井之脇海、初主演作は「ピアノと一緒だから乗り越えられた」と感無量。 『ミュジコフィリア』完成披露試写会舞台挨拶を開催。


 数多くのファンを持つ漫画家・さそうあきらによる、音楽への深い愛情と知識に裏打ちされた<音楽シリーズ三部作>の完結作が、全編京都ロケで映画化。『太秦ライムライト』脚本、プロデュースの大野裕之と、『時をかける少女』(10)の谷口正晃監督がタッグを組み、古都の佇まいの中で、自分たちの音楽を求めて葛藤する学生たちとその成長を描いた青春群像劇、『ミュジコフィリア』が11月12日(金)より京都先行公開、11月19日(金)より全国順次公開される。



 その世界初上映となる完成披露試写会が9月30日(木)撮影地の京都にあるTOHOシネマズ二条にて開催され、上映前に漆原朔役の井之脇海、浪花凪役の松本穂香、貴志野大成役の山崎育三郎、谷口正晃監督が登壇、脚本も手がけた大野裕之プロデューサーが司会をしての舞台挨拶が行われた。緊急事態宣言下で、席数を半分に減らしての完成披露試写だが、弦楽四重奏による厳かな演奏後に登壇した4人に大きな拍手が送られた。



■鴨川の中州でピアノ演奏を披露した井之脇、「京都の街に感謝している」

全編京都の撮影で、1ヶ月近く滞在したという井之脇は、「どのロケ地も歴史的な流れ、自然の中に時間を深く感じられる街。鴨川の中州で、(松本演じる)凪と演奏、歌を披露しましたが、こんな景色を見れているのは僕と松本さんしかいないと思い嬉しくて、京都の街に感謝している」と思い出を語った。

また大阪出身の松本は、京都の観光地ばかり足を運んでいたことを明かし、「初めて鴨川や大文字山など、撮影を通して京都の新しい面をみることができ幸せ」と同じく鴨川でのシーンが印象深かった様子。

一方、インドアでの撮影が多かった山崎は、「印象的なのは夜、泉涌寺の前で、指揮をしたのは圧巻。大きな演奏を聴きながら泉涌寺を浴びる。あそこのシーンは注目して観ていただきたい」

谷口監督は自身が京都で生まれ育ったことから、観光映画には絶対にしたくなかったと前置きしながら、「今回は音楽を志すアーティストたちが奏で、エネルギーをスパークさせるので、魅力のある場所で演奏シーンを撮りたいと思っていた。鴨川、泉涌寺、無鄰菴と素晴らしい場所で撮れ、俳優たちのスパークをより掻き立てることができた」と初めて映画撮影ができた名所が作品の力になっていることを明かした。



■井之脇が語る初主演のプレッシャーと「ピアノがあったから乗り越えられた」

子役時代からキャリアを重ね、15年以上の芸歴があるという井之脇は、初主演となる『ミュジコフィリア』の世界初上映に「感無量」と喜びを表現しながら、実は現場で口には出さなかったもののプレッシャーを感じていたと告白。

「12歳のとき、黒澤明監督の『トウキョウソナタ』で、初めてプロの現場の厳しさや自分の不甲斐なさを思い知り、この仕事を極めてみたいと思った。ピアノを弾く天才少年役だったので、ピアノと一緒にターニングポイントになる作品を乗り越えた。いつかは初主演作が来ると思っていたけれど、お話をいただいたときにピアノを弾く役で、ピアノは僕の人生に切っても切れないと思ったし、プレッシャーもピアノがあったから一緒に乗り越えられた」と人生の大きな飛躍を再びピアノと迎えることに運命的なものを感じていた様子。

 一方、天性の感性を持つ凪を演じた松本は、「感覚で生きている女の子の役。歌を歌ったり、ギターを弾いたりと私も初挑戦のことが多く、撮影中、井之脇さんに愚痴をこぼしたり気を許しあいながら、最後は楽しくやることができた」とコメント。劇中ではさらに現代音楽に合わせたダンスも披露しており、松本にとっても大きな挑戦のある作品となっている。



■朝ドラの“プリンス久志”を封印した山崎、「音楽家的な葛藤は共感」

 井之脇が演じる朔の異母兄で、天才作曲家の息子として父を超えることを目指し、ストイックに作曲に打ち込む大成を演じた山崎は、「僕とはキャラクターが違い、すごく孤独を感じ、自分の中に気持ちを押し込めて生きる人。朝ドラ『エール』撮影終了後だったので、プリンス久志を消して、笑わないように演じた。共感できない部分は多いが、音楽家的な葛藤は共感する部分を見出していたので面白い役」と大成の内面を分析。自分の音楽に対しコンプレックスを持ち、自分が考えている音楽以外が受け入れられない大成は「自分だけの音楽に苦しめられていた」。一方、山崎自身は、すでに終了したオーケストラとのコンサートで指揮者の先生と一緒に作り上げるのが音楽を作る上で大事だと実感したことを明かし、「大成はそれを忘れていたので、それを見つける旅なのではないか」と『ミュジコフィリア』での大成へ、まさに“エール”を送るかのようだった。



■台本を超えて魂でぶつかり合うシーン

印象に残っているシーンとして、井之脇が挙げたのは終盤での兄弟のぶつかり合い。

「理屈ではない部分でお芝居として繋がれた気がしたし、あの熱量は育三郎さんとふたりだからこそ作れた」と明かすと、山崎も「台本を読んだときはどういう風に表現しようかと思ったが、撮影で積み重ねてきたものが、台本を超えて魂でぶつかり合うのでぜひ注目してほしい」とふたりで撮影を懐かしむかのようにコメント。松本も「大成さんの苦しみやプレッシャーが溢れ出ているところは見ても共感するし、ぐっとくるシーンだと思う」と同意。

兄弟のシーンや前述の鴨川のシーンに加え、谷口監督が挙げたのは、「凪がピアノの下からにょきっと顔を出す、原作でもある表現。やもすると漫画的な表現も抑制しすぎないほうがいいなと思ってやってみたら、リアリズムというより弾んだ感じがうまくいった。このシーンもこれで(映画が)いけると手応えがあった」



■「生き方と芸術が切り離せないもの」、京都で現代音楽を描く

 原作の魅力について谷口監督は「色々な音楽、とりわけ現代音楽に光が当てられている。ちょっと遠くのものとして見ていたが、現代音楽をやる人たちの『こだわりや美意識があり、人がなんと言おうと自分のいいものをやる』というあり様や、東京がどうであれうちはうちだという京都人気質にも通じる。古典的なものもありながら、革新的なものも生まれ出す。そんな現代音楽を京都で描くのはすとんと腑に落ちて面白い」と現代音楽と京都の親和性を力説。さらに、「音楽をやる人たちの表現だけでなく、人間の業、毒みたいなものを作り出すエネルギー。生き方と芸術が切り離せないものだと深く描かれていたので、映画でもそこを描くと深いものになると思った」と人間ドラマとしての厚みにも着目していたことを明かした。

最後に、

「ひょんなことから現代音楽部に入ることになり、凪や大成と出会う中で混じり、ぶつかりあい、朔の閉じていた扉が開いていく。今はコロナで人と人とがディスタンスのある時代だが、人と人とがぶつかり、はじけることで新しいものが生まれるエネルギーになり、人生が前に進んでいく。早くそういう日がくるのを祈っている」(谷口監督)

「音楽が題材になっているが、たいせいは人と交わることがないことで苦しむが、音楽も生きるのも同じで、人と寄り添うことで温かい気持ちになるのが、この映画のテーマ。一人で閉じこもらないで、映画館でぜひ京都の魅力が満載の作品を楽しんで」(山崎)

「不安が残る中で鬱憤が溜まっていると思うが、今日は純粋に映画を楽しんで帰ってもらったら」(松本)

「この映画は朔という主人公が、いろいろな人物や音楽を通して関係を深める様子が描かれている。また音楽について、才能のありなしについて悩んでいる人たちがたくさん登場するので、そういうことで悩んでいる人の背中を押すかもしれない。初主演で大切な作品なので、ぜひ多くの方にご覧いただきたい」(井之脇)

と挨拶し、舞台挨拶を締めくくった。



 自分の音楽、自然の中で紡ぐ音楽、みんなで奏でる音楽、父を超える音楽…様々な音楽が登場するなか、真に心を動かされる音楽は、演奏者自身が心を開いていなくては奏でられない。悪戦苦闘しながらも、愚直に音楽に向き合い、壁を越えようとする若者たちを京都の街が優しく包む青春群像劇。ぜひ、劇場でその真髄を堪能してほしい。

(江口由美)



<作品情報>

『ミュジコフォリア』

監督:谷口正晃

原作:さそうあきら「ミュジコフィリア」(双葉社刊)

脚本・プロデューサー:大野裕之

出演:井之脇海 松本穂香 川添野愛 阿部進之介 縄田カノン 多井一晃 喜多乃愛 中島ボイル 佐藤都輝子 石丸幹二 辰巳琢郎 茂山逸平 大塚まさじ 杉本彩/きたやまおさむ 栗塚旭 濱田マリ 神野三鈴 山崎育三郎

主題歌:松本穂香「小石のうた」(詞・曲:日食なつこ)

主題ピアノ曲:古後公隆「あかつき」「いのち」

2021年11月12日(金)より京都先行公開、11月19日(金)より全国順次公開

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