アメリカン・インディーズの新しい流れ「マンブルコア派」とは?グレタ・ガーウィヴ主演『ハンナだけど、生きていく!』を紐解く@Cinematic Skóla vol.1大寺眞輔氏特別講義前編
Cinematic Skóla ~シネマティック・スコーラ~ vol.1 “Independent”が6月3日(土)関西大学梅田キャンパスで開催され、グレタ・ガーウィヴ主演作『ハンナだけど、生きていく!』(07)上映と、同作を配給し字幕も担当したIndieTokyo主宰の大寺眞輔さんによる特別講義「字幕~配給、映画が上映されるまで」が開催されました。
もてないこじらせ女子役のイメージが強いグレタ・ガーウィグが、モテモテなのに頭の中がグルグルして自分を持て余してしまう女子をパワフルに演じた青春映画。ドキュメンタリータッチの映像と、些細な会話の連続、私たちの生活と地続きの等身大の女子ライフなど、大ヒットした『フランシス・ハ』(13)の原点と言われているのも納得のアメリカインディーズ作品。サラリと全裸になってもいやらしくないのも、演技というより、超自然体だから。調子っぱずれのホーン系の音で始まるオープニングが、ちゃんとラストにつながるのですが、そのシーンもなかなか斬新。緩いのにセンセーショナル、そんな作品でした。
上映後に登壇したのは映画批評家、IndieTokyo主宰の大寺眞輔さん。
関西出身でありながら、「関西弁で話すと映画のことを語れなくなる」と、映画スイッチを入れるために標準語でトークを開始!
今回上映した『ハンナだけど、生きていく!』は、字幕、予告編も大寺さんが手がけ、上映も自分たちで行った、まさにDIYによる配給、上映でした。学生時代からカイエ・デュ・シネマ・ジャポンで映画批評家として活動していた大寺さんが自分で配給、上映するに至った経緯をまずは語ってくださいました。
■自分たちの観たい映画が上映されない時代だからこそ、ヌーヴェルヴァーグのような「観たい人が活動を個人で行う」インディペンデントの配給・上映を手掛ける。
「映画業界全体が上手くいかなくなってきている中、ミニシアターの閉鎖、上質な作品を配給してきた会社の倒産など、自分たちの観たい映画が上映されない状況が年々強まっている。東京でも映画館が減少、スクリーン数は減っていないが、上映される映画が均一かつヒット作ばかり。ある程度実績が見込める映画ばかり上映しているので、一部の人間は好きだが、興行的にみるとキツイような知名度のない作品の上映環境はとても厳しい。海外映画祭でグランプリを取った作品でも上映されないので、そういう作品を上映するときに従来の形では無理。結局は、観たい人間がインディペンデントで上映するしかない」とその経緯を説明。このインディペンデントでの配給・上映活動はヌーヴェルヴァーグ運動と連なっているとしながら、「ヌーヴェルヴァーグはあまりにも神格化されてしまっているが、その気分的なものを伝える意味でも、それをアメリカでやっている活動(マンブルコア)から生まれた作品『ハンナだけど、生きていく!』を配給作品に選んだ」とのこと。 さらに詳しく、『ハンナだけど、生きていく!』について、第1回配給作品に選んだ理由が語られました。
■マンブルコア派オールスターズによる『ハンナだけど、生きていく!』
「『ハンナだけど、生きていく!』は、ジョー・スワンバーグ監督を筆頭としたアメリカ・インディペンデント映画のマンブルコア派オールスターズが集結した作品で、カンヌ国際映画祭でもとても評判の作品だった」と前置きしながら、「ローファイでカジュアルな感覚を特徴としたゼロ世代アメリカ・インディペンデント世代を総称した言葉」というマンブルコア派の意味や、特徴について解説してくださいました。
<マンブルコアとは?>
・語源
元来「マンブルコア」とは「モゴモゴとつぶやく」という意味。何を言っているか分からないとむしろディスられ用語として00年代中盤から出てきた言葉。
・作品の特徴
ヌーヴェルヴァーグや、ラース・フォン・トリアーらによって始められたドグマ95に影響を受けている。具体的には自然主義、CGを使わない、集団的に映画を撮るなどが挙げられる。ちなみに、ドグマ95は、初めてデジタルテクノロジーを使って映画を作り、特徴的なことをしているため、今でもアメリカの撮影監督に大きな影響を与えている。また、マンブルコアの大きな特徴として低予算であること、そして「なんでも自分でやってみよう」というDIYスピリットを発揮した作品が多いことも挙げられる。
・名づけ親
マンブルコア派の名付け親は、『ハンナだけど、生きていく!』でポールを演じたアンドリュー・バジャルスキー。君たちの世代はどういう世代?と聞かれて答えたことがマンブルコアのはじまりで、大寺さん曰く「何か名前を付けることで、新しい現象ができている」。
・影響を受けた映画監督
ウディ・アレンやジョン・カザヴェデスの影響が感じられるマンブルコア派の作品。自分たちの家で仲間を集めて撮影するというところは、ジョン・カザヴェデスの手法であるし、とにかくよくしゃべるというミレニアム世代の特色、つまり自分たちの得意なことを映画にしようという理念を持ち、それを映画に活かしているあたりはウディ・アレンっぽさがある。
■デジタル技術の恩恵を受けた体予算の映画制作、マンブルコア派作品の特徴
「マンブルコア派は素人役者たちによって即興的に演じられる自然主義的な作風。お金がないけれど映画を作りたいし、映画を作るには楽しんでもらわなければいけない。だから、自分たちの得意技がおもしろければいいよねという発想に結び付いている」という大寺さん。マンブルコア派作品、および『ハンナだけど、生きていく!』の特徴として、
・台詞回しのリアルさ :脚本にグレタ・ガーウィグがクレジットされているが、ほとんど現場で即興的に会話が行われていたため。
・非因習的物語構造で語られる現代の若者像 :会話に山やオチがないのが逆にリアルと捉えられる。
・現実のロケーション :監督が借りた部屋にキャストが泊まり込みサマーキャンプのような形で撮影している。
・劇伴音楽の少なさ :自分で演奏するならいいが(本作では登場人物がトランペットを演奏)、映画制作で音楽と人件費が一番お金がかかるところに起因している。
・白黒映像 :ヌーヴェルヴァーグへのオマージュ。
「身の回りにあるおもしろい物でも、白黒にすることでフィクション的な違うものに感じさせる効果がある」 と挙げた大寺さん。「お互いの作品に出演しながら映画制作をし、その中から有名な映画俳優が出てくる。映画ってこういうものと思わされ、美しい」とその活動が映画界に与える影響を表現されました。
■アメリカインディーズシーンを語るに欠かせない映画祭「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)での出会いがマンブルコア派集結の『ハンナだけど、生きていく!』へ
アメリカンインディーズ映画を語る上で欠かせないサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)。元々は音楽フェスでTwitterやデジタルテクノロジーもここからブレイクしたというユニークなフェスで、後に映画コーナーができたと説明しながら、「2作目の『LOL』(06)でSXSWにジョー・スワンバーグ監督が参加し、ここでグレタ・ガーウィグに出会ったのが始まり」と大寺さん。本作に登場したキャストたちの活躍ぶりを紹介してくれました。
◎ジョー・スワンバーグ
ミシガン州デトロイト生まれの36歳。1年で7本も撮るほどの多作だが、友達同士で撮っているので、キャストにほとんどお金がかかっておらず、ボランティアでお互い友達の映画に出演している。 TIFFで上映された『ドリンキング・バディーズ』(13)に出演のアナ・ケンドリックも、マンブルコア派から頭角を現した女優。レナ・ダラムと女性版ウディ・アレンともいえる『ハッピー・クリスマス』(14)で共演している。
◎グレタ・ガーヴィグ
本作では監督のジョー・スワンバーグと撮影中に相当喧嘩をしていたそう。全然性格が違う監督と女優から生まれた映画になった。グレタの夢は「クリント・イーストウッドになること」と、かなり向上心が強い。
◎アンドリュー・バジャルスキー
ポール役のアンドリュー・バジャルスキーは映画監督として『Funny Ha Ha』(02)、『Comptuter Chess』(12)を発表している。 『Comptuter Chess』はAIの創世期のオタクを映画にした物語。「身の回りにあるちょっと変な題材も白黒映像にすると当時の雰囲気がでる。今のオタクではなく、80年代のオタクなので、少し距離があって映画にしやすい。題材は身近な、ちょっとこだわりのあるところに転がっているといういいお手本」(大寺さん)
◎ジェイ&マーク・デュプラス
無職になって振られてしまう男、マイクを演じたマーク・デュプラスは、兄のジェイ・デュプラスと共に面白いコメディーを作っている。
◎アレックス・ロス・ペリー
主人公が延々しゃべって、自意識が強くで堂々巡りするような、ちょっとヘンな映画を撮っている。
後編では、いよいよ「映画をインディペンデントに上映するには」をご紹介します!
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