寡黙な主人公に惹き込まれるヒューマンドラマに注目!〜第15回大阪アジアン映画祭『ノーボディ』『写真の女』『コントラ』
3月6日(金)から3月15日(日)までの10日間開催中の、第15回大阪アジアン映画祭(OAFF2020)。その中から、寡黙な主人公(登場人物)から目が離せない作品を紹介したい。
■台湾映画『ノーボディ』(3/12、15上映)
まず1作目は、台湾映画『ノーボディ』Nobody [有鬼]。今までアニメーション映画の分野で高い評価を得てきたリン・チュンホア監督の劇映画が世界初上映される。
主人公は、いつもきちんとしたテーラードのスーツに身を包み、決して誰としゃべることもなく、日々バスに乗ってでかけては帰ってくる一人暮らしの老人。誰も名前さえしらない。廊下だろうが、バスの中だろうが平気で唾を吐き、周りの注意にも耳を貸さないような老人だが、そこまで頑なに他人を拒む裏に一体何があるのか。老人の過去を知りたい気持ちにかられるのだ。そんな老人が、些細なきっかけから、女子高生と出会い、長年誰も入れることのなかった自宅へ無理やり上がり込まれる羽目になる。ご近所の人間模様や、女子高生の家族模様など、登場人物たちの人間臭さや俗っぽい部分が描かれる分、少しずつ女子高生に心を開きながらも、過去に愛した人の面影を今も追い続ける老人の葛藤が静かに浮かび上がり、更に自分らしく生きることの難しさを突きつける。二人の関係を揶揄する周りの人間に、現代社会の不寛容さを痛感しながらも、行き場のない老人と女子高生の絆にかすかな光が見えるのだ。人の心を閉ざさせるのも人間ならば、その閉じた扉を開くきっかけを与えるのも人間。粛々と生きてきた老人の強い意思を持つ眼差しが最後まで心に残る作品だ。
■日本映画『写真の女』(3/9、12上映)
もう一つ、世界初上映の日本映画から、短編映画で高い評価を得てきた、大阪出身串田壮史監督の初長編作『写真の女』。主人公は、親の写真屋を継ぎ、今は一人で写真屋を営んでいる械(永井秀樹)。今は、写真を撮るより、持ち込み写真を客の言う通りにデジタル加工するリタッチャーとしての仕事の方が多い。家で飼っているカマキリに愛情を注ぎ、休日に山で昆虫の写真を撮るのが好きな寡黙な男が、木の上で流血している女、キョウコ(大滝樹)に出会って・・・。女性恐怖症の男と、インスタグラマーの女。こちらも日常生活の中では、一切関わりあうことのなかった男女が、偶然に出会うことから物語が大きく進展し、映画の世界観が広がっていく。男の日常生活を丁寧に描くことで、言葉にしなくても彼が長年、嗜好や生活スタイル、生活空間を変えることなく、一人でひたひたと生きてきたことが伝わってくる。過去に多くのアジアの逸材を日本に紹介してきた、大阪アジアン映画祭の暉峻創三プログラミング・ディレクターが「未来のポン・ジュノ」と絶賛した才能は、その絵作りや、現代社会を鋭く捉えたストーリーテリングからヒシヒシと感じられる。個人的には、キム・ギドク的センスを兼ね備えた逸材だと感じた。そして、「もっと、もっと・・・」とリタッチやフォロワー増加に囚われる女たちの姿は、サイレント時代のドイツ表現主義映画における代表作『カリガリ博士』(1920)に通じる強迫概念を映し出すのだ。
■日本映画『コントラ』(3/12、13上映)
寡黙さに惹かれるシリーズ最後は、既にエストニアの第23回タリン・ブラックナイト映画祭でグランプリ、最優秀音楽賞のW受賞を果たし、世界も認めた日本在住、インド人監督アンシュル・チョウハンの長編第2作『コントラ』。
本作の主人公は地方都市で父と二人暮らしの女子高生だが、寡黙な男がセンセーショナルに登場し、後ろ向きに歩くという非常に特徴的な動きも兼ね備えている。まさに、寓話的存在なのだ。女子高生が亡くなった祖父の戦中日記を見つけ、それを紐解くところからはじまる物語には、かつての戦争への思いだけではなく、寡黙な男が加わることで、気持ちが通じ合えなかった父と娘の関係にも変化が生じ、疑似家族のような局面も訪れる。ただ、そこは音楽賞を受賞した地鳴りのするような音楽が、常にゾワゾワとモノクロの映像にこだまし、独特の世界観を作り上げるのだ。主人公を演じた円井わんは、まだ若いが堂々たるパンチの効いた演技を見せ、チョウハン監督の初長編作『東京不穏詩』(OAFF2018)で最優秀女優賞を受賞した飯島珠奈に負けないぐらい、強い印象を残す。ゾクゾクするほどカッコいいラストカットもお見逃しなく。
チケットは絶賛発売中 ↓
ABCホール、シネ・リーブル梅田上映分:全国のぴあ店舗、セブン‐イレブン
梅田ブルク7上映分:KINEZO及び劇場窓口にて販売
前売券:1,300円、当日券:1,500円、青春22切符:22歳までの方、当日券500円
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