人気活動弁士、大森くみことタッグ、「ジャムの月世界活弁旅行」で楽しさを体感して! 活弁映画『I AM JAM』監督・主演辻凪子さんインタビュー
無声映画の時代、映画は活動写真と呼ばれ、日本の映画館では弁士による語りと生演奏付き上映というスタイルが定着し、大人気を博していた。昨年公開された映画『カツベン!』でも若き活動弁士の奮闘ぶりが描かれていたが、最近は若手活動弁士や楽士が往年のサイレント映画の名作に語りや伴奏をつける活弁ライブが開催され、新たに活弁ブームが起きそうな兆しが見えている。
ライブ上映の元祖と言える活弁公演を新作で実現させようと、俳優だけでなく映画監督としても評価の高い大阪出身の辻凪子と関西を拠点に活動している人気活動弁士の大森くみこがタッグを組み、活弁映画(活弁ありきの無声映画)『I AM JAM』を製作するプロジェクトが発足。12月31日まで映画製作費の支援をクラウドファンディングで募集中だ。
映画製作を前に活弁の魅力を新しい切り口を交えて紹介する第一回活弁公演「ジャムの月世界活弁旅行」が11月14日に元町映画館、11月15日にシネ・ヌーヴォにて開催される。伴奏者に元町映画館は天宮遥さん、シネ・ヌーヴォは鳥飼りょうさんを迎え、活動弁士の大森くみこだけでなく、辻凪子もジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』で活動弁士デビューを果たす。辻の共同監督作『ぱん。』は無声にし、大森と辻とのダブル活弁という新しい試みも。上映後のアフタートークでは、映画チア部の高橋桂乃子(元町映画館)、俳優の土井志央梨(シネ・ヌーヴォ)を迎え、撮影準備中の『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』見どころも紹介予定だ。
活弁映画『I AM JAM』製作プロジェクト、監督・主演辻凪子さんと、企画・プロデューサーの岡本建志さんに、お話を伺った。
■『Mr.ビーン』とコメディが大好き。ゼミ作品で世界に笑いが届いた体験も。
――――NHKの朝ドラなどテレビドラマに出演される一方、監督作も高い評価を得ている辻さんですが、その原点は?。
辻:小さい頃から『Mr.ビーン』とコメディが大好きで、人前でしゃべると泣いてしまうような引っ込み思案でしたが、どこかで人を楽しませたいという気持ちがありました。中学時代に、全校生徒の前で演劇「桃太郎」のお付きの犬役を演じた時、鬼退治の前に宣誓するというくだりで金曜日というセリフを、当時流行っていたお笑いコンビ、麒麟の川島さんの口ぶりで「Friday!」と勢いよく言うと、全校生徒が一斉に湧き上がったんです。日頃はしゃべるのが苦手でも、役に入り込むと全然恥ずかしくなかった。自分の殻が剥けた感じでした。高校を選ぶ時もお芝居がやりたくて、芸能文化科がある東住吉高等学校に進み、大学では映画を学ぼうと京都造形芸術大学(現京都芸術大学)映画学科に入学しました。
――――学生時代はどんな映画を撮ったのですか?
辻:2回生の時、ゼミで映画を作る機会があり、企画が通ったので自分で脚本・監督をすることになったのですが、主演を探していた時に担当教授の青山真治監督が「自分でやれ!」と言われて(笑)私はずっとコメディをやりたかったのだけど、周りにコメディをやりそうな人がいなかったので、自分でやりたいことを自分で演じようと監督・主演のゼミ作品『ゆれてますけど。』を作りました。この作品は「ロンドン・クリスタルパレス国際映画祭」に出品されたのですが、ロンドンは『Mr.ビーン』の聖地なのですごくうれしかったですね。貧乏ゆすりをする女の子が揺らし過ぎて、地球の裏側のブラジルを揺らすというお話なのですが、教会のような会場で300人ぐらいのお客さんがすごく笑ってくれた。笑いが世界に届くうれしい体験になりました。
■初めての活弁は「初めて訪れたディズニーランド」級の感動。
――――活弁との出会いも大学時代ですか?
辻:19歳でCO2の俳優特待生になり、助成作品の『誰もわかってくれない』(松本大志監督)に主演したのですが、中崎町のプラネットプラスワンで当時CO2事務局長の富岡邦彦さんからクラッシック映画を学んでいた時、大森くみこさんもプラネットで活弁上映をされていたのです。それが私のサイレント映画初体験でした。ジョルジュ・メリエスの作品だったと思いますが、初めてディズニーランドに行った時に覚える感動に勝るとも劣らぬ、見たことのない世界がそこにあって「何!これ?」と。生演奏でセリフ付きなので、映画の中に入り込んだ気分になりました。チャップリンには触れていましたが、メリエスやキートンなどサイレント時代の古典は見たことがなかったし、昔の映画がこんなに面白いと気づいたのもその時でした。
■映画とは程遠い、祇園祭目当てのカップルが足を止める活弁はすごい!と実感。
――――岡本プロデューサーが辻さん、大森さんに声をかけたそうですが、なぜ活弁映画を作ろうと思ったのですか?
岡本:月世界旅行社では上映活動もしているのですが、まちづくりの企画会議で地元の方から活弁をしてほしいと頼まれ、現役最年長の弁士として活躍されている姫路在住の井上陽一さんをはじめ、楽士のみなさんを呼んで、銭湯で活弁上映会を行ったのが僕の中で活弁へのミッションができるきっかけになりました。これは野外で上演したら面白くなると思い、祇園で毎年7月1日に開始している祇園天幕映画祭で大森くみこさんに弁士をお願いし、活弁の野外上映をしたのです。すると小さいお子さんから、若いカップルまでもが足を止めて見てくれた。祇園祭を歩くカップルはある意味映画とは程遠い人たちですが、その人たちが足を止める活弁はすごい!そう実感し、大森さんに活弁で映画を作らないかという相談をし、同時期に辻さんに連絡して一度3人で会うことになったのが2019年6月でしたね。
――――辻さんを抜擢した理由は?
岡本:重なってはいませんが大学の後輩でもあるし、神戸アートビレッジで辻さんの初主演作『野坊の恋』(松本佳乃監督)を見た時、すごく面白い人だなと思ったんです。そこからゆるくつながっていたのですが、辻さんは監督としても女優としても頑張っているし、活弁なので楽しいエンターテイメントを作ろうとした時に浮かんだのがまさに辻さんだったんです。
辻:声をかけていただいた時はとても面白そうだと思いました。もともと自分が作る作品はあまりセリフを書かないし、『Mr.ビーン』やチャップリンのように動きで表現したいという憧れがあったので、サイレント映画はぜひ撮ってみたいと思いました。
■初演の京都はお客様に楽しんでもらえて、本当に充実。
――――今回、第1回活弁公演「ジャムの月世界活弁旅行」と題して辻さんは初の活弁にもチャレンジされますが、結構練習されたのですか?
辻:10月に京都みなみ会館で初演をしたのですが、その時は大森さんが書いてくださった脚本をアレンジして、当日はそれを見ながらやらせていただきました。演奏はどんどん乗ってくるし、画面を見ながら活弁をするので、ノリノリになって口が勝手に動き出すぐらい(笑)。お客様もちゃんと楽しんでもらえるし、本当に充実していました。元町映画館(11月14日)、シネ・ヌーヴォ(11月15日)の活弁は、脚本も自分で改めて書き直して臨む予定です。私が活弁するジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』はおじさんばかり登場するので、演じ分けるのが本当に大変なのですが、大森さんは全てキャラを変えているし、時事ネタも入れているので、私もその辺は意識して取り入れようと思っています。本番では私が弁士をしている時、大森さんが横について一番笑ってくれるので、すごく安心でき、やりやすい環境を作ってくださいました。
――――キートン、D.W.グリフィスというサイレント時代の名匠作品に混じって、辻さんが共同監督、主演の『ぱん。』もラインナップされていますね。
辻:『ぱん。』を活弁にしたら、すごく評判が良かった。元々は賛否両論のある作品だったのですが、今回は「『ぱん。』、むっちゃおもしろかった!」と言っていただけて、映画が蘇ったような感じがします。
――――今回は、元町映画館は天宮遥さん、シネ・ヌーヴォは鳥飼りょうさんがピアノ演奏で参加されますね。弾き手による違いもあるのですか?
辻:鳥飼さんはどんどん盛り上げて、こちらのテンションを上げてくれる演奏です。天宮さんはかわいさもありながら、楽しさもあるような演奏なので、活弁をしていても全然違います。コンサートのように、それぞれの会場の活弁を楽しんでもらうこともできますね。
――――『I AM JAM』の準備はどこまで進んでいるのですか?
辻:緊急事態宣言の時は、ずっと脚本を書いていました。サイレント映画になることを前提として作っていますから、弁士さんと映画の中でしゃべったり、私も来年はミニシアター巡業で廻っていくつもりなので、出演者が映画から出てくる仕組みなどライブ感覚で映画を楽しめるような内容を大森さんと考えているところです。
■辛いことばかりのコロナ禍を救ってくれた楽しいファンタジー映画を自分でも作りたい。
――――今日出演されたラジオでは「SFはお金がかかるのに」とツッコミも入っていましたが、SFにこだわる理由は?
辻:『E.T.』を観た時の衝撃が私の中に残っていますし、『月世界旅行』も月に行っていることもあり、やはり観たことのない世界に行きたいという気持ちが強いんです。私自身、ファンタジーが大好きで、大林宣彦作品も大好き。私の現実もバイトばかりだし、コロナ禍は辛いことばかりでナイーブになったこともあったのですが、その時救ってくれたのはファンタジー映画だったのです。ティム・バートンやウェス・アンダーソン、大林さんの作品しか観れなくて(笑)ただただ楽しい映画を観たい、映画を観ることだけが幸せだったので、そういうファンタジー映画を自分でも作りたいという気持ちが強いですね。
――――YouTubeで発表しているショートムービー『I AM JAM』では、辻さんのポップでカラフルな世界観が出ていますね。
辻:ずっとコメディエンヌになりたいと思っていますが、その道のりはまだまだ遠い。上京してから俳優仲間もどんどん就職しはじめ、自分で映像を作って発信したいけれど一緒に作れる仲間もいない。それならばiPhoneを使って自分で作ろうと、ショートムービー『I AM JAM』を作ってはYouTubeで発表していたんです。今回活弁映画のお話をいただき、この作品をもとに展開したいと提案するとOKをいただけ、まさか長編になるとは思っていなかったので、本当にうれしいですね。
■「今のうちに、好きなことやり!」間寛平さんに激励されて。
――――辻さんは間寛平さんの劇団でもヒロイン役として活躍されていますが、稀代のコメディアン、間さんから学ぶことは?
辻:吉本新喜劇だとヤクザの娘役のような、ヒロイン役でいつも出演させてもらっています。もともと大学在学中に間さんが劇団間座を立ち上げるということでオーディションを受けたのですが、在籍しているのは芸人さんばかりで、私一人アマチュアが入ったみたいな感じでした。セミの幼虫役で主演をやらせていただいてからは毎年呼んでくださり、お世話になっています。寛平さんはマラソンをはじめ、劇団を立ち上げたり、ライブをやったり、常に好きなことをやっていらっしゃる方で、いつも「今のうちに、好きなことやり!」と言ってくださる。本当に尊敬しますね。『I AM JAM』のキャスティングでは、ぜひおじいちゃん役を寛平さんにオファーしたいと思っています。
――――他にどんな役が登場予定ですか?
辻:設定がビザ屋なので店長やアルバイト、宇宙に行った時の宇宙人もいます。あとはウィルスブラザーズや木を伐採するチェーンソーブラザーズ、言論の自由を取り締まるポリスブラザーズなど現在の問題を取り入れながら、コメディで描きたいと思っています。
■活弁上映で「ミニシアターが湧いている」事件を起こしたい。
――――今回の上映はミニシアターからスタートしますが、その狙いは?
岡本:ミニシアターの活弁上映でまずは映画ファンの心を掴みたいという気持ちがありますね。『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督)現象は映画史の中で大きな事件でしたが、活弁が話題になり、ミニシアターが湧いているぞという事件が起きたらいいなと思っているんです。その時、「活弁とは?」とワイドショーやニュースで取り上げてもらったら・・・空想ですけど話題になって興味を持ってもらい、自主興行から依頼公演になるように成熟していきたいですね。
――――第1回活弁公演「ジャムの月世界活弁旅行」を行う元町映画館は、今までも辻さんが舞台挨拶で来られていますが、どんな印象がありますか?
辻:あったか過ぎる!本当にいつも包み込んでくるように迎えてくれる。お客様もあったかいんです。映画チア部が宣伝協力してくれるので、そこもうれしいですね。
岡本:今回の活弁は若い人にも観てもらいたいと思っているので、映画チア部とのつながりは大きいと思っています。映画チア部の応援で若い人に観てもらえれば、活弁がその人の体験として心に残るので、価値のあることだと思います。
■絶対に面白い映画を作ることを誓います!
――――現在、活弁映画『I AM JAM』製作プロジェクトでは、12月31日までクラウドファンディングを募集中です。本作への意気込みを含め、メッセージをいただけますか。
辻:夢は『I AM JAM』で全国を巡回し、全国のミニシアターを人で溢れかえらせたい。北海道から沖縄までくまなく廻り、満席にして、それから海外の人にも楽しんでもらいたいですね。まずは来年秋の釜山国際映画祭でワールドプレミア上映することを目指します。その前に、元町映画館、シネ・ヌーヴォで開催する活弁公演「ジャムの月世界活弁旅行」に来ていただいて、活弁の面白さを体感していただきたいですね。そして多くの人にクラウドファンディグのご支援いただければうれしいです。絶対に面白い映画を作ることを誓います!
(江口由美)
活弁映画『I AM JAM』製作プロジェクトクラウドファンディング
https://motion-gallery.net/projects/iamjam
第一回活弁公演「ジャムの月世界活弁旅行」元町映画館チケットはコチラ
https://iamjam-kobe-20201114.peatix.com/
第一回活弁公演「ジャムの月世界活弁旅行」シネ・ヌーヴォチケットはコチラ
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