『ブックセラーズ 』本を選ぶように、心に響く古書の守り人に出会う
最近よく足を運ぶ神戸、元町界隈では個人の古本屋が増え、各店主がセレクトした古本、新刊本を揃え、映画館とはしごするのが楽しい。その一方で、昔ながらの古書店もいくつか軒を並べている。ただ、そのイメージでこの作品を見ると、最初は度肝を抜かれた。過去は駐車場だったという巨大な会場による古書マーケットにならぶ貴重本の数々。1600年代からオークションで取引されてきたという歴史の裏には、それが英国貴族の趣味からはじまったと共に、1900年代になるまで女性が古書を扱うことも、扱う本の中に女性史に関するものがなかったことも見えてくる。
その反面、まさに映画業界であったり、ミニシアターなどと似ているなと思うのが、チェーン店とは真逆の、地域のニーズに合わせた品揃えをしたり、古書店が顧客を育てるという考え方だ。ニューヨークでも50年代ごろに比べれば、古書店は激減。そして映画と同様、インターネットが業界を存続の危機にまで陥れている。そのあおりを食っているのが、比較的手の届く範囲の価格帯の古書を手がけてきた多くの古書店だというのだから、ここでもネットの功罪を強く感じざるを得ない。
本作は様々なブックセラーへのインタビューを中心にテンポよく構成されているが、業界全体で男性ブックセラーの方が断然多い中でも、女性のブックセラーを意識的に取り上げ、彼女たちの考えや取り組みを多岐にわたって紹介している。男性ブックセラーは悲観論が多い中、もともと逆境の中、女性ブックセラーの道を切り開いてきた彼女たちは新しいアイデアで古書店運営を活性化させている。そして、女性の作家がなかなか実名で作品を世に出すことができなかった本業界の歴史に目を向け、女性作家や女性史の重要性を認識させることに大きく貢献していることを知ることができた。これは私にとって大きな収穫だ。若手女性ブックセラーを育てるための取り組みにも言及しているのがいい。
様々なブックセラーが登場する中、かつて子どもに『かいじゅうたちのいるところ』を夜な夜な読んでいた身としては、その作者、モーリス・センダックのエピソードが登場したのも、非常に興味深かった。子ども絵本がその価値を認識されていなかった時代に、「オズの魔法使い」の初版本を小学生で手に入れ、作家ボームの生誕100年でコロンビア大学に初版本を貸し出し、「オズの少年王ジャスティン」と呼ばれた先駆的な児童書のスペシャリスト、ジャスティン・シラーとの交友だ。映画の中の扱いとしてはあまり大きくないが、これもまさに、古書店で好みの本を見つけた時の喜びに近い感覚に思える。
そして、まさに作品のスパイスのように、要所要所に登場してはパンチの効いた一言を語るのは、作家、批評家のフラン・レボウィッツ。「人生で一度も本を捨てたことがない」という彼女に出会うだけでも、この映画を見た甲斐がある。もちろん、もっと古書収集の喜びであったり、その価値や、実際の古書の紹介など様々なコンテンツが含まれているが、その中で自分は何に心が動くのか。ぜひ実際に観て、確かめてほしい。
<作品情報>
『ブックセラーズ 』”THE BOOKSELLERS”
(2019年 アメリカ 99分)
監督・編集:D・ W・ヤング
出演:フラン・レボウィッツ他
4月23日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ他全国順次公開
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