「萩原みのりが出演しなければ、この映画は作っていなかった」 『お嬢ちゃん』二ノ宮隆太郎監督インタビュー
「なめんじゃねえよ」と言わんばかりに、男たちの理不尽な行動や、女だからというレッテルを貼られた態度に対して、徹底的に立ち向かう。どうでもいい会話が蔓延る世の中で、祖母と二人暮らしをしているみのりと、彼女を取り巻く人々のある夏を瑞々しい映像で描いた秀作『お嬢ちゃん』が、10月26日(土)より第七藝術劇場、今秋より出町座、元町映画館他全国順次公開される。
監督は、前作『枝葉のこと』では主演も務め、高い評価を得た二ノ宮隆太郎。今回は、脚本と監督に専念し、みのりと彼女を取り巻く人々の、共感度たっぷりの物語を緩急織り交ぜて描き出している。みのりを演じる萩原みのり(『ハローグッバイ』)が男たちに立ち向かい、怒りの声を上げる姿にどこか背中を押されたような気分になる青春映画。まだ何にもなっていない彼女たちのもがきや焦りが、ワンシーンワンカットの映像から、じわりと伝わってくるのだ。本作の二ノ宮隆太郎監督に、お話を伺った。
■成瀬巳喜男、ケン・ローチのような、普通の人をきちんと描いている映画が好き。
――――俳優業もされていますが、幼い頃から映画監督を目指していたのですか?
二ノ宮:本格的に映画を見始めたのは中学時代で、高校卒業後、監督を志して映画学校に入学したのですが、すぐに中退してしまいました。それでも映画に携わりたくて、数年後に俳優を志したのです。それでも、一瞬で「やっぱり監督をやりたい」と思い、結局今は監督も俳優もやっています。
――――映画好きになったきっかけの映画はありますか?
二ノ宮:昔の日本映画が好きで、映画好きの継母がたくさん持っていたビデオテープの中から成瀬巳喜男などを見ていました。当時は、「なぜこんなに面白いんだろう」と思っていましたが、今思えば、ちゃんと人間を映しているという感じがすごくしたんでしょうね。他にも映画であれば何でも見ている頃でした。特にケン・ローチは初期作品からずっと見ています。普通にいる人を描いている映画が好きです。
――――『お嬢ちゃん』も本当に普通の人を描いている作品ですが、最初からこのような物語を想定していたのですか?
二ノ宮:女の子を主人公にしようとは考えていました。今までは男性がメインの作品でしたから。(女性が本音を赤裸々に語るシーンは)自分の思いもあるのですが、今まで自分が生きてきて、色々聞いた話の中から、書いた感じですね。
■初対面で他の女優にはない魅力を感じた萩原みのり。「絶対いい映画を作るから、出てもらわなければ困る」
――――主演の萩原みのりさんをオファーした経緯を教えてください。
二ノ宮:スカパーのドラマ『I”s(アイズ)』(豊島圭介監督)に萩原みのりさんがメインキャストで出演され、僕は1、2シーンの役で出演していたんです。打ち上げ会場で、豊島監督に萩原さんを紹介していただいたのが初対面でした。その時は容姿がいい子だなと(笑)他の女優さんにはない魅力を感じました。
――――ファーストインプレッションは、映画に出てくる男性陣と全く同じですね(笑)主人公みのり役はオーディションなしでそのままオファーされたのですか?
二ノ宮:自分の前作『枝葉のこと』の観てもらいたくて、色々な方にご案内を差し上げた中、萩原さんはすぐに映画を観てくれたんです。ちょうどこの映画の企画を考えていた時期と重なったこともあり、みのり役は萩原さんしかいないと思いました。彼女の出演が決まって、この映画が本格的に動き出した感じです。
――――企画段階の作品のオファーを快諾するのは、特に初タッグの場合は勇気が要るのではないかと思いますが、どうやって説得したのですか?
二ノ宮:情熱ですね。脚本は書けていないけれど、逆に萩原さんが出演してくれなければ、この映画は作っていませんでしたから。「絶対いい映画を作るから、出てもらわなければ困る」という感じでしたね。
――――この作品では、みのりは常にクールな表情で、世の中の不条理に真っ向から立ち向かいます。
二ノ宮:何かの影響を受けているから、みのりはこういう性格になっていることもあり、父親との間に何らかの確執があった設定にしています。モデルがあるとするならば自分の実姉になります。撮影前には、相手のことをじっと見るように伝えました。歩くのは、映画を形成するのに重要なシーンです。結構速いスピードで歩いてもらいました。
――――萩原さんがみのりを演じて、どんな感想をおっしゃっていましたか?
二ノ宮:全てをかけて演じてくださったので、完成後も普通には見ることができないとおっしゃっていました。ただ、この映画での萩原さんの評判は素晴らしいですから、それは感じていらっしゃるのではないかと思います。
――――みのりが心を許す友人の理恵子は、みのりと真逆な性格ですね。自己主張はしませんが、怒りに満ちたみのりをいつも受け入れる心の広さがあります。
二ノ宮:みのりと親密な存在であり、後半のみのりと理恵子、二人で公園で話すシーンには自分が描きたかったことが詰め込まれています。
■普段自分が隠している部分を、映画に託して。
――――フライヤーにも書かれた、みのりが言い放つ「どいつも、こいつもくだらねぇ」は、監督自身も感じることがある言葉ですか?
二ノ宮:もちろんあります。でも、自分に顧みるとどうなのか、ということですよね。普段自分が隠している部分を、映画に託しています。映画を作る人間は、大概そうなのではないでしょうか。
■初めて監督業に専念。生まれ故郷、鎌倉での映画撮影は念願だった。
――――初チャレンジということで、女性主人公の映画を作るのは、大変でしたか?
二ノ宮:それだけではなく、今まで全作品に自分が出演していましたが、今回初めて監督だけだったので、それも挑戦でしたね。俳優と監督を両方やっている時は、中途半端になっている瞬間があるのではないかと懸念し、監督一本に絞った方がいいと思ったのですが、実際にやってみると、映画に対してどちらがいいのか分からないなというのが本音です。
――――逆に言えば、やはり演じるのも好きだということですね。
二ノ宮:そうですね。監督したり、監督しながら出演するときは、とにかくいい作品を作りたいという思いが強いですし、役者として他の監督の作品に出させていただくときは、貢献しなければという気持ちになります。いいものを作りたい、それに尽きますね。
――――この映画の舞台は鎌倉ですが、いわゆる観光地らしい場所は出てきませんね。私は鎌倉ビールのオーダーで初めて気付きました。
二ノ宮:自分の生まれた場所が鎌倉で、みのりが働いている甘味処は自分の親戚のお店なんです。いつかは絶対に鎌倉で映画を撮りたいと思っていたので、鎌倉が舞台であるという設定を決めてから、脚本を書きました。
――――撮影は前作に続き四宮秀俊さんですが、ワンシーンワンカットが非常に印象的です。
二ノ宮:次回作はどうなるか分かりませんが、今までもワンシーンワンカットで撮ってきましたし、脚本段階からそれを想定して書いています。空間を割りたくないし、現実的な人間を見せたいという思いからやっていますね。本作に関しては、最初からアップは撮らないと決めていました。
■「人生ってそんなもの」だから、物語の中での文脈的な回収はしない。
――――男3人組が何パターンか登場し、くだらない会話に見えるけれど、中に何かが潜んでいる描写が多いですね。
二ノ宮:一見、みのりと関係がないように見えますが、そうではありません。みのりがいたからこそ、彼女が働いているカフェに食事に行きますし、連絡先を聞いて断られては、家で悶々としたりもします。家で悶々とするシーンを描いた男は、その後映画には登場しません。細かいところに伏線を張り巡らしてはいますが、物語の中での文脈的な回収をしないというのも、この作品でやりたかったことです。結局人生ってそんなもんですよね。そんなに偶然会うことなんてないですし。映画なのだから運命的な描写をというご意見もあるのですが、自分はこうしたかったんです。
――――ヒロインの存在が見るものを引っ張ることになる訳ですね。
二ノ宮:みんながいるから、みのりは生きていけるわけですし、みのりがいるから周りが影響されていくのです。
――――『お嬢さん』ではなく、『お嬢ちゃん』というタイトルも独特のニュアンスを醸し出していますが、そこに込めた思いは?
二ノ宮:色々な思いでつけましたが、みのり、彼女は「お嬢ちゃん」なのか?「お嬢ちゃん」じゃないのか。このタイトルしかなかったです。途中一回『みのり』に変更しようかな?と萩原さんに言ったら「絶対止めてください!」と断言されました(笑)
<作品情報>
『お嬢ちゃん』(2018年 日本 130分)
監督・脚本:二ノ宮隆太郎
出演:萩原みのり、土手理恵子、岬ミレホ、結城さなえ、廣瀬祐樹、伊藤慶徳、寺林弘達、桜まゆみ他
2019年10月26日(土)〜第七藝術劇場、今秋〜出町座、元町映画館他全国順次公開
※10月26日(土)第七藝術劇場 19:10の回 舞台挨拶予定。
登壇予定者:萩原みのりさん、二ノ宮隆太郎監督
※10月27日(日)シアターセブンにて二ノ宮隆太郎監督 演技ワークショップ開催。 11/2(土)・3(日)限定上映
※11月2日(土)・3日(日) 第七藝術劇場にて二ノ宮隆太郎監督作品『枝葉のこと』限定上映。
公式サイト→http://ojo-chan.com/
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