『るろうに剣心』がお手本!初主演作で剣術の達人役に挑む『スレイト』アン・ジヘさんインタビュー
2020 年に開催した東京国際映画祭でも話題となった韓国発のアクション映画『スレイト』が、6月25日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋、7月2日(金)より京都みなみ会館、7月10日(土)より神戸アートビレッジセンターにて公開される。
監督は新鋭のチョ・バルン。テレビドラマでキャリアを積みながら、アクションに磨きをかけ、自信があるというアン・ジヘを主演に抜擢、数々の剣術アクションシーンだけでなく、無法地帯のパラレルワールドに飛び込むという異色ファンタジーの要素も取り入れ、キレッキレなのにユルさもある、独特の世界観を作り出している。パラレルワールドで若いながら、領主の役目を継いだキム・ジナ役を、ドラマ「100日の朗君様」がケーブルテレビでは異例の大ヒットを記録したイ・ミンジ、フィリップ役を、「BODYGUARD」、「OKMADAM」と出演作が続くパク・テサンが演じているのも見どころだ。
スタントなしで全アクションシーンをこなした主人公、ヨニ役のアン・ジヘさんにリモートインタビューを行い、本作への想いを伺った。
【ストーリー】
幼い頃からアクションスターになることを夢見ていたヨニ。卓越した剣術を持っているにもかかわらず、なかなか役者として芽がでない日々。プロデューサーへのアピールが功を奏し、なんとかアクション映画のスタント役として撮影現場入りすることになったヨニは、友人スアがカチンコを叩いた瞬間に、無法地帯のパラレルワールドに入ってしまう。人々が剣を持ち、何の報いもなく殺し合いをする中、撮影と間違えて敵を倒していくヨニの姿を見た村人たちから村の守護者として迎えられ、尊敬されるようになる。いつの間にか村人を救うために、ヨニは悪者たちに反撃を開始する。
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■器械体操の選手から俳優へ。時代劇ドラマをきっかけに剣術を学ぶ
――――アクションに興味を持つようになったきっかけは?
小学4年生から大学1年生まで10年間、器械体操の選手で、ずっとトレーニングを積んでいました。選手生活を終えてからも、今まで培ってきた体力や筋力を使った演技をやってみたいと思ったのです。
――――選手生活をする中で例えば映画やアニメなどに触れる時間を作るのも難しかったと思いますが、何か選手生活の支えになるような作品との出会いはあったのですか?
そうですね。選手生活を送っているときはやはり忙しくて、映画やテレビのドラマを観る時間がなかったのですが、その後俳優としてのキャリアをスタートしてからは、積極的に映画を観たり、本を読むようにして知識を深めています。
――――体操選手と俳優とは体を使うという共通点がある一方、演じるための訓練も必要ですが、どのようにして転身を遂げていったのですか?
最初、俳優を目指したものの何のツテもなかったので、演技を教えるアカデミーに入学し、演技レッスンを積みました。そこからさまざまな情報やコネクションを得ることができるようになり、まずは小さな役をいただいてドラマ出演や、広告出演の機会をいただくようになりました。そういう仕事を重ねていくなかで、俳優活動に本腰を入れる覚悟ができ、ハンヤン大学大学院に入学し演技を専攻しました。途中でドラマの仕事が入ってしまい、大学院は結局卒業できなかったのですが、その後も役を演じながらキャリアを積み重ね、ようやく、今回の『スレイト』に出会うことになったのです。
――――俳優のキャリアを重ねる中で、アクション俳優になりたいと思ったのはいつごろですか?
私は俳優業をはじめた当初から、時間を見つけてはアクションの個人練習をしていました。まだアクションをする役はもらえなかった時期でしたが、自分の中でいつかはアクション俳優になりたいという夢を抱いていたのです。ドラマ「スリーデイズ〜愛と正義〜」(2014)でアクションのある役をいただき、そこから本格的にソウルアクションスクールに入って練習を積むようになりました。時代劇ドラマ「六龍が飛ぶ」(2015)に出演してからは剣を使う練習も行っていますし、もっとアクションを上達させたいと思っています。
――――『スレイト』の1番の見どころはまさにそのソード(剣)アクションですが、どのように訓練したのですか?
日常的に剣を使ったアクションや筋力トレーニングを行っていたのですが、『スレイト』出演が決まってからは、アクションスクールで本作のアクション監督や、チームのみなさんと2ヶ月間剣術アクションの練習に励みました。
■初主演作で当て書き。「映画のような、夢が叶う出来事」
――――映画の冒頭でヨニも懸命に映画監督へ自分がアクションも演技も全てできる俳優であることをアピールしていましたが、アン・ジヘさんが本作で主演に抜擢された経緯は?
チョ・バルン監督と会議室で初対面のときにお話を聞いたのは、この作品ではなく、その前の作品(アクション映画)についてでした。ただ、次もアクション映画を準備していることや、その主人公は男性であると聞いたので、「私もスタントなしでアクションができるし、演技にも自信がある」とその場で伝えたのです。すると翌日、私のアクションについて詳しい話が聞きたいとチョ監督から電話があり、何度かやりとりを重ねた後、「ジヘさんを当て書きしながら新作の脚本を書いている」と。まさに映画のような、夢が叶う出来事が起き、本当に驚きましたし、またとても嬉しかったです。なにせ、私の初主演作となるのですから。
■『るろうに剣心』シリーズでアクションの研究を重ねる
――――なるほど、初主演作を当て書きしてもらったとは本当に嬉しいことですね。本作はアクションだけではなくコミカルな部分がありますし、ヨニの持つトラウマと向き合う内面的な表現など様々な準備が必要だったと思いますが。
まず脚本を何度も読み込み、内容を把握することに努めました。また、ヨニがどんなキャラクターなのかを深く考えました。心の傷を持つヨニがパラレルワールドでの体験を経ながらどのようにして成長していくのかをたくさん考えました。そしてアクションの参考のためにチョ監督が勧めてくれた『るろうに剣心』シリーズを観ました。本当に剣術が素晴らしいし、とにかくカッコいい映画で、勧めてくれたチェ監督にも『るろうに剣心』がどれだけ素晴らしいかを伝えていたほどです。アクションの研究も重ねましたね。
――――日本では『るろうに剣心 最終章 The Final』が公開中ですが、剣術の参考になる作品という監督の意図は大いに頷けるところです。この作品はジヘさん以外のメインキャストが一人二役をしているのも特徴ですね。
周りの俳優のみなさんが一人二役をしている中で演じるのは初めてでしたが、相当現場は慌ただしかったですね(笑)。あちらこちらで笑い声や喋り声が聞こえる中、私はヨニに集中して演技をしていました。とても楽しい現場でしたし、みなさんの演じ分けも本作の見どころだと思います。
■撮影前に準備したアクションと女友達スアとの関係づくり
――――パラレルワールドではさまざまな相手との対決シーンがあります。練習や撮影の中で一番難しかったことは?
撮影期間が1ヶ月しかなかったので、事前に練習し、ほぼ完全にアクションの動きを把握した後に撮影現場に入らなくてはいけない状態でした。練習でかためたセッティングを、現場でそのままアクションで再現するわけですが、私が難しいと感じたことは体力面ではなく、相手と合わせるということでした。相手と自分が気持ちやリズムを合わせながら演技をすることが1番大変でしたね。
――――ヨニの日常を描く部分では、孤独なヨニをサポートするスアという女友達の存在が大きかったですね。
スアを演じたイ・ダヨンさんも、私も、二人のつながりが大事だと思っていたので、撮影前にプライベートでお茶をしたりミーティングを重ね、役に入る前に信頼関係をしっかりと築きました。それが映画に現れていればいいなと思っています。
――――お互いに支え合ったり、つい世話を焼くようなふたりの微笑ましい関係性が見えました。アクション俳優として主演を演じることにこだわっていたヨニはパラレルワールドを通じて、何かに気づき、成長を遂げますが、ジヘさん自身と重なる部分はありましたか。また撮影を通して、ジヘさん自身で成長できたと感じた点は?
ヨニを演じながら、昔の自分を思い出すことになりました。というのも、私自身もかつてはヨニのように主人公を演じたいという強いこだわりがありましたし、主人公を演じて周りから認められなければダメだと思っていたのですが、今は、自分の人生を生きるならどこでも主人公になれるし、そういう生き方が大事だと感じています。
■韓国で女性のアクション映画は新鮮と捉えられている
――――韓国で、女性のアクション俳優は増えているのでしょうか。少し事情を教えてください。
女性がアクションを演じるようなキャラクターは、今までは多くありませんでした。ただ、今はアクションをする準備のできている方が多いので、映画業界の流れもあり、これからは多彩な女性のアクション俳優と出会う機会が多くなるのではないでしょうか。
――――そうすると、『スレイト』でのジヘさんのアクションは観客に新鮮な驚きを与えたのでしょうか?
今はコロナ禍で、映画館へ足を運ぶことが難しい時代ですが、その中でも映画レビューサイトでは、さまざまな人が『スレイト』を観て新鮮さを感じたと、コメントを残してくれました。それを観て、私もみなさんが新鮮に感じてくださったことを嬉しく思っています。
――――今、日本では韓国の女性監督の作品(『はちどり』『チャンシルさんには福が多いね』『夏時間』など)が続々と紹介されていますが、その流れについてどう思われますか。
映画を作るにあたっては、一つの考え方だけではなく、いろいろな考え方が必要です。だから、今までの流れとは違う女性監督の視点があれば、今までと違う話が生まれるし、作り手も観客も新鮮だと感じる物語が、これからも生まれるのではないでしょうか。
――――今後、ジヘさんがアクション俳優として目指したいことやフィールドは?
韓国だけではなく、世界で活躍するアクション俳優になりたいですね。(時代劇など)日本からもオファーがあれば、すぐ駆けつけます!
――――最後に『スレイト』公開を楽しみにしている皆さんに、メッセージをお願いします。
『スレイト』に興味を持っていただいたみなさん、また実際にご覧になっていただいたみなさん、ありがとうございます。今はZoomなどリモートでしかみなさんとお会いできませんが、また、コロナが収まり、次の作品で実際にみなさんとお会いして交流できればうれしく思います。どうぞ、映画を楽しんでください。
(江口由美)
<作品情報>
『スレイト』(2020年 韓国 100分)
監督・脚本:チョ・バルン
出演:アン・ジへ イ・ミンジ パク・テサン
6月25日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋、7月2日(金)より京都みなみ会館、7月10日(土)より神戸アートビレッジセンターにて公開
公式サイト:https://slate-movie.com
公式ツイッター:https://twitter.com/slatemovie2021
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