『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』こんなハイトーンの池松壮亮、見たことない!

これもまた、夜のシーンがとても印象的な映画だ。月を見ながら都会の片隅で孤独を感じて生きる二人が、不器用に言葉を交わす。ラブストーリーだけど、ラブストーリーらしくない。むしろ、群像劇のように、池松壮亮演じる日雇い労働者の慎二と年齢も国籍も違う仲間たちとのささやかな日常や絶望が、時には微笑ましく、時には切実に描かれている。このあたりは脚本も手がけた石井裕也監督の目線が入っているような気がする。主人公の二人、その二人を取り巻く人々から今の東京を描いていく。原作の詩の言葉を散りばめながら、リアリティーのある人間がしっかりそこにいて、ふわりともすれば、ちょっと角田光代の小説を読んでいるようなヒリヒリ感がある。その塩梅がとてもいい。


夜はガールズバーで働く看護師、美香役の本作が初主演となる石橋静河は、芯が強く、独特の存在感がある。そんな石橋静河をしっかり支えるのが、相手役となる池松くん。『半分の月がのぼる空』(10)からずっといい俳優さんだなと思って見続けているけど、毎回違和感なく役に入り込み、どんな小さい役でも痕跡を残す若き職人。でもこの作品は、かなり必死な雰囲気が出ていた。第一声のびっくりするぐらいのハイトーンと早口に、本当に驚いたし。弱視もあり、自分に自信がない慎二の、どこか落ち着きがない様子と共に、登場シーンでそのキャラクターを見事に印象付けた。


弱者に対する目配り、そのだらしなさを愛おしく映し出す石井監督。同じ大阪芸大出身の山下敦弘監督もダメな人間を独特のトーンで描き続け、いつもどこかほっとさせられるのだけど、それに通じる人間臭さも感じて、石井監督にとってもちょっと突き抜けた作品になったのではないかな。