『台北ストーリー』甦る80年代半ばの台北と、キャリアウーマンの登場

私はリアルタイムでエドワード・ヤン監督の作品を観たことがなかったのだけれど、デジタル技術のおかげで、今年は幻の傑作と呼ばれて久しかった3時間56分の大作『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』4Kレストア・デジタルリマスター版が公開。そして、日本未公開だったホウ・シャオシェン監督唯一の主演作『台北ストーリー』も時を同じくして観ることができ、とても幸せな気分でいる。


タイトルの通り、この物語のもう一つの主役は80年代前半の台北の街。急成長を遂げ、変容していく台北の街が車窓から、また屋上からと様々なショットで流れるように映し出される。ビルの屋上から眺める「FUJI FILM」の大ネオンのショットは、小津作品に度々登場する当時の街のネオンショットとも重なる気もしてとても印象的だ。


そして、『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』では全編に渡って感じた闇の描写のすばらしさ。『台北ストーリー』ではラストにかけて、真っ暗の中、車のヘッドライトだけが唯一の灯となり、スクリーンのなかでスッと流れていく。闇をきちんと描く作品は名作が多いけれど、この作品もその闇が魅力的で、かつ一抹の不吉さを醸し出す。


それにしても、本作のヒロインを演じるツァイ・チンのクールなこと!まだ若い(30歳前後)はずだが、自立している女の逞しさがある。日本でも80年代は雇用機会均等法が施行され、キャリアウーマンという言葉が一般的となってきた時代だが、キリリと働くキャリアウーマンが登場していたのは台湾でも同じだったんだなと、そんな点も新鮮に感じた。何度見ても味わい深いエドワード・ヤン監督作品、大阪のシネ・ヌーヴォでは今なら『台北ストーリー』とその次に撮られた傑作『恐怖分子』を続けて鑑賞できるスケジュールになっている。60年代初頭を描いた『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』の次は、80年代半ばを描いた『台北ストーリー』&『恐怖分子』で、台湾の歴史の流れ、しいてはその中に映り込む日本の影響の変化も感じ取れることだろう。