『クルエラ』閉塞感を打ち破る、ロックでファッショナブルな前日譚


 悪名高き人間ほど、実はその裏にあるドラマに惹きつけられるのではないだろうか。『バッドマン』に登場する悪役を描いた『ジョーカー』(19)でのホアキン・フェニックスの鬼気迫る演技は記憶に新しいところだ。ホアキンが演じたアーサーは母はいたものの、孤独だった。コメディアンになる夢はあったものの、その夢を掴むことはできなかった。


 今回、ディズニーが放つ最新作『クルエラ』では、「101匹わんちゃん」に登場するディズニー史上最も悪名高き “ヴィラン”<悪役>であり、その白黒ファッションでも有名な“クルエラ”の誕生した背景が明かされる。監督は『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でナンシー・ケリガン襲撃事件を引き起こしたトップスケーターの波乱の人生を幼少期からじっくりと描いたクレイグ・ギレスピー。自分の境遇を悲観せず、たくましく生き抜く女性が本能に目覚め、覚醒していく様をパワフルに演じるエマ・ストーンから目が離せない!

 


母をある事故で亡くし孤児になったエステラは、相棒のジャスパー、ホーレス、そして2匹の愛犬と奇妙な同居生活をしながら生き抜いてきた。ロンドンで最も有名な百貨店リバティで勤めることになり、ファッションデザイナーへの一歩が踏み出せると心躍らせるエステラだったが、彼女の仕事は掃除や雑務ばかり。デザインセンスを見せる機会すら与えられない。そんな時、偶然店を訪れたファッション界のカリスマデザイナー、バロネスに見出され、エステラはめきめき頭角を現していく。


生まれつき髪が白黒のツートンで、性格も個性的だったエステラにとって、亡くなった母の言いつけどおり、自分を周りとなじませることは、多くの我慢を強いられることだった。常にウィッグをかぶって目立たないようにし、カリスマにありがちなバロネスのわがままな言動にも耐えようとするが、ある事件から、彼女のなかにある真の魂が呼び起こされる。エステラと、覚醒したクルエラの両極端なキャラクターを演じるエマ・ストーンの存在感がすさまじい。そんなエステラ/クルエラを支えるジャスパー(ジョエル・フライ)、ホーレス(ウォルター・ハウザー)の裏稼業コンビが、復讐心に駆られる物語にコミカルさを与えている。



パンクムーブメントが吹き荒れる70年代のロンドンで、時代の流れに乗り大旋風を巻き起こしたクルエラという存在とそのパンクファッション。そして上流階級層に圧倒的な支持を得てきたバロネスのオートクチュールコレクションの数々。ファッション界の頂点をめぐる攻防を片や過激に、片や華やかにみせるショーのシーンはまさに心踊る。ちょうど関西では兵庫県立美術館で6月20日までコシノヒロコ展を開催中で、オートクチュールコレクションに魅了されたばかりだったが、『クルエラ』を観て、あらためてファッションは人を元気にする力があると心から思った。そして、物語のカギを握るバロネスを演じたエマ・トンプソンのキレッキレぶりと、豪華ファッションの着こなしぶりにも惚れ惚れ。底辺から這い上がり、自分の運命を自分で選び、ファッションデザイナーの夢も掴む。そんなあくなき貪欲さの裏にある一途な思いにも触れたスタイリッシュで熱いクルエラ誕生秘話は、力強いパンクロックと共に、まさに現在の閉塞感を打ち破ってくれるかのようだった。


<作品情報>

『クルエラ』(2021年 アメリカ 134分)

監督:クレイグ・ギレスピー

出演:エマ・ストーン、エマ・トンプソン、ジョエル・フライ、ポール・ウォルター・ハウザー、エミリー・ビーチャム、カービー・ハウエル=バプティスト、マーク・ストロング

5月27日(木)映画館 & 5月28日(金)ディズニープラス プレミア アクセス公開

※プレミア アクセスは追加支払いが必要です。

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『クルエラ』公式サイト → Disney.jp/cruella