『美しい星』 究極の疑似家族SF物語!ぶっとび感が楽しい

三島由紀夫が1962年に発表した異色のSF小説をいつかは映画化したいと願っていた吉田大八監督。普通の家族が突然宇宙人に覚醒するという一見とんでもない物語だが、当時はソ連の水爆実験が行われ、作品にも人類の滅亡と救済の意が込められていた。

吉田監督は様々なアレンジを加え、現代版『美しい星』を映画で表現。予報が当たらなくても気にしない天気予報士、大杉重一郎(リリー・フランキー)を父に、ネットワークビジネスにハマっていく専業主婦の妻伊余子(中嶋朋子)、美しすぎていつも孤独な長女暁子(橋本愛)、フリーターの長男一雄(亀梨和也)の4人家族が、それぞれ覚醒していく様と、覚醒の先に起こる出来事が軽快に描かれる。

原作では宇宙人になる伊余子が地球人のままというのも吉田監督オリジナルのアレンジ。ただ、他の誰よりもヤバイ感が満載、ネットワークビジネスで一気に表彰されるまでに登りつめ、自信たっぷり、引くに引けないところまできてしまった伊余子は宇宙人ではないまでも、一番モンスターっぽい。

地球のことを一番考えなければならない地球人がこの有様な一方、火星人に覚醒した重一郎は地球を救う一心で、温暖化している地球の危機について天気予報コーナーのオンエア中に熱弁をふるう。そして最後の決めは、脚をクロスしたバンザイポーズ。仮面ライダーの変身ポーズ並のインパクトで、地球人の時と見た目は全く変わらないじゃん!みたいなツッコミを入れようがないぐらい、宇宙人っぽさが滲み出る。美しすぎる女子大生暁子の堂々とした変身ポーズと、突然のミスコン参加宣言(地球人時代は断固拒否)、突然のご懐妊と、不思議現象が次々起こる中、佐々木蔵之介演じる政治家秘書の水星人と重一郎が、宇宙人同士の一騎打ち。そんな重一郎を見守る家族は、実は生まれた星が全然違う疑似家族というのは皮肉である一方、生まれ違うけれど家族の中で父、母、娘、息子という役割は普遍的なものなのだ。

家族のため、地球のため闘う重一郎をはじめ、地球を外の目から眺める宇宙人たちを、コスプレすることなく描いた地続きSF。ぶっとび感満載だけど、常識の向こう側へ飛んでいったような飛躍感があり、そしてなんか面白い。そんな一言では言い表せない味がある。