『帰れない二人』激動の中国で辛酸を舐めた男女の行き着く先とは


 ジャ・ジャンクー監督の作品には、中国政府による大規模開発によって仕事や住む場所を奪われた人々が度々描かれるが、今回は2000年以降、17年間にわたる中国の変化を、特に大きな変化を遂げた2001年、2006年、2017年の3時代にスポットを当てて描く壮大なフィルム・ノワールだ。ジャ・ジャンクー監督のミューズ、チャオ・タオが男に裏切られても、一人で道を切り開くタフな女性を熱演。凄みのある演技に圧倒される。そして恋人を演じるリャオ・ファン(『薄氷の殺人』)がみせる男の野心と、身勝手さ、そして窮地でも失わないプライドに、交わらない男と女の悲哀が重なるのだ。  


 舞台となる山西省・大同は、炭鉱の町。遊技場にはヤクザのビンと、その彼女、チャオの姿があった。炭鉱労働者の父が失業するかもしれないとこぼす中、遊技場では景気のいい話も飛び出す。当時の流行曲は日本で80年代に大ヒットした「CHA-CHA-CHA」や「Y.M.C.A.」。賑やかなディスコシーンを交えながら、未来を信じていた若い二人の愛と抗争の日々が描かれる。まさに将来の極道の妻のようなチャオだったからこそ、ビンが襲撃されたとき、引き金を引かずにおれなかった。  


 長く寒い刑務所での日々、ビンの面会もないまま5年が経ち、2006年出所したチャオは、ビンに会うため長江の三峡を客船で下り、奉節を訪れる。船上では、三峡ダムの建築により、もうしばらくすればこの地はダムの底になることがアナウンスされ、ジャ・ジャンクー監督がこの時代、この場所を選んだ意図がひしひしと感じられる。2008年の北京オリンピックを前に、開発が急ピッチで進んでいた時代だ。チャオにとって見知らぬ土地の奉節では、彼女が彷徨うロードムービーのように、ランダムに街のさまざまな場所に足を踏み入れ、私たちもそれを追体験することになる。窮地に陥れば、後ろめたさがありそうな男にカマをかけて詐欺をしたり、全てをなくしたチャオが何がなんでもビンを探し出そうとする執念は、彼女の強い生命力すら感じさせる。ある意味、一番の見せ場かもしれない。


 2017年、山西省・大同の駅はすっかり新しい駅舎となったが、変わらない裏社会があり、チャオも故郷に戻っていた。そして、車椅子が必要な体になってしまったビンもいた。そこにもはや愛はない。でも義理人情はある。見知らぬふりはできないチャオと、自分の状態がもどかしいビンの行方は、もう神のみぞ知るの域かもしれない。すれ違いを繰り返しながら、自分の本当の人生を見つけるまであがくのが人間なのだと言わんばかりに。 18年間に及ぶ長すぎる二人の物語は、中国人の多くが体験した、浮き沈みの人生の証でもある。それでも切れない二人の宿命的な愛を見た思いがした。 





『帰れない二人』(2018年 中国 135分) 

原題:江湖儿女/英題:Ash is Purest White

監督・脚本:ジャ・ジャンクー  (『罪の手ざわり』『山河ノスタルジア』)

出演:チャオ・タオ、リャオ・ファン他

9月6日(金)より、Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!  

公式サイト⇒ http://www.bitters.co.jp/kaerenai/ 

配給:ビターズ・エンド 

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