「“お客さんに観てもらうことで初めて映画が完成する”ことを改めて実感しました」『stay』藤田直哉監督インタビュー

    

    第20回TAMA NEW WAVEで上映され、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020国内コンペティションの短編部門では優秀作品賞を受賞。山科圭太さんや石川瑠華さんなど、今後の活躍も期待される若手俳優陣が共演した短編映画『stay』が9月4日(土)よりシネ・ヌーヴォXにて、アップリンク京都でも9月17日(土)より公開される。(シネ・ヌーヴォXでは、9月4日に藤田直哉監督と出演・脚本の金子鈴幸さん、9月5日には監督の舞台挨拶を予定)

    一軒の古民家を舞台に、現代社会をも彷彿とさせられるワンシチュエーション会話劇が繰り広げられる本作。今回はndjc2021にも選ばれ、来年2月には新作の上映も予定している監督・藤田直哉さんにインタビューを敢行。制作の経緯や若手俳優陣による演技アンサンブルについて、詳しくお話を伺った。



■これまでの活動について

――――監督について調べていると「岩井俊二のMOVIEラボ」(NHKにて2014年と2015年に2シーズン放送されたTV番組。学生がスマホ撮影した1分映画のコーナーでは、全国から選ばれた学生たちの作品が放映された)で印象的だったSF短編『ショートトリップ』を制作した方と分かり、驚きました。

藤田:懐かしいですね。ありがとうございます。



――――当時のクレジットを見ると金子鈴幸さん(『stay』脚本)が共同監督になっていました。この頃から金子さんとは関わりが深かったのでしょうか?

藤田:そうですね。明治大学の同期でした。

当時の僕は一人で実験映画などを作っていて、金子くんは映像監督や舞台演出を手掛けていたので、それを一緒に行ったりしていました。


――――今回の作品も企画段階から金子さんとお話をしながらという形だったんでしょうか。

藤田:シナリオ・ハンティング(脚本執筆のために現地取材を行うこと)から一緒でした。



――――企画の意図として「現代における(不完全な家に生きてしまう)疑似家族と匿名の人々(インターネット空間)」というテーマがあったと聞きました。その着想や基になった出来事などについて、詳しくお聞きしたいです。

藤田:僕らは「伝えたいメッセージがある」というよりも「映画を作りたい!」という気持ちが先にあるタイプだったので、シナリオ・ハンティングに行きまくるしかないなという思いがありました。

そんな矢先、過去に映像の仕事を通じて知り合った方が、秩父で農家を始めたことを知りまして、そこが今回のロケ地になっています。実際に何泊かさせていただき、その体験を基に今回のアイデアが生まれました。


――――監督は映像制作会社で働いたのち、フリーへ転向したとお聞きしています。当時からオリジナルの作品を作りたいという思いがあったんでしょうか?

藤田:商業映画の助監督をして経験を積むことも大切ですが、自分が作りたいものを作り続けることとは、ちょっとした違いがあると思っています。自分は「オリジナルでやっていくほうが面白いな」と思ったので、コツコツとチャンスを窺いつつ、独自の映画製作を続ける選択をしました。




――――話は戻りますが、ロケ地に行ってから作品のアイデアを考えることは少し珍しいのかなと思いました。

藤田:そうですね。

今思えば、過去に実験映画を作っていた時も、自分の感情よりも建物や物のモチーフから着想することが多く、その影響はあるのかもしれません。

「すでにあるものをどう描くか」という映画製作のスタイルは同じですので。


――――これまでも先に舞台を決めて、そこからお話を広げていく書き方が多かったということですね。



――――今回は石川瑠華さんや山科圭太さんなど、ミニシアター系ではお馴染みの顔ぶれも魅力的でした。キャスティングの決め手はなんだったんでしょうか?

藤田:石川さんは、こちらからオファーしたので最初に決まりました。

何らかの資料や映像作品で彼女の存在は知っており、「イメージに合いそうだな」という思いはあったため、共通の知人を介して知り合った経緯があります。

お会いした際に1ページ程度の台本をお渡しして、少し演技をしてもらったのですが、その様子を見て、"マキ"役に確定しました。



映画に登場するマキという人物には芯の強さがあります。石川さんも性格や雰囲気から通ずるものを感じましたし、ビジュアルからも”しっかりした自我の持ち主”だということが溢れ出ていたので、今回の起用に至りました。



矢島役の山科さんはオーディションで決定しました。

圧倒的に呑み込みが早く、こちらの要望もすぐ具現化していただけたような、勘の良さを感じて決めさせていただきました。ちなみに、同じく、オーディションで決定した菟田高城さん(鈴山役)は周りを巻き込んだり、空気を変えるような雰囲気を持っている方。役柄とピッタリで、石川さんとの共演を考えてみても、TVドラマではありえない「別世界にいる人たち」といった印象があったので、奇妙で面白いものが生まれるのではと思い、起用させていだだきました。


――――映画そのものの面白さはもちろんですが、個性派俳優たちのアンサンブルというのも本作の魅力だと思います。今後、役者陣が活躍していく中で再評価される作品のようにも感じました。

藤田:そうですね。役者さんには助けられました。


――――脚本はあったと思うのですが、実際に撮影する中で変わった部分もありましたか?

藤田:まずは家を描きたいという気持ちがあったので。役者陣の動きは固めず、"登場人物が家に対して行う自然なリアクション"を意識して演出しました。

そのため、もともとのイメージとは違う部分も多く、それが映画の良さになっていたと思います。



例えば、鈴山が家を出た後の、矢島の表情や感情の変化。これは山科さんがやってくれたもので、もともとのイメージとは異なっていたんですが、面白いなと思ったので採用しました。



また、終盤に登場する調理場での長野こうへいさんと金子鈴幸くんの掛け合いも彼らのオリジナルです。

僕自身が指示するというよりも役者陣が思ったことを尊重する現場でした。


―――― ワンシチュエーションかつ、基本は会話劇なので、役者陣が自由に演技を出来たことが本作の強みだったのかもしれませんね。

藤田:演出の自信がなかったというのもありますけどね。(笑)


――――これまでは作品作りと聞くと型通りというイメージがあったんですが、逆に予算が高かったり、大物俳優を呼ぶことで大変になる部分はあるのかもしれませんね。

藤田:そうですね。自由さみたいものは、この規模だからこそできたのかもしれません。

"実験的に"という言葉をよく使うのですが、今回も「どうなるのかな」っていうワクワク感を持ちつつ、現場に挑みました。

カチッと決めつつも、現場で偶発的に起こったこと自体が映画の面白さになると思うので、それをどう扱うかが監督の役目であり、醍醐味なのかなと。

今回はカメラマンからも積極的に意見をもらっていて、それを採用したものが良いショットになったりもしました。撮影現場では「大丈夫かな」と思いながらも、終わった後に「良いショットだな」と感じる場面はかなり多く、そこも楽しんでいました。



――――お話を聞いていると現場のトラブルなども大変だったのではと思いました。それはいかがでしたか。

藤田:一応、家はほぼ貸し切り状態にしてもらっていたので、基本は大丈夫でした。

また、スタッフ選びに関しても、プロデューサーと「お互いにリスペクトを持ちながらできる人を集めよう」と話して、決定しています。

「辛い撮影はしない」とか「トラブルにならないように」とか、「最悪、ストーリーが変わっても現場の進行や皆の安全の方が大事」という思いは、第一にありました。


――――スタッフ間で信頼関係がある方がやりやすいですよね。



――――今回の作品は映画祭にも出品された短編映画ということで劇場公開になる流れが特殊だなと思ったのですが、その部分について、お聞きしたいです。

藤田:この作品は、TAMA NEW WAVE、大阪アジアン映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭という3つの映画祭で順番に上映していただきました。

賞を獲得したのはSKIPシティ国際Dシネマ映画祭でしたが、配給のアルミードさんと出会ったのは大阪アジアン映画祭になります。

ちょうど、そのタイミングはコロナ禍の初めで、無名監督の作品ということや興行的に難しい短編映画のフォーマットに難点も示されていたのですが、のちに賞を獲得したことが大きな決め手になりましたね。


――――段階を踏んだことで劇場上映に繋がったんですね。

藤田:賞を獲得する前にお声がけしていただいたアルミードさんには本当に感謝しています。



――――劇場公開後の反響はいかがでしたか。

藤田:もともと映画館での上映を意識して制作した作品ですが、当時のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭はオンライン開催でした。

ただ、その時に見て、「劇場でも見たい」と足を運んでいただいた方もいて、「やっぱり、劇場で見ると違うよね」と言っていただけたのは嬉しかったです。

また、閉館直前のアップリンク渋谷でも上映させていただきまして、ミニシアターの土壌がある映画館で上映することで、僕を知らない、そこのお客さんが見に来てくれたというのも良い経験でした。

お客さんへの出会いみたいなものは劇場を通じて感じましたし、やっぱり、劇場でかけることで直接お客さんの反応を見たり、感触を得られたり、感想をいただくことが出来たので、それが映画の良さだなと。

“お客さんに観てもらうことで初めて映画が完成する”とよく言いますが、改めてそれを実感しました。

また、今後も活動を続け、再び劇場でかけてもらえるように頑張ろうという気持ちにもなりました。


――――作品作りも規模がデカくなればなるほど、色んな方からお話を聞けるのが良いですよね。僕も学生時代にクラブ活動で上映会をした経験があって、友達などからしか意見をもらえないということがありました。

藤田:僕も大学時代はそうでした。

自己満足で作ってしまっていて、周りの人に見てもらうだけで「いいな」と思ったり、少し意固地的な部分もあったと思います。

ただ、作品を作っていくうちに「やっぱり、見てもらわないと何も始まらないな」とは思いましたね。



――――観た方の感想から、次の作品に影響を受けることもありますか。

藤田:自己肯定じゃないですけど、作品の感想を頂けるだけで自信には繋がります。

誰かが何かを感じるような映画を作りたいと思っていますし、それが社会の中で創作を続けることの責任なのかなと、おおげさですが感じています。


――――作品のメッセージや自分のカラーがあったとしても、それを人にどう見せるかを考えるだけで、だいぶ変わってきますよね。そういう点では、過去にプロデューサーの経験もあるとお聞きしたのですが……。

藤田:そうですね。その経験を通して、プロデューサーは、ちょっと違うのかなと思った部分はあります。(笑)

監督は、現場で各部署(撮影部・照明部・美術部など)とコミュニケーションをとり、作品を作る醍醐味がありますが、プロデューサーは現場との距離が少し遠いというか……。金銭的な管理もあるので、自分のやりたいこととは、少し違っていることが分かりました。



――――具体的にプロデューサーは、どのようなことをするんでしょうか。

藤田:基本的には、映画の方針を決める役職ですね。

例えば、キャスティングを誰にするとか、事務所とのやり取りとか、映画の完成後にどう配給と繋がるかとか……。マーケティング的な部分もありますし、内容にツッコむ方もいるとは思いますが、作り手の感覚とは違うのかなと思います。ただ、いい経験にはなったと思っています。


――――今回の劇場公開を経て、今後の目標やビジョンはありますか。

藤田:以前は働きながら、時間があるタイミングで創作活動をしていこうと考えていたのですが、今回の映画公開や上映活動を経て、大きな規模で作ってみたいという意欲は生まれました。

それが商業映画なのか、インディペンデント映画なのかは分からないですけど、自分の適性として、ビジネス的にやるのも嫌いじゃないんだろうなという予想はあって、 今後も活動を続けつつ、商業映画にも挑戦していきたいなという思いはありますね。



――――ステップアップした形で、今後も何かを作れたらいいですよね。

藤田:そうですね。僕自身が芸術家というよりは職人的な部分を持っている感覚があるので、そういう意味で、商業映などに寄せて活動していった方が良いのかなとも客観的には感じています。


――――最後に作品をご覧になる方や、すでに作品をご覧になった方へメッセージをお願いします。

藤田:ジャンル物でも派手な映画でもなく、テーマも珍しい作品なので、そういった映画を劇場で単独上映していただけることは、僕自身、かなり幸せなことだと思っています。

お客さん目線からすると、このような映画に出会うケースはかなりレアだと思いますし、だからこそ見ていただけることは貴重な体験だと思います。

たとえ、面白くないと感じても、こういう映画があるんだということを知ってもらいたいですし、僕以外にもこのような規模でひたむきに映画を作り続けている方はいるので、 そういう方達にも目を向けてもらえるような作品になっていれば良いなと思っています。


――――本日は、ありがとうございました。

(大矢哲紀)


<作品情報>

『stay』

2019年/日本/39分

監督:藤田直哉

脚本:金子鈴幸

出演:山科圭太、石川瑠華、菟田高城、遠藤祐美、山岸健太、長野こうへい、金子鈴幸

9月4日(土)よりシネ・ヌーヴォXにて公開。アップリンク京都では9月17日(土)より公開。

https://stay-film.com/

(C)東京藝術大学大学院映像研究科


■文化庁委託事業『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』

2022年2月に、東京、名古屋、大阪にて一般公開予定。

http://www.vipo-ndjc.jp/