小さなコミュニティで生きる若者たちの葛藤を、緊張感たっぷりに描く異色群像劇。 『ある殺人、落葉のころに』三澤拓哉監督、中崎敏、森優作、永嶋柊吾インタビュー

  第15回大阪アジアン映画祭で、インディ・フォーラム部門の三澤拓哉監督作『ある殺人、落葉のころに』が日本初上映され、見事JAPAN CUTS Awardに輝いた(インディ・フォーラム部門の日本映画を対象に、米国ニューヨーク市のジャパン・ソサエティー<日本映画祭「ジャパン・カッツ!」主催団体>がエキサイティングかつ独創性に溢れると評価した作品に授与)。長編デビュー作となる『3泊4日、5時の鐘』が2015年の同映画祭でコンペティション部門に入選して以来、5年ぶりの入選作となる。

<授賞理由>
腐敗した小さな町、男特有の毒性、若者の不安をひるむことなく描き切った『ある殺人、落葉のころに』は極めてよく作り込まれた物語として、インディ・フォーラム部門の中でも際立っていた。三澤拓哉監督のストーリー構築に対する鋭い目と映画言語の卓越した手腕が存分に発揮されている。潔く大胆でありながらも完成度の高い本作は、三澤監督の今後の作品はもとより、日本インディペンデント映画のダイナミックかつ重要な表現の将来性について、大いに期待を抱かせるものである。『ある殺人、落葉のころに』にJAPAN CUTS Awardを授与できることを光栄に思う。


  前作は湘南・茅ヶ崎を舞台としたひと夏のバカンス物語だったが、本作は湘南・大磯を舞台に、俊(守屋光治)、知樹(中崎敏)、和也(森優作)、英太(永嶋柊吾)という幼馴染4人の人間関係が複雑に絡み合う群像劇だ。和也の父が経営する土建屋で働く4人の関係性が、様々な事情から歪んでいく姿は、現代の忖度社会の縮図のように見える。狭い社会の中での力関係や、タガが外れていく瞬間を抑えた筆致で描く一方、日常の中にある不穏な瞬間を的確に捉え、テンポよくインサートしていく。終始不穏な雰囲気を纏わせる、ベースによる映画音楽も非常に印象的だ。和也の叔父の未亡人で、俊と逢瀬を重ねる女を演じる堀夏子(『3泊4日、5時の鐘』、キム・ギドク監督『STOP』)、義母の介護に疲弊している和也の母を演じる成嶋瞳子(橋口亮輔監督『恋人たち』)の存在感が群像劇をさらに奥深いものにしている。

 香港版『十年』のウォン・フェイパン監督と共同プロデュースに至った経緯や、それぞれが演じた役について、本作の三澤拓哉監督、出演の中崎敏さん、森優作さん、永嶋柊吾さんにお話を伺った。



――――ウォン・フェイパン監督と出会ったのは釜山国際映画祭(以降BIFF)だったそうですが、共同プロデュースに至った経緯を教えてください。

三澤:2015年、 BIFFにアジアンフィルムアカデミーというプログラムがありました。アジアから24人の若手映画制作者が参加し、3週間で短編を撮るというもので、日本からは僕が、香港からフェイパンさんが参加し、同じチームでお互い監督志望者として映画を作ったのが出会いです。そこでも色々な意見を交わしたのですが、2016年、フェイパンさんが『十年』で大阪アジアン映画祭(以降OAFF)に来場した時、僕はおおさかシネマフェスティバルで新人賞を受賞し、同時期に大阪にいたので連絡を取り、飲み明かしながら、一対一で色々な話をすることができたのです。2017年にもフェイパンさんが日本に滞在した時期があったのでコミュニケーションを取り合いながら、秋に映画を撮るつもりで脚本を準備していることを伝え、フェイパンさんに思い切って共同プロデュースをオファーしました。


■共同プロデューサー、フェイパン氏の人脈、アドバイスを取り入れて(三澤)

――――なるほど。4人の同級生、槇原役で、『中英街一号』(OAFF2018グランプリ作)や『花椒の味』(OAFF2020)のロー・ジャンイップさんも出演されていますね。

三澤:ロー・ジャンイップさんやカメラマンのティムリウ・リウさんも、日本に短期滞在していたフェイパンさんを訪れていたので、その時紹介してもらい、一緒に箱根の温泉に行ったりしましたね(笑)フェイパンさんを通じて出会った香港人スタッフやキャストを招いて作っています。


――――最初から一緒に企画したのではなく、三澤監督の脚本を元に、日本・香港の合同スタッフで作り上げたということでしょうか。

三澤:ただ、彼らが加わってから脚本を書き直しましたし、テイストも大分変わりました。ロケ地は大磯で、4人の20代男性の話という基本設定はあったのですが、実質的には仕切り直しをした形です。


――――前作とロケ地は似ていますが、より社会派で、実生活に根ざした物語になりましたね。

三澤:映画を通して社会に問題提起することを前作以上に意識して今作の制作に臨みました。例えば、和也の口利きによって和也の家族が経営する会社に他の3人が入社することでそれまでの友情関係に雇用者と被雇用者という関係が覆いかぶさってくる。あるいは、4人のホモソーシャルな関係に英太の恋人である沙希(小篠恵奈)が入ることで、登場人物たちやその土地が持つ歪んだ女性に対する視線が浮かび上がってくる。この映画で映されるそれぞれの問題は実際に私が生きるこの社会と響き合うものだと思っています。


――――フェイパンさんらが加わり、仕切り直したことで、どのように路線変更をしたのですか?

三澤:僕自身はもっと抽象的な話を作ろうとしていたのですが、フェイパンさんからは、登場人物それぞれのドラマをしっかりと組み立てた方がいいとアドバイスされました。「登場人物たちの葛藤がしっかりと描かれなければ、抽象的なものは伝わってこないから、あまり頭で考えないで」と。路線変更したことで、要所要所の人間ドラマが、引き締まって描かれているのではなかと思います。


■森優作と永嶋柊吾は満を持してのオファー(三澤)

――――『3泊4日、5時の鐘』で主演を演じた中崎敏と再タッグを組んでいますが、森優作さん、永嶋柊吾さんのキャスティングの経緯を教えてください。

三澤:森優作さんとの出会いも、まさしくOAFFなんです。僕が『3泊4日、5時の鐘』で参加した2015年に、森さんも『野火』(塚本晋也監督)の出演者として参加していて、ウェルカムパーティーの時、森さんから宣伝用の『野火』ポストカードをいただいたのがきっかけでした。その時は挨拶程度でしたが、それから作品を見たり、テレビでの活躍もずっと追っていたのです。これは3人ともに共通することですが、キャスティングをする際に、僕とコミュニケーションを取れるかがとても大事で、脚本についてきちんと話せるか、それも決め手になります。実際に、脚本も書き直して当て書きのようにしていきました。

永嶋柊吾さんは日本映画大学の同級生で偶然同じクラスだったので、それから永嶋さんの舞台を最初は友達づきあい感覚で観に行っていました。でも、だんだん演技が変わっていくのが分かるぐらい、今は自分の全観劇人生の半分以上が永嶋さんの舞台という感じで、(笑)イマジネーションやインスプレーションを湧かせてくれるので、「こういう役をやったら面白いんじゃないか」と、当て書きをしたくなる俳優なのです。いつかは一緒に映画を作りたいと思っていたので、満を持して、こういう形でオファーさせてもらいました。


――――幼馴染の4人という役ですが、役作りのためにフェイパンさんからアドバイスがあったそうですね。

三澤:撮影現場に4人が幼馴染みとして来てもらうにはどうすればいいか、と彼に相談をしたら「4人で銭湯に行ってもらおう」とアドバイスをもらいました。形式的にであっても密な関係になるセッティングをしてそれぞれの役が過ごしてきたであろう時間を埋める作業をしてもらうのが意図です。実際、幼馴染みが互いの裸を見ていないのはおかしいだろう、と(笑)撮影前のリハーサル時は台本の読み合わせ以上に銭湯に行ってもらったり、4人で食事をしてもらったり、そうした時間を作るよう心がけました。


――――中崎敏さんは、三澤監督作に連続で出演されていますが、前作との現場の違いは?

中崎:前作は3ヶ月ぐらいあった準備期間の段階から参加し、制作の経過を見ていたので、作品の雰囲気を掴みやすかったのですが、今回は気づいたら現場入りという感じで、前作に比べると現場での準備期間が少なく、俳優として現場に入らせていただいたという形です。


■常に周りに影響を受けながらバランスを取るキャラクター(中崎)

――――土建屋のガレージで寝泊まりしながら、常に和也の手下のように生きる知樹役をどのように解釈して演じたのですか?

中崎:役的には難しいのですが、前作の知春役も今回の知樹も、周りに振り回されていますし、知樹はより他人に合わせている面が強い役です。自分が何を感じているかをしっかり持って打ち出すキャラクターではなく、常に周りに影響を受けながらバランスを取るキャラクターなので、そんなに考え込まず、現場でその時ごとに対峙する相手に反応していく形でしたね。ただ、4人でいる時の立ち位置はふわふわしていて掴み所がないなと、今日観客として映画を観て、改めて感じました。


――――俊と常に行動を共にしようとするあたり、知樹の複雑な思いが込められていました。

中崎:そうですね。それに加えて、このコミィニティの4人が今、まとまっていられることを考えると、守屋光治さんが演じる俊が一番いなくなってしまいそうな不安分子で、それを引き止めるのが自分の役目と思っているような人物でもあるのではないでしょうか。


■現場の会話は英語で進むのが新鮮、こだわりを持たないキャラクターは当て書き(永嶋)

――――永嶋柊吾さんは、10代から俳優として活躍しておられ、キャリアも長いですが、逆にこのような香港人スタッフ・キャストと一緒になって作る現場は新鮮だったのではないですか?

永嶋:英語が話せないのが僕だけで、現場の会話は英語で進むことがほとんどだったので、何を言ったのか、周りに聞いていましたね。そういうことがすごく新鮮でしたね。後は、三澤家のバックアップがすごくて、本当に助けてもらいましたね。


――――永嶋さんが演じる英太は唯一、彼女がいる役でもあり、和也の言いなりになるキャラクターです。

永嶋:こだわりを持たないというのは、多分当て書きされたのかなと思うのですが(笑)「そう思うなら、そうだよ」という部分はとても共通しているところだったので、彼女が苦境に陥った時も、納得していないのは分かっていながら…という感じでしかいられない男なんです。中崎君とほぼ同じで、演じる時はその場で相手の目を見てという形がほとんどでしたね。


■自分を守ろうとする力がとても強い役、出来上がった作品を観て「こんなに重い役を演じていたのか」(森)

――――森さんは『野火』でスクリーンデビューされた後、NHK朝ドラに続けて出演され、ほっこりとしたいい人イメージがついたかと思いきや、この作品ではまたダークサイドを見せてくれましたね。ボス的存在ではありながら、複雑な事情を背負う和也役演じた感想は?

森:出来上がった作品を観て、こんなに重い役を演じていたのかと再発見しました。台本を頂いた時、最初は俺が演じるのか?と思ったんです。でも、和也は孤独で、自分を守ろうとする力がとても強い役だったので、その気持ちは自分の中にもすごくあるなと感じたのです。そこを手掛かりに役作りをしながら、後は二人と同様に現場で…。

三澤:みんなすごく優しく言ってくれていますが、実際の現場はかなり過酷で、相当迷惑をかけていたと思います。でも皆前向きな姿勢で、香港スタッフと共に取り組めたのは本当に良かったです。


■今にも爆発しそうな緊張感をギリギリのところで保つ作品(中崎)

――――現代社会の縮図のような話に、様々な日常の瞬間がインサートされ、脚本を読んだり、撮影だけでは予想のつかない出来上がりになっているのではないかと思いますが。

中崎:僕は釜山国際映画祭で三澤監督と一緒に世界初上映を観たのですが、監督からある程度変わっているよという前振りはありながらも、いざ観たら、ずっと今にも爆発しそうな緊張感があり、ずっと見入ってしまう状態で、ギリギリのところを保っているところが面白かったですね。まだ観ていない二人にも「楽しみにしていてください」と伝えました。


永嶋:中崎さんに感想を聞いたら「いやぁ」とばかり言うので(笑)いざ観ると、高い位置での緊張感がずっとあり、自分のことを差し置いても、本当に面白いな思いましたし、すごく新鮮でした。


森:めちゃくちゃ面白かったです。観た人が、その人の考えや感性を持ち帰れるような作品になっていると思います。ベースの音楽がすごくカッコ良いんです。音楽を始める人って、普通エレキギターを手にすることが多いので、ベースの良さにあまり気づかないと思うのですが、そんな隠れた底支えをするベースのように、何度もこの作品を観ていただいて、その良さを味わってもらえたらと思います。


――――なるほど、確かに一度観ただけでは消化しきれず、何度でも観たくなる作品です。見事に人間の負の感情がジワジワと露わになりますね。

三澤:実際、作りながら、自分が作りたいものを構築していく感じでしたね。撮り終わり、編集している時も、最初OKテイクだけを並べるとさらっと終わってしまったのです。ただ、それぞれのカットの中に不穏な瞬間や、バイブレーションが起きている瞬間があり、物事を起こっていることをその通りに受け止められない何かがあるのではないか。そういうことに気づき、そんな瞬間のカットも繋ぎ合わせながら今の形になっていきました。


――――日常の中の不穏な瞬間が、見事に、そして美しく捉えられていました。最後に、キャストの皆さんが一番好きなシーンを教えてください。

中崎:後半、ある出来事が起きた後、和也と英太がやりとりするシーンの和也の目線や、英太の言えないもどかしさが、無茶苦茶好きですね。物語がきちんと進んでいる。現実の瞬間を見ているという感じがしました。


三澤:あのシーンで、映画がぐっと引き締まったと思います。


永嶋:芝居という感じがするというか。僕が今日、日本初上映を見て笑いそうになったのは、その深刻なシーンの後の知樹のセリフで、そのアホさ加減に「ちゃんとせえ!」と言いたくなりました(笑)。


森:僕は、和也と知樹があることに手を染めようとするシーンで、二人がタバコを吸いながら話をしている時の、煙の行方にハッとさせられました。狙ったわけではないと思いますが、煙の方向って、全て感情と同じなんです。自分の中でもどかしさを感じながら喋る時は、タバコの煙が後ろに向かっていく。あのシーンで和也と知樹が「分かった」と意見を一つにした時は、お互いの煙が相手に向かい、交差する。それにワッと思いましたね。

(江口由美)


<作品情報>

『ある殺人、落葉のころに』“The Murders of Oiso”

2019年/日本・香港・韓国/79分

監督・脚本:三澤拓哉

プロデューサー:三澤拓哉、ウォン・フェイパン

出演:守屋光治、中崎敏、森優作、永嶋柊吾、堀夏子他