黒社会、半グレ社会に生きる男たちのリアルな生き様を追求した傑作群像劇『JOINT』インタビュー
第16回大阪アジアン映画祭で、3月7日、シネ・リーブル梅田にてインディ・フォーラム部門の小島央大監督作『JOINT』が関西初上映された。
より巧妙化し外国人組織までもが入り乱れて繰り広げられる詐欺犯罪や、暴力団内部の抗争や人間模様をドラマチックに描いた犯罪群像劇。不法移民労働者らに仕事を斡旋する韓国人組織など社会の歪みにも目を向けながら、カタギとヤクザの間で苦悩する主人公、石神武司から目が離せないジャパニーズノワールだ。
本作が初長編作となる小島央大監督、出所して東京に戻ってきた石神武司役の山本一賢、武司の友人、ヤス役の三井啓資、韓国人ブローカー、ジュンギ役のキム・ジンチョル、本作のプロデューサーでジュンギの部下、イルヨン役のキム・チャンバに関西初上映後、お話をうかがった。
――――山本さんをはじめとする主要キャストの皆さんとの出会いは、奇跡的だったそうですね。
小島監督:卒業してから映像をはじめたばかりの頃、自主制作の短編に出演していただき、本作ではIT企業の社長役をやっている俳優の桜木さんが主催した飲み会で山本さんと出会い、話が盛り上がったんです。そのままの勢いで作った感じですね。
山本:僕がまだ役者をはじめたばかりで、色々なオーディションを受け続けていたころ、桜木くんから連絡があり、飲み会に呼ばれたんです。そこで友達の隣の席に座っているのが見たことのある人で、短編のオーディションで俺を落とした監督だと思い出しました。「なんで落としたんだ?」と俺が近づいたら、「じゃあ、使います・・・」って。今から思えば桜木さんが小島監督に出会わせてくれたのかもしれません。
小島監督:ぜひ大きな作品で山本さんをキャスティングしようと、山本さんを取っておいたんです(笑)
■「インディーズで終わらせるのはもったいない」マインドを変え、全国上映に向けて発信していける作品に(チャンバ)
――――キム・チャンバさんはどのような経緯でプロデュースをされることになったのですか?
チャンバ:僕は2018年まで韓国で活動し、インディーズ作品からメジャー作品まで様々な映画に出演していましたが、『JOINT』の撮影情報を聞き、直接監督にご連絡してオーディションを受け、イルヨン役で出演することになりました。非常に情熱のあるいい現場でしたが、スタッフをはじめとする皆の考え方がインディーズ思考に凝り固まっていたんです。撮っている最中に、これだけキャラが濃いキャストやスタッフがいて、すごくいい作品なのにインディーズで終わらせるのはもったいない。そう思い、小島監督にはインディーズ思考を変え、自信を持って全国上映で世に発信していける作品にしていこうと背中を押していました。そのような経緯から、配給会社や知り合いに声をかけさせてもらい、プロデューサーという部分もさせていただくことになりました。
小島監督:初めての長編だったので、作品の規模感や撮影時間、チーム編成が想像の遥か上をいってしまったので、自分の中でもやっとした時に、チャンバさんから背中を押してもらって本当に助かりました。
――――初長編で壮大かつ新感覚なフィルムノワールになりましたが、昔から犯罪映画に興味があったのですか?
小島監督:ジャンルとしては犯罪映画、特にマイケル・マンやマーティン・スコセッシの作品が好きで、そのリズム感を取り入れたいと思っていました。『JOINT』を企画した当時は、群像劇という構成の物語の作り方に興味を持っていたんです。色々な人の生き方を通じて一つの人間的な決断や気持ちを表現したいという気持ちが強かったので、今回のような犯罪映画の群像劇になりました。
■演技は初めてでも個性的な人をキャスティング(小島監督)
――――今、まさに日々起きているデータ漏洩や詐欺などの事件の裏側にある組織の動きをリアルに描いていましたが、どのようにリサーチしたのですか?
小島監督:犯罪映画を作ろうとした時に、リアリティをとことん追求しようと、オーディション期間中も含めて8ヶ月ぐらいを準備に費やしました。裏社会のドキュメンタリーや資料に手当たり次第あたり、読み進めながらも、実際の暴力団や半グレの人たちの立ち振る舞いをどう映画の中に映し出していくかと考えたんです。もともと役者をやっている人より、演技は初めてでも、ちょっと考え方を変えれば裏社会の人間のように見える。そういう個性的な人をキャスティングしていきました。例えば荒木役の樋口想現さんは普段猫を3匹も飼っている優しい人なのですが、暴力が生きがいのヤクザに見せるためにはどうすればいいか。どういう部分を引き出し、リアルになるかを考えました。生っぽさがありつつ映画的なところもある演技になったと思います。
■初演技の僕を支えてくれたのはガッツある若いスタッフたち(山本)
――――主人公の武司は裏社会で生きるには実直すぎる男で、不器用だけど、人望も熱く、旧友ヤスの手を借りながら真っ当に生きようしますが、どうやって武司役を掴んでいったのですか?
山本:今回が初めての映画出演でした。何を演じるにしても自分の中にある色々な自分から、要素をいくつか組み合わせて作るのですが、時には嫌いな過去の自分を引き出したりもしましたね。ヤス役の三井さんはバスケ仲間の番長で、想現さんもバスケ仲間ですし、僕の家族も出演してもらっています。とにかくスタッフが当時20代前半と若く、みんなガッツがあったので、それで走りきることができました。なにせ映画初出演の僕が主演をするのに、何かしらの糧がなければ途中精神的にも肉体的にも憔悴してしまいます。それを支えてくれたのは若いスタッフたちでしたね。今一緒にいるスタイリストの吉田君は一人で全員分の衣装のスタイリングを毎日してくれましたから。
――――撮影は3ヶ月とお聞きしました。最近の日本映画は撮影が短くなる傾向にある中、かなりたっぷりと撮影期間が取れたんですね?
小島監督:実際は4ヶ月近く撮影していました。
山本:役者は呼ばれた時に行けばいいけれど、スタッフは休みなく連日出なければいけないので、本当にがんばったと思います。
チャンバ:撮影中、キャストは役に入り込んでしまい、ギラついているのですが、なぜかスタッフもギラついていて、よく警察から一緒に職務質問を受けましたね。きっとみんなが同じ気持ちで撮影に入り込んだ結果だと思いますが(笑)
小島監督:途中、いくつか精神的に辛い段階があったのですが、映画に対して思い続ける情熱が皆にあったので、支えられました。
三井:最初1ヶ月で終わるって言っていたのに、詐欺映画や(笑)
――――撮影期間が長かった理由は?
小島監督:脚本もアドリブだらけだったので、キャラクターも含め撮りながらストーリーを作っていました。こういうキャラクターだったらこういうシーンにしようとか、そうなると次のシーンはまた別のものになるよねという具合に、4ヶ月かけて全てのパズルのピースを組み合わせていき、全体像がやっと見えてきた感じでしたね。
チャンバ:台本、当日出たりしましたから。
山本:みんなで作った感じですよ。初めての撮影がそうだったので、他の映画の現場だと脚本がちゃんとあるので全然違うなと思います。
ジンチョル:日本語のセリフをその場で覚えなくてはいけないし、練習しないと自然なセリフにならないので、大変でした。
――――タイトルの『JOINT』は、今回の映画づくりの体制そのものでもありますね。
小島監督:タイトルはすごく悩みましたが、『JOINT』は刑務所という意味もあれば、マリファナ、関節だとかつなぎ目など、犯罪と人間同士の繋がり、テーマ性を全て集約しています。
――――小島監督は神戸生まれ、ニューヨーク育ちですが、日本を客観的に捉えることができるのではないかという気がしますね。
小島監督:神戸で生まれ、3歳でニューヨーク、13歳で帰国したわけですが、日本に対する気持ちとしては、素晴らしい文化があるのに、羽ばたいていない気がします。ポテンシャルがあるのに閉じこもっている感じがしますね。アメリカは発信する文化ですが、日本は自分の意見をあまり言わないですよね。
――――従来の日本映画にない、規格外の黒社会群像劇になりました。世界に通用しますね。
チャンバ:実際に入れ墨を入れるシーンがありますし、スタッフの発想のぶっ飛び方や、実際にそれを実行できるキャストなど、ドキュメンタリーを除けばまずない。本当に自信を持ってお届けできると思います。
――――今秋の劇場公開に向けて、一言ずつメッセージをお願いします。
小島監督:見てみないとヤバさはわからないので、たくさんの人に見ていただきたいです。
山本:僕たちは作るだけなので、見てもらえれば、それで全てです。ぜひご覧ください。
三井:映像や効果音のクオリティが本当に高くて、完成した作品を見て、結構ガツンと食らいました。色々な引き出しを持っているので、そんな作品の奥行きも感じていただきたいです。
ジンチョル:スタッフも俳優も、与えられた状態の中で、自分の中で一生懸命やったので後悔はないです。お客様に見ていただいて、判断をお任せしたいと思います。
チャンバ:リアリティを追求し、ギリギリの判断の中で葛藤しながら、最高の作品が出来上がったと思っているので、一人でも多くの方に見ていただきたいです。
(江口由美)
<作品情報>
『JOINT』“JOINT”
2020年/日本/118分
監督:小島央大
出演:山本一賢、キム・ジンチョル、キム・チャンバ、三井啓資、樋口想現
(c)小島央大/映画JOINT製作委員会
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