元町映画館×クリエイター「はじまる前の約1分」マナーCMが11/16よりスタート! 企画の朝野ペコさんに聞く、映画館におけるクリエイターの可能性。


 この8月21日に10周年を迎えた元町映画館で、5人のクリエイターが映画上映前のマナーCMを制作、1週間ごとにリレー上映する元町映画館×クリエイター「はじまる前の約1分」マナーCMが11月16日(月)よりスタートする。


 この企画を発案、主催しているのは、同館開館以来スケジュールチラシの表紙イラストやスタンプカード、周年記念グッズ(Tシャツ、サコシュ)のデザインを手がけるイラストレーターの朝野ペコさん。今や雑誌や書籍の表紙、イラストをはじめ、企業CMやイベントビジュアルなど、人気イラストレーターとして活躍している朝野さんは、イラストレーターとしてのデビュー当時から元町映画館にボランティアとして携わっている。元来映画好きで本サイトのTOP画像も担当していただき、映画からインスピレーションを得たイラストやイラスト展も開催している朝野さんに、元町映画館と歩んだ10年間を振り返っていただきながら、マナーCM企画を通してみえる映画館におけるクリエイターの可能性についてお話を伺った。



――――gallery COLOR(神戸市中央区、閉店)やコフクカフェ(神戸市栄町、2012年閉店)で朝野ペコさんが個展を開いた時、私も伺い、すぐファンになりました。あれがペコさんとの出会いでしたね。

朝野:25歳の時に1年間、神戸gallery Vie絵話塾のイラストレーションコースに通ったので、卒業後の時期にgallery COLORやコフクカフェで個展を開きました。元町映画館のお手伝いをするようになったのもそれとほぼ同時期です。

子どもの頃から絵描きになりたいという夢があり、高校はデザイン学科に進んだのですが、現実感のある夢ではなかったです。そのまま自分でお金を稼ごうと就職したもののずっと絵描きのことが頭にありました。高校時代のような絵を描く人が周りにいる環境を取り戻したいと思い、会社を辞めた後、前述のイラストレーションコースに入ったんです。


――――ペコさんはどういうきっかけで元町映画館のビジュアルを手がけるようになったのですか?

朝野:最初は元町に新しい映画館ができ、ボランティアを募集している新聞記事を見つけたのがきっかけですね。連絡すると、初代支配人の藤島さんからイラストが書けるならと、スタンプカードのデザインや、月間スケジュールのイラストを頼まれたんです。今こそB5サイズ全面の大きさですが、当時はもっと小さな挿絵を描かせてもらっていました。




■元町映画館スケジュール用イラストが目に止まり、仕事のチャンスが生まれる。

――――ペコさんのイラスト入り月間スケジュールは私も楽しみの一つです。開業以来10年間ずっとボランティアで担当し続け、元町映画館のアイコンにもなっていますが、このスケジュールチラシがきっかけで、仕事のチャンスが生まれたことはあったのですか?

朝野:スイッチ・パブリッシングが発行している文芸雑誌「MONKEY」のアートディレクターが、私が元町映画館のスケジュール用に書いたイラストをツイッターで見て、保管していたそうです。3年ぐらい前ですが、映画特集の時、私にイラスト依頼をしてくださり、とてもうれしかったですね。10年もスケジュールチラシのイラストを描いていると、「元町映画館のチラシの人ですよね」と声をかけられることもあって、それもうれしいことです。




――――ペコさんはチラシのイラストだけでなく、ホドロフスキー特集の時に、元町映画館2階でボドロフスキーイラスト展を開催しましたね。10周年記念で上映されたドキュメンタリー映画『まわる映写機 めぐる人生』の元町映画館取材シーンでは、支配人の林未来さんがペコさんのホドロフスキーイラスト展をバックにインタビューに答えていました。

朝野:ちょうど未来さんが支配人になり、ダンスホールだった2階が空きテナントになったので、元町映画館が2階も借りて内装をし終わったぐらいのタイミングだったと思います。ホドロフスキーは元々観ていましたし、最新作『リアリティのダンス』公開に合わせて、開催しようということになりました。


■イラストレーション年鑑の表紙を担当したのが大きな転機に。

――――今は多くの仕事を手がけるペコさんですが、転機を迎えたのはいつ頃ですか?

朝野:先ほどの文芸雑誌「MONKEY」映画特集でイラストを描いたのがまず転機になりました。当時はほとんど仕事をしていなかったのですが、「MONKEY」は本好きやイラスト好きにはすごく人気のある雑誌なので、そのイラストを見て、仕事のオファーを下さった方もいらっしゃいました。また19年に「イラストレーションファイル」というイラストレーション年鑑の表紙を担当しました。これはデザイナーや出版社に配られるものなので、その影響も大きかったと思います。いつも「なんで?」と思うぐらい、自分が少し頑張らなければいけない仕事を継続していただけるのは、すごくラッキーだと思いますね。見てくれている方がきちんといるということが実感できて、ありがたいです。



■映画館休館時も「CMは作る」と腹をくくって。

――――元町映画館×クリエイター「はじまる前の約1分」マナーCMは映画館10周年を記念したペコさん発案の企画だそうですが、11月16日(月)から約1ヶ月の公開がきまりましたね。

朝野:1週間ごとに違う作家のCMが流れるようなマナーCM企画を10周年企画として未来さんに提案してみたら「やって!やって!」と二つ返事でOKをいただきました。今、元町映画館をはじめ関西のミニシアターで流れているばくー(和田淳さんイラストの映画大好き「ばくー」とその仲間たちによるマナーCM)のCMは1分半ぐらいですが、今回は1分以内にしています。緊急事態宣言発令後、元町映画館が臨時休館した時はすでにプロジェクトが進行していたので、作家さんに迷惑をかけられないと再度話し合ったのですが、皆やると言ってくれたのはうれしかったですね。当時は元町映画館の営業再開時期がわからなかったけれど、CMは作ると腹をくくってやっていました。5月末に営業再開してからは、他メンバーと相談し、今の映画館の状況に合わせる形に変えていきましたね。


――――アニメーションを作るのは作画が大変なのでは?

朝野:特に決まりはないので、すごくアニメーションっぽくする必要もないんです。人によっては立体作品もあり、そうなるとコマ撮りになりますよね。映画館で作家が作品を上映するのは面白いなと前から思っていたので、今回はそれが叶いました。


――――そのアニメーションを映画館で見せるのは、クリエイターの皆さんにとって新たな挑戦でもありますね。

朝野:雑誌を見た人が文章を読んでいて、たまたまイラストに目を留めるように、映画館に映画を観に来たお客様が、たまたまマナーCMを観ていただける。映画が始まる前にちょっと楽しんでもらえたらという思いがあります。


■隙間時間を楽しんでもらうコンセプト、横への広がりの可能性も模索していきたい。

――――マナーCMも映画館各館の個性が出ますから、今回の取り組みはクリエイター界で話題になるかもしれません。

朝野:この企画の一番のテーマは「隙間時間を楽しんでもらう」ということです。本編が始まる前の数十秒で展開できるエンターテイメントを考えています。それをきっかけにご来場くださる方が増えれば嬉しいですし。他館で希望があれば、巡回上映できるかもしれませんし、横への広がりの可能性も模索していきたいです。



元町映画館×クリエイター「はじまる前の約1分」

〈参加クリエイター〉

朝野ペコ

北浦和也

Kenny Pain

しんご

ミヤザキ

〈会場提供・協力〉元町映画館


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