮できる作品とも言えよう。 

予約は元町映画館店頭もしくは電話(078-366-2636)、メール(event_motoei☆yahoo.co.jp)

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