サイレント映画上映会@テアトル梅田、ディズニー公式イラストレーター、カズ・オオモリによるポスター解禁!マスコミ座談会で鳥飼りょう(楽士)、武部由伸(エッセイスト)とサイレント映画の魅力を語る。


 映画の歴史を紐解けば、1927年にトーキー映画(音声つき)『ジャズ・シンガー』が公開されるまで、映画誕生以来約30年サイレント(無声)映画の時代が続いた。その間にチャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイドの三大喜劇王や、映画の父と呼ばれるD・W・グリフィスらが活躍し、当時新しい娯楽の一つであった映画を誰もが楽しめるエンターテイメントに押し上げ、観客たちは演奏付きのサイレント映画に熱狂したという。

 今も多くの映画作家やアーティストたちが熱愛するサイレント映画をピアノ生演奏で楽しむサイレント映画上映会(キネピアノ)が、2021年初頭にテアトル梅田で開催される(12月3日大阪府による外出自粛要請をうけ、12月12日、13日開催を延期)。各回50名限定(無料)で日程が決まり次第、詳細をキネプレに掲載予定だ。

 当イベント開催を記念して日本映画上陸を記念した「映画の日」の12月1日に映画系ブックカフェバー「ワイルドバンチ」で開催されたマスコミ向け座談会では、当日演奏予定の鳥飼りょうさんに加え、著書『大阪「映画」事始め』をはじめ、映画、ケルト文化、お酒と多彩な分野で執筆、講演活動を行っているエッセイストの武部好伸さん、ディズニーの公式イラストレーターで本企画のポスタービジュアルを担当するカズ・オオモリさんが、サイレント映画の魅力や新しいエンターテイメントとしての可能性について語った。


■単なる伴奏ではない踏み込んだ心理描写までを演奏で表現するのは、一つの妙

 まずは、今回両日ともに上映されるサイレント映画版マナーCMとも呼ばれる3分の短編『迷惑帽子』を鳥飼さんの演奏と共に鑑賞。

 生演奏付き上映を初体験し、武部さんは「音が視覚化され、状況、動作が音という媒体によって出現し、余計に親近感が湧きます。単なる伴奏ではない踏み込んだ心理描写までを演奏で表現したのがすごく面白い。映像だけであったら自分で解釈していかなければならないが、ピアノが観客をひっぱっていく。一つの妙やね」と絶賛。

 オオモリさんも「映像イコールサウンドトラック的で、初めて映像を見るときにストーリーがどうなるかとドキドキワクワクするけれど、それがピアノと共に展開され、目の前がピアノの音と共にばっと前に広がっていく感じ。本当に贅沢です」と感動冷めやらぬ様子。

 500以上のサイレント映画に伴奏をつけてきた鳥飼さんは、「映画のストーリーをわかりやすくする伴奏を心がけています。映画からインスピレーションを受けて自分の音楽を披露するのではなく、現代人の方が昔の映画に対する耐性が低いので、インスピレーションを受けて、まさに機械に油をさすようようにチューニングしている感じですね。コメディならお客さんの笑いを見ながら、次の一手をどうするかのバランスを変えていく。お客さんと一緒に作っていく感覚です」と、生演奏だからできる手法を明かした。



■サイレント映画+ピアノ生演奏は欧米スタイル

 今回ピアノ生演奏と共にサイレント映画を楽しむというスタイルは、実は欧米スタイルで、日本ではむしろ新しい。そこから、欧米と日本でのサイレント映画と音楽の歴史について話が及んだ。「1895年12月28日、リュミエール兄弟が発明したシネマトグラフを使い、パリで初めてスクリーンに映画が投影され(有料公開)たとき、スクリーンの後ろでピアノ演奏されたが、実は映写機の大きな音を紛らわすためだった。そのうちピアノが映画の演奏に合うとされて広がっていったのではないか」と武部さん。一方日本では、1897年2月15日難波の南地演舞場でシネマトグラフにより日本初となる映画公開がされたが、その時はラッパ、クラリネット、太鼓などでピアノは入っていなかったという。日本で活動写真と呼ばれたサイレント映画は、その後日本独自の活動弁士付き上映が活況を呈し、人気弁士はスター並みの扱いを受ける時代がくるが、一方伴奏をする楽士たちは大きく脚光を浴びることはなく、またピアノ単体での伴奏はほとんどなかった。今回、テアトル梅田では初めて劇場内にピアノを設置、欧米で上映していた鑑賞方法に立ち返り、味わう企画になっている。


■ディズニー作品にも影響を与えたサイレント映画とは?

 サイレント映画はディズニー作品にも与えたという。オオモリさんは「バスター・キートンの『キートンの蒸気船』でキートンが演じた役がウィリーですが、ミッキーマウスが初登場したアニメーション『蒸気船ウィリー』でその名前を使っていることからわかるように、ディズニー作品もサイレント映画から大きな影響を受けています。アニメーションでは、アクションのデザインや動きを作るために、アニメーターが一度自分でアクションをする、もしくは俳優に演じさせて、その演技をトレースするロトスコープという手法を使いますが、ディズニーのクラシックアニメもロトスコープの手法を使っており、その顕著な例がミッキーマウスです」



■カズ・オオモリのキービジュアル解禁!

 そして、いよいよ発表されたキービジュアル。ワイルドバンチでキネピアノを鑑賞した後にひらめいたポスターデザインが閃いたというオオモリさんは「ピアノから繰り広げられるエンターテイメントをキーに、ピアノと映画がシンボリックなアプローチで構成しました。メインビジュアルに鍵盤と鳥飼さんの手、メインの大列車追跡と散りゆく花をイラストレーション化して散りばめています。企画をシリーズ化するなら、スクリーンの中を今後のレパートリーに差し替えることができるようになっています。ディズニーやマーベルの仕事をする時も、脚本などの情報は一切もらえないので、公開前に発売されるサントラを購入して、音楽からストーリーを想像し、何パターンからラフ案を出してアドバイスをもらいながら脳内で映画を作り上げていくのですが、今回も2作品とも観てはいませんが、学習したところから主人公ジョニーの活躍が機関車と共に繰り広げられる『キートンの大列車追跡』と、おそらくチェン・ハンに関わるであろうアヘンをシルエットに、英語タイトルのLが折れているところで『散りゆく花』の破壊的なニュアンスを表現しました」


■サイレント映画のイメージを払拭する『キートンの大列車追跡』『散りゆく花』

 今回の作品セレクトを担当した鳥飼さんはサイレント映画のイメージの払拭が至上命題だと力説。「面白くなさそう、敷居が高そうというイメージを持たれてしまうが、サイレント映画の現場に行くとすごく賑やかなんです」

 12日上映の『キートンの大列車追跡』を選んだ理由は「サイレント映画イコールチャップリンのイメージが強いのを打破したい。三大喜劇王で一番好きなのがキートンで、キートンが一番好きな映画が南北戦争が舞台の『キートンの大列車追跡』。クライマックスで鉄橋から蒸気機関車が落下するシーンは、本物の機関車を落としていてサイレント映画史上一番お金がかかっています。ぜひ映画ファンと一緒に楽しんでほしい」。

 13日上映の『散りゆく花』を選んだ理由は「サイレント映画はコメディという範囲を打破したい。ちゃんとヒューマンドラマがあります。グリフィスは映画の基本的な文法を確立した映画の父と呼ばれる名監督。僕史上最高に好きな女優、リリアン・ギッシュが主人公の儚い恋の物語です」。


■「楽しいからみんな見てという気持ち」(鳥飼)
 「大阪から映像文化を広げる一助になれば」(武部)
 「コロナ禍で人として感受性を取り戻す貴重な時間」(オオモリ)

 最後に「サイレント映画が最盛期だった当時の感じを再現したい。懐古主義的な再生ではなく、こんなに当時の人が楽しんでいたということを今の人に味わってほしい。貴重な文化を守るためにと言われるが、楽しいからみんな見てという気持ちだけなんです」(鳥飼)。

「映画の原点はサイレントです。そこを見直し、みんなと和気藹々と楽しむ。大阪でこういう生演奏付き上映会が広がっていくとうれしいですし、大阪から映像文化を広げる一助になればと思います」(武部)。

「こんな贅沢な時間はない。デジタルではない楽しみですし、コロナ禍で人として感受性を取り戻すところから考えると、ライブでサイレント映画を楽しむのは非常に貴重な時間です」(オオモリ)。

とその意義を語った。

コロナ禍で各種イベント上映が中止、開催延期を余儀なくされる中、コロナ禍であってもライブ感を楽しめる、映画館だからこそできる生演奏付き上映会で、ぜひ贅沢体験を味わってほしい。