神戸・六甲山発ホラーコメディで、新旧アイドル観が激突! 松本大樹監督、初長編作『みぽりん』を語る。
「会いに行けるアイドル」AKB48の誕生で、今は地下アイドルをはじめとするファンとの距離が近いアイドルが無数に存在するが、かつてのアイドルはもっと神聖な存在だったのではないだろうか。
新旧アイドル観が激突する神戸・六甲山発ホラーコメディ『みぽりん』が、9月7日(土)より元町映画館、9月14日(土)よりシネ・ヌーヴォX、9月27日(金)より京都みなみ会館、12月21日(土)より池袋シネマ・ロサで全国順次公開される。
監督は、神戸出身の松本大樹。初の自主映画制作で製作・脚本も担当し、六甲山、三宮など100%神戸ロケで作り上げた。主演のボイストレーナー、みほに垣尾麻美、監禁される歌が下手な地下アイドル、優花に津田晴香が扮し、山荘での恐怖のボイトレレッスンとその行方を、スリルと笑いを盛り込んで描いている。世界初上映となったカナザワ映画祭2019では、見事「期待の新人監督」観客賞を受賞。映画祭で賛否両論を呼んだラスト10分は、園子温作品を彷彿とさせる阿鼻叫喚ぶりだ。優花のライバル、里奈や、二人が属するアイドルグループ「Oh!それミーオ!」のプロデューサー、マネージャー、そして優花推しのファンが入り乱れ、地下アイドル業界への風刺も滲ませる。日本の文化でもあるアイドルを今一度考察する、意欲作と言えるだろう。
キャスト全員が映画初出演というフレッシュさも魅力の『みぽりん』松本大樹監督に、アイドルを題材にしたホラーコメディに込めた狙いや、自主制作映画ならではの宣伝について、お話を伺った。
■傑作ホラー『ミザリー』をモチーフに、ホラーとコメディーの間を探る。
―――今までカメラマンとして映像関係のお仕事に携わっていた松本さんは、昨年の7月に「映画を撮ろう」と一念発起したそうですね。私は8月の某取材で初めて松本さんとご一緒した帰りに、初監督作の準備をしている話を聞かせていただいたので、すごく記憶に残っています。
松本:僕の場合、低予算映画しか撮れないので、登場人物が少なく限られたシーン、場所で撮るとなると、監禁系しかないと想定していました。監禁系の映画を色々と見返すうちに、ロブ・ライナー監督の『ミザリー』を見て、これしかない!と閃いたのです。
―――そこまで『ミザリー』に惹かれたのはどんな点ですか?
松本:1つは、足が潰されるシーン以外はあまり恐ろしいことは起こっていないのに、見せ方で緊張感を持たせる演出が上手い。初監督作なので、そんなに難しいことはできませんが、小さなことでも怖がらせることができれば勝算はあると思いました。もう1つは、怖いだけではなく笑ってしまうところがユニークで、ホラーとコメディーの間をゆく感覚が新しい。それをぜひやりたいと思いました。主演女優の垣尾麻美さんは、以前仕事でご一緒したことがあり、垣尾さんでジャパニーズ『ミザリー』をやれば面白いのではないかというアイデアが浮かび、すぐに垣尾さんの事務所(澪クリエーション)にオファーして、他の役者さんも紹介していただきました。
―――なるほど、最初から垣尾さんありきの企画だったんですね。まさに女優映画ですが、その時にはアイドルネタでいこうと決めていたのですか?
松本:僕自身、そんなにアイドルには詳しくないのですが、仕事でアイドルのMV(ミュージックビデオ)やライブ撮影はしていたので、身近なテーマではありました。撮影兼監督補のヨシナガ君と、小説家とファンの話である『ミザリー』を現代の日本に置き換えたら何だろうと話し合ううちに、「アイドルじゃないですか」と案を出してくれ、映画づくりを決めた翌日にはアイドルのMVを作る話にしようと決まったんです。『みぽりん』というタイトルも、アイドルを匂わすものにしようと考えた中、ヨシナガ君が出してくれたアイデアでした。
■『ミザリー』から取り入れた緊張と緩和。
―――ヨシナガさん、グッジョブですね!具体的にそこからどのような準備を進めていったのですか?
松本:僕は短編も取ったことがないので、お手本になるものが欲しいと思い、『ミザリー』を徹底的に研究しました。小説も読んだのですが、そちらは主人公アニーが小説家を監禁してずっと怖いことをするシーンが延々と続き、重々しい雰囲気であまり面白いという気持ちになれなかった。だからロブ・ライナー監督はすごいと思ったんです。どういうシーンでどんなことが起きたかを、尺も入れながら書き出してみると、作品を2時間にまとめるにあたり、緊張と緩和を取り混ぜ、すごくいい塩梅で構成している。怖いシーンの後に、保安官の緩いシーンがあり、見せ方がうまいです。
―――『みぽりん』も、山荘での監禁シーンとプロデューサーたちのシーンが、交互に登場します。
松本:山荘だけの監禁映画だとすごく怖くなりすぎてしまうので、怖がって、緩んでという構成は参考にさせていただきました。サイドストーリーでファンとプロデューサーの話を進めていくという流れにしています。三宮がホッとするシーンで、六甲山が緊張するシーンという形ですね。
■2019年のアイドルを取り巻く状況を映画に刻み込む。
―――地下アイドルなど、会いに行けるアイドルが溢れている分、彼女たちを取り巻く環境は非常に危険で、様々な事件が起きています。『みぽりん』はコメディーではありますが、地下アイドル業界の裏側をリアルに描いていますね。
松本:アイドルを題材にした脚本を書こうとした頃、16歳の農業アイドルが、事務所社長のパワハラに追い詰められ自殺してしまう事件が報道されました。それを知ってからだいぶん脚本を変えています。よく確かめずに契約書を書かせ、「逃げ出したら、1000万払ってもらうから」と脅すセリフなど、ただのB級映画だけではない、2018~2019年のアイドルを取り巻く状況を風刺するような形で盛り込みたいと思ったのです。AKB48の登場で会いに行けるアイドルが次々登場し、盛り上がった状態が続きましたが、ファンの男2人から暴行被害に遭った2019年のNGT48騒動で、その盛り上がりが落ち着いてきたことも映画に刻みたかったんです。
■どこか狂気をはらむ、みほ役の垣尾さん。即興劇から女の本音をセリフに生かす。
―――アイドルは神聖なものと考え、歌の指導をするボイストレーナー、みほの怒りが映画の原動力になっています。「市民税、払えないんだよ」など個性的なセリフも多いですが、アドリブも含まれているのですか?
松本:みほに監禁される優花役の津田晴香さんはアドリブで言い換えてくれたので、どんどん取り入れてもらいました。一方、みほ役の垣尾さんはまじめな方で、セリフを一字一句変えずにやろうとするので、僕としては稚拙な脚本のセリフを全てその通りに言われてしまい冷や汗もので、変えてくれてもいいのにと(笑)
―――みほの怒りは彼女がアイドルに対する並々ならぬ理想と思い入れがあるからこそ、真剣に取り組んでいると思えない優花に腹が立つ訳で、根がまじめという点は垣尾さんご自身と相通じる気がします。
松本:垣尾さんは普段は小柄で優しい女性なのですが、どこか狂気を感じるんです。何をしでかすか分からないような狂気がみほ役にマッチしているなと思い、当て書きしています。他のキャストの皆さんも、今回映画出演は初めての方ばかりなので、自分とあまりにもかけ離れている役を演じるより、それぞれのキャラクターの中にどこか演者本人と通じるものを入れ込むようにしました。ある程度脚本を書いてから、一度キャストに集まってもらい、即興劇をしてもらう中で、「こういうことを言うのか」という気づきを脚本に入れています。ぽんぽんと女性の本音のようなセリフが飛び交うのも、即興劇で次々キャストの皆さんが言ったことを取り入れました。
■『カメラを止めるな!』上田監督の活躍に背中を押されて、当て書きを決意。
―――女の本音満載のセリフは、そういう方法で取り入れたんですね。どなたか参考にした監督がいるのですか?
松本:『カメラを止めるな!』の上田監督が、それぞれに当て書きしたとおっしゃっていたのはとても大きかったです。昨年『カメラを止めるな!』があれだけ大ヒットをし、それに背中を押されて映画を撮ろうと思った部分もありましたから。実はキャストに集まってもらう際、垣尾さんの事務所の方に「垣尾さんを入れて5人連れて来てください」とお願いしたのですが、6人の役者を連れてきてしまったんです。マネージャーさんは不採用もあるからと余分に連れてこられたのですが、僕の映画に出ていただくために集まってもらったのに、不採用なんてないですから(笑)そこで作ったのが優花や里奈が所属するアイドルユニット「Oh!それミーオ!」のマネージャー役。結果的に、かなり重要な役割を果たしてもらいました。
―――怖さと緩さのバランスという話がありましたが、監禁シーンも怖いながらも笑わせる要素がたっぷりでした。そのチューニングはどうされたのですか?
松本:昼食のシーンで垣尾さんが狂気の演技をした時は、ちょっと怖すぎて大丈夫かなと心配になり、ネコのシーンを入れて緩和させたり、そのバランスはすごく考えましたね。みほの狂気を受け交わす津田さんの演技もバランスをとってくれました。実は、監禁される優花役を津田さんにするかmayuさんにするか、最後まで悩みました。他の役者さんからはmayuさんが監禁される役の方がいいのではないかと言われたのですが、そうなると、監禁された姿があまりにもかわいそうに見えてしまう。津田さんは、ひどいことをされても、アトラクションを楽しむ表情をされるので、怖いとおもしろいの間を表現してくれるのではないかと思いました。
―――優花推しのファン、加藤の細かい描写も、ファンあるあるが満載ですね。
松本:ファンの描き方にはこだわりました。映画で登場するファン(オタク)はステレオタイプで、リュックを背負い、シャツをズボンにインしている感じの描写が多いのですが、僕がアイドルのライブで会うファンの方は街の若者と変わらない格好をされています。衣装の方にも、好青年風でとお願いしました。その中で、少し細かいことを言うだとか、アイドルのテーマカラーにこだわるだとか、セリフや携帯品にリアルさを取り入れています。
■批判をされても残した、100%オリジナルの「ラスト10分」
―――加藤はラストシーンでも大きな存在感をもたらし、本当に阿鼻叫喚で、とても楽しめました。
松本:それが映画でやりたかったことなのです。同じ映画を見ているのに、怖がっている人もいれば、笑っている人もいれば、感動している人もいる。そういうカオスな感じになれば、本当にうれしいですね。
でも、ラスト10分は実は批判が多かったんです。カナザワ映画祭でもラストのクライマックス以降に関しては、審査委員長から「あんなことは、絶対にやってはいけない」と言われましたし、他に編集のもたつきを指摘する声もありました。ご指摘を受け入れるか相当迷いましたが、宣伝の松村さんから「自分で借金をして作った作品だし、公開した時に全ての責任を負うのは松本さんだから」と言ってもらったことが大きかったです。結局108分に編集したバージョンでもラスト10分はそのまま採用しました。というのも、その10分は100%僕のオリジナルで、これがなければ、ただ『ミザリー』をなぞっただけの作品になってしまう。胸を張ってオリジナルと言える10分を見てもらい、その上で出てくるご批判は真摯に受け止め、次につなげようと覚悟しました。
■六甲山発ホラーコメディ、六甲山ネタを随所に込めて。
―――オープニングでは、メインロケ地、六甲山からの初日の出がクレジットや題字と共に登場します。松本監督の覚悟を見た気がしました。
松本:クレジットを最初に入れたのは、途中で帰る人がいるかもしれないと思ったからですが(笑)初めて作った映画ですし、役者も全員初映画出演ですから、初日の出!という感じですね。初日の出の撮影は露出が難しく、カメラの設定具合で明るくなりすぎて色が飛んでしまったり、ポジションもどこから登ってくるか分からない。でも今回じっと見ていると、だんだんとある場所を中心に扇状に明るくなってくることが分かったので、そこだ!と狙いを定めて撮影し、上手くいきました。だから、今年は何かいいことがあるなと思いましたね。他にも、途中で出てくるオルゴールは、六甲オルゴールミュージアムのものですし、みほが捕まえてさばいたというイノシシも六甲山ではよく出没しますから。六甲山観光の盛り上がりに貢献できればと思うのですが、ファミリー層狙いなのでホラーは少し合わないみたいで…。決して怖いだけではないのですが。
■全ては元町映画館から始まった。だからこそ何が何でも満席にしたい。
―――元町映画館スタッフの取り組みから、「みぽらー」と呼ばれるファン醸成に繋がっていったそうですが、その経緯を教えてもらえますか。
松本:まず、元町映画館の林支配人が「神戸の作品を応援します」とDVDをお渡ししてすぐに上映を決めて下さいました。その後、4月にカメラを止めるな!スピンオフの『ハリウッド大作戦!』の上映前に元町映画館の和田さんが予告編を付けて下さり、それをご覧になった方がTwitterで話題にして下さり、そのツィートを見た東京のカメ止めファンの方々がこの作品を見つけてくださって、予告編を拡散してくださいました。それまで全く知らないインディペンデント映画が一気に広がって、みぽらーと呼ばせていただいているファンがたくさんできました。あの日の興奮はまだ覚えています。
さらに、元町映画館前でビラ配りをしていたら、「上映前に舞台挨拶したら?」と声をかけてくださり、全然関係のない作品の上映前に舞台挨拶に立たせていただきました。元町映画館の石田さんがチラシラックを全て『みぽりん』チラシで埋めてくださったツィートで、神戸の他の映画館さんが『みぽりん』のことを知って下さいましたし、広報の宮本さんもお店にチラシを置いてくださったり、本当に元町映画館のスタッフの皆さん、一人一人のおかげで、全てがそこから始まっています。元町映画館さんの手のひらで転がされているような(笑)だからこそ、元町映画館での上映は何が何でも満席にしたい。本当にそれしかないです。
■『みぽりん』で描かれていることは、アイドル業界で本当にリアルな話。
―――最後に、アイドルを題材にした本作の見どころを教えてください。
松本:この映画は、アイドルの人権(恋愛禁止)についても踏み込んでいますが、そこは昔も今も絶対侵してはいけない領域だそうです。今回「Oh!それミーオ!」の楽曲をご提供いただいたアイドル教室様は、「『みぽりん』で描かれていることは本当にリアルな話。グループのメンバー同士がファンを奪うことは日常茶飯事なので、笑えない」と感想をくださいましたが、今の「会いにいけるアイドル」という体制をある意味批判する狙いがありました。ラストのセリフにもそういう思いを込めていますし、地下アイドルをして酷い目に遭っているような人にも見てほしいという気持ちがあります。インディーズ映画を応援してくださる方に加え、アイドルを取り上げているという点に興味を持ってくださる方にもぜひ、作品が届けばと思っています。
<作品情報>
『みぽりん』(2019年 日本 108分)
製作・脚本・監督:松本大樹
出演:垣尾麻美、津田晴香、mayu、合田温子、井上裕基、近藤知史他
2019年9月7日(土)〜元町映画館、9月14日(土)〜シネ・ヌーヴォX、9月27日(金)〜京都みなみ会館、12月21日(土)〜池袋シネマ・ロサ他全国順次公開
公式サイト⇒https://crocofilm-miporin.com/
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